一貫計算設定の応力計算条件の中に非剛床に関する設定があります。
部材の応力や変形量が大きく変わり、時には建物の安全性を左右することもあります。非剛床の設定はよく使用する設定でもあるので、十分に理解しておく必要があります。
今回の記事では非剛床の扱いに絞った留意点について書いていきます。
①どんなときに非剛床?
まずは、簡単にどんなときに非剛床の設定を使用するのかについて見ていきます。
剛床仮定を導入すると、同じ階にある柱や壁などの部材の上部は、床によってがっちりと繋がれていると見なされます。鉄筋コンクリート造のスラブは非常に高い剛性を持っています。そのため、剛床仮定は多くの場合、現実の挙動に近い合理的な仮定と言えます。
これにより、その階の水平方向の動きは、床全体の平行移動と回転だけで表現できるようになります。つまり、床の上の各点の位置関係は変わらないまま、建物が変形するということです。
ただし、これはあくまで二次元的な平面での話です。実際の三次元の立体解析では、建物の重心と剛性の中心(剛心)がずれていると「ねじれ」が生じます。このねじれによる変形が加わるため、最終的に各部分の変位量は異なりますが、「床は変形しない」という基本的な考え方が根底にあります。また、この仮定では、水平部材である梁の軸方向の剛性(伸び縮みに対する抵抗)は無限大と見なされます。
以上のような条件を満足しないような、床の剛性が低い、あるいは特殊な構造を持つ場合には、剛床仮定が成り立たず、「非剛床」として扱う必要があります。
- 床の水平剛性が低い場合: 金属折板屋根や縞鋼板のバルコニーなど、面としての剛性が期待できない床です。
- スラスト(水平力)が生じる場合: 山形ラーメンのように、屋根の形状によって外側に開こうとする水平力が発生する構造です。剛床仮定ではこの変形が拘束されてしまうため、実際の挙動を再現できません。
- 大きな吹き抜けがある場合: 吹き抜けによって床が分断されている部分は、一体となって動くことができないため、非剛床として扱います。
- トラス梁を使用する場合: 剛床仮定では梁の軸剛性が無限大と見なされるため、弦材の伸び縮みによって成り立つトラス梁の変形を正しく評価できなくなります。
以下の記事で詳細な内容と具体的な事例をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
参考:構造解析のモデル化の基本~剛床仮定とはなにか/非剛床の事例
②非剛床としたときに設定すること
剛床としている場合には、具体的な数値の考え方として梁の軸剛性は無限という仮定になるし、梁の面外方向の剛性も無限ということになります。
非剛床とすることでこの設定が適用されないことになるので、梁の軸方向と面外方向の曲げ剛性を評価する必要が出てきます。
これが応力計算条件の中に出てくる設定になります。鉛直荷重時と水平荷重時のそれぞれで設定することができるようになっています。剛性を考慮しない、実断面、変形しない(剛床時と同じ)の3種類から選択することができるようになっています。
しかし、この設定だけでは正確に評価できないため、個別で実断面に対しての剛性増大率を設定することができます。具体的にはどのようなときに使用するかというと吹き抜けに面している場合に片方向に片持ちスラブが付いている場合には、剛性が大きく変わってきます。
当然梁の剛性の設定以外には、水平ブレースのような面剛性を持たせる部材を配置している場合には一貫計算上も設定して計算する必要があります。
鉛直ブレースを設置するときと同様に圧縮側にも考慮するのかを踏まえて水平剛性が高くなりすぎないように適切にモデル化しましょう。応力図を見て引張力と圧縮力を確認は忘れずに行いましょう。
③面外方向の応力の扱い
現在の一貫計算ソフトの中では、面外方向の応力(床の面に対して垂直方向の応力)計算もしてくれます。ただし、面外方向に対しては断面算定はしてくれません。また、面外方向の応力図についても一般的な出力とは別に設定をしないと出力しないと確認できません。
そのため、ワーニングメッセージも表示されないため、当たり前のことですが、設計者が主体的に確認する必要があります。
確認する中での留意点になりますが、現状の一貫計算での面外方向の応力計算は弾性計算になります。そのため一次設計の際には問題はないのですが、二次設計の際には他の部材の剛性が低下していく中で、弾性剛性が維持されるので梁端部で非常に大きな応力が発生することがあります。
特に前述したような片持ちスラブが取り付く場合には面外方向の剛性が非常に大きくなるため要注意です。この場合にはスラブも含めた断面で耐力を持たせるという考え方もあります。
二次設計時の応力(Ds算定時も含めて)に対して許容応力度設計ができてしまえば計算仮定との違いはないので、問題ありませんが、許容応力度設計の範囲を大きく超える場合には、面外方向に曲げヒンジ(塑性ヒンジ)が発生することを想定する、という考え方もあります。
そうすることで部材単体に対しては辻褄が合いますが、架構全体としては塑性化することで面外方向の剛性低下が考慮できていないので、別途剛性低下を見込んだモデルを作るなどして検討するなどが必要になります。
すべてを細かく設定して計算する必要はないかもしれませんが、どのような仮定になっていて実際にどのような損傷が生じる可能性があるのかを考えて適切な安全率を持たせましょう。
最後になりますが面外方向の応力に対応する補強材については特殊な内容となるので、図面には見やすく記載して、現場の担当者に意図が正確に伝わるよう、分かりやすく図面に記載しましょう。
まとめ:安全な構造設計は、適切な「仮定」の理解から
今回は、一貫計算における「非剛床」設定の考え方と、実務上の留意点について解説しました。
重要なポイントは以下の3点です。
①非剛床とすべきケースを正しく判断すること
②梁の剛性や水平ブレースを適切にモデル化すること
③「面外方向の応力」を設計者自身が主体的に確認
一貫計算は非常に便利なツールですが、面外方向については一般的な計算内容ほど細かく対応していないことを知った上で適切に対応するようにしましょう。
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