【わかりやすい構造設計】一貫計算設定の考え方~モデルの基本構成と剛性・応力計算条件

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一貫計算ソフトには数多くの条件設定項目があります。これらの設定は、計算結果に与える影響の度合いが状況によって変わるため、その影響度を理解した上で設定することが重要です。

デフォルト設定のままでも計算結果は得られますが、それでは実際の建物の挙動と計算結果が乖離してしまう可能性があります。

この『一貫計算設定の考え方』シリーズでは、一貫計算における一般的な設定項目の中から、特に迷いやすい部分を解説していきます。

今回の記事では、モデルの基本構成、剛性計算、応力計算に関わる内容について解説します。

※主に使用しているソフトがユニオンシステムのSuper Build/SS7であるため、一部の表現が同ソフトに寄ったものになりますが、他のソフトでも共通する内容です。

目次

①基本事項

・構造種別

構造計算における「構造種別」は、主に構造計算ルートの判定と、地震力算定に用いる固有周期の係数(木造の0.03か、それ以外の0.02か)を決定するための重要な情報です 。混構造の場合は、耐震要素や地震時の挙動を最も支配する構造種別を選択する必要があります。

・高さ/レベル

階高や部材レベルは、建物を線材にモデル化する上で不可欠な情報です 。詳細な入力も可能ですが、線材モデルの原理を理解し、計算結果への影響度を考慮した上で、モデルを簡略化し効率化を図ることも大切です。これにより、設計の本質的な部分に集中できます。

参考:線材モデルについてとモデル化の目的

・ダミー層とは?

ダミー層はスキップフロアなどの複雑な床レベルをモデル化する際に使用します 。通常層とは別の剛床として扱われますが、「階」としては認識されず、地震力や保有水平耐力の算定対象外となります 。そのため、どの通常層に属させるかを定義する必要があります 。

応力解析ではダミー層もモデル化の対象となりますが、剛床範囲の設定には注意が必要です 。特に、ダミー層によって柱の中間に節点が生じる場合、剛床仮定を適切に解除しないと、柱に不自然な応力が発生する原因となります 。

参考:間違え探し⑤(吹抜け部の剛床)

②剛性計算条件

・雑壁スラブを考慮した断面2次モーメントの計算方法

断面2次モーメントの計算方法は、精算法と略算法の2通りがあり、略算法の中には4パターンの方法があります。部材によっては計算方法によって2倍以上のオーダーで数値が変わってきます。

ユニオンシステム Super Build/SS7 解説書 入力編より引用

どの設定が唯一の正解ということはなく、建物の特性(靭性型か強度型かなど)に応じて適切な方法を選択する必要があります。設計の途中で設定を変更すると結果が大きく変動し、手戻りの原因となるため、設計の初期段階で方針を固めておくことが重要です。決める際には以下の記事を参考にしてください。

参考:剛性評価/相対性の評価が重要

・剛性に考慮する部材

パラペット、片持ち床、外部袖壁、鉄筋・鉄骨などの剛性を考慮するかどうかを選択できます 。実態に近いモデル化という観点では、パラペットの剛性考慮は必須と言えるでしょう。片持ち床や外部袖壁についても、規模や形状によりますが、基本的には考慮することが無難です。

鉄筋・鉄骨ついては少し数値合わせ的な考えになるかもしれませんが、初期は段階は考慮しておかないで、実施設計終盤で必要に応じて考慮するのがよいと思います。

前段の参考記事の中にも記載していますが、剛性は想定的な関係が大事なので、全体の部材に影響のある鉄筋の剛性を考慮しても応力はほとんど変化することなく、剛性だけを高めることができます。保有水平耐力が変形(剛性)で決まっているときに、終盤で荷重が増えて保有水平耐力が不足したときに1~2%耐力を補ってくれます。なので最後の余力として取っておくと手戻りを防げます。

なお、鉄筋コンクリート構造計算規準(RC規準)の8条では、鉄筋の剛性を考慮した方が実測値との対応が良いとされています 。

・S梁のスラブの剛性

RC梁ではスラブと一体でT形断面として評価されますが、S梁は材料が異なるため評価方法も異なります 。S梁では、床スラブによる断面2次モーメントの増大を考慮するかを選択できます 。正曲げ(スラブが圧縮側)と負曲げ(スラブが引張側)で剛性が変わりますが、応力状態としては正曲げと負曲げで半分づつになることから、主に平均値を採用する方法が採用されています。

③応力計算条件

・柱の軸変形の考慮

柱の軸変形の有無というのは構造解析技術の進化を理解しておく必要のある内容です。手計算時代(固定モーメント法)には少しでも未知数を減らすために軸変形は考慮していませんでしたが、立体解析となることで考慮できるようになりました。背景としては剛床仮定に似ている部分です。

参考:剛床仮定とはなにか/非剛床の事例

ただし、立体解析で考慮される軸変形は、完成した建物に一括で荷重がかかるという仮定に基づいています。実際の施工では段階的に荷重が作用するため、特に高層のRC造建物などでは、計算上の変形と実際の変形に差異が生じることがあります。

この背景を理解した上で、軸変形を「考慮する/しない」の両方のケースを検討し、結果を比較して適切な設定を判断したり、安全率を適切に設定したりすることが実務上のポイントとなります。

参考:幅を持って安全性をデザインしていく~両極端を把握する

・支点の浮き上がりとは?

一次設計における「支点の浮き上がり」とは、地震時などの短期荷重に対して、支点に引張力が発生する現象を指します。一次設計では、原則として浮き上がりが発生しないように設計します。

浮き上がりをしないというのは、直接基礎であれば自重以下に浮き上がり力を抑える、杭基礎であれば自重+杭の引抜き耐力以下に浮き上がり力を抑えることになります。

浮き上がりと判定された場合に、その支点を取り除いて(浮き上がり耐力が自動的に0kNに設定)再度計算を実行します。周辺部材に力を流すこと(直交方向の梁など)で浮き上がる支点がなくなるまで繰り返し計算を行います。

2次設計での浮き上がりに対する考え方は異なってくるため、2次設計用に別途設定することができます。

まとめ:設定の「意味」を知り、ブラックボックス化を防ぐ

今回の記事では、一貫計算ソフトの設定における「基本構成」「剛性」「応力」の3つの視点から、実務的な判断ポイントを解説しました。 「計算が流れること」と「正しいモデルであること」は別物です。以下の3点を意識して設定を行いましょう。

  • 剛性評価の戦略を持つ: 断面2次モーメントの計算方法(精算・略算)は結果を大きく左右します。また、鉄筋の剛性考慮を「最後の切り札(予備耐力)」として残しておくなど、手戻りを防ぐ戦略的な設定が有効です。
  • ダミー層の落とし穴: スキップフロアなどでダミー層を使う際は、「剛床仮定」に注意が必要です。柱の中間に節点ができる場合、適切に剛床を解除しないと、現実とは異なる不自然な応力集中を招きます。
  • 解析と現実のギャップ: 柱の軸変形を考慮する立体解析は高度ですが、「一括で荷重がかかる」という解析上の仮定と、「徐々に積み上がる」という施工の現実は異なります。高層RCなどでは、両方のケース(考慮する/しない)を比較検討する視野の広さが求められます。

これらの設定の意図と影響を理解することで、構造計算の『精度のレベル』を把握できます。何でも詳細に入力するのではなく、計算の本質を見極め、適切なモデル化を行うことが重要です。

逆に、建物の形状を正確に入力しても、計算上のルールを理解していないと実態と合わない、誤った結果を導き出してしまう可能性があることを忘れないでください。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 断面2次モーメント(剛性)の計算において、雑壁やスラブの影響を考慮する方法として「精算法」や「略算法」があるが、これらは計算精度の違いこそあれ、最終的な数値のオーダー(桁)が変わるほどの大きな差が出ることはないため、初期設定のまま進めても問題ない。

解答1:× 解説: 計算方法(精算法・略算法の選択)によって、断面2次モーメントの数値は2倍以上のオーダーで変わることがあります。これは応力分布や固有周期に多大な影響を与えるため、「とりあえずデフォルト」ではなく、建物の特性に合わせて初期段階で明確な方針を決めておく必要があります。

問題2 スキップフロアなどをモデル化するために「ダミー層」を設定した場合、その層にある節点は自動的に通常の剛床(水平変位が同一)として扱われる設定になっていることが多いため、柱の中間に節点がある場合などは、意図しない応力発生を防ぐために剛床仮定を解除する等の検討が必要である。

解答2:〇 解説: ダミー層を設定すると、ソフトによってはデフォルトでそのレベルに剛床が設定されます。柱の途中に節点があり、そこが剛床で拘束されると、地震時にその節点が無理やり水平移動させられ、柱に巨大なせん断力が発生するなどのエラー要因となります。実態に合わせて剛床解除(非剛床)の設定が必要です。

問題3 一貫計算における立体解析では、柱の「軸変形(縮み)」を考慮することができるが、これは建物完成後に一括で荷重がかかるモデルであり、施工中に徐々に荷重がかかる現実とは異なる場合があるため、特に高層建物などでは「考慮する」「考慮しない」の両方を比較検討することが望ましい。

解答3:〇 解説: 解析上は「瞬時に全荷重が載る」ため、上層階ほど柱の縮みによる累積変形の影響が出やすくなります。しかし、実際には下層階が固まってから上層階を作るため、解析ほどの変形差が出ないこともあります。このギャップを理解し、安全側になるよう両方のケースを確認するのが実務的な対応です。

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