鉄骨造の場合には基本的にはスラブを施工するためにはデッキ型枠を使用します。RC造の場合にもスラブ型枠や支保工作業を減らすためにデッキ型枠を使用します。
また一言にデッキと言ってもフラットなモノから山型のモノ、鉄筋があらかじめ付いているもの付いていないものがあります。
これらの特徴を知って、構造設計上だけでなく、現場での施工性を踏まえて最適な仕様を設定していく必要があります。
今回の記事ではデッキの特徴を知って最適な使い分けができるように解説していきます。
メーカーによって細かな数値や仕様の違いがあるので具体的な数値は示さずに確認する視点を示した内容になっています。なので、必ず採用する工法の認定条件を確認するようにしてください。
①デッキスラブの分類と特徴
まずは大きく分けて、「捨て型枠デッキ」と「合成デッキ」に分かれます。
1. 捨て型枠としてのデッキプレート
コンクリート硬化後は構造耐力上の役割を持たず、単なる型枠として機能するものです 。
- 形状がフラット(アイデッキ、Fデッキ等): 表面が平滑で、下階からの見た目がスッキリします。天井仕上げの省略や、直天井とする場合に適しています 。
- 形状が凹凸(キーストンデッキ・U形デッキ): 断面性能を稼ぎやすいですが、意匠的な配慮が必要です 。
- 鉄筋トラス筋付き(ファブデッキ、ニューフェローデッキ等): デッキプレートに最初から鉄筋トラスが溶接されているタイプです。型枠と配筋作業を同時に行えるメリットがあります 。
2. 構造体としてのデッキプレート(合成スラブ)
デッキプレート自体が、コンクリート硬化後も引張鉄筋として機能し、コンクリートと一体となって床を構成するものです(QLデッキ、Eデッキ等) 。
まずはこのような特徴を把握した上で最適な工法を選択することが可能になります。色々な製品がありますが、それぞれがどの分類に属しているのかを把握しましょう。
※一部メーカーのフラット形状でも合成機能を持つ認定品が存在しますが一般的には捨て型枠になります。
② 構造性能(荷重・剛性・耐火)から見る選定ポイント
・荷重が少なくなる使い方
合成デッキを使用することで、デッキの溝(リブ)部分のコンクリート容積が減り、かつデッキ自体が引張材を兼ねるため、一般的なRCスラブよりもコンクリート量を減らし、軽量化することが可能です。これにより長期荷重、地震力ともに部材負担が減り経済的な設計が可能になります。
その際に留意すべき点は、スラブの剛性や重量が小さくなることで床振動や遮音性能については低下する可能性がある点です。用途(住宅やホテルなど)によっては、あえて厚みを確保する検討も必要です。
・水平剛性・耐力も確保する
スラブは長期荷重を負担するだけではなく、他にも重要な役割があります。それは床の水平剛性・耐力があることで剛床仮定が成立したり、耐震要素まで力を流すことができます。
特に合成デッキの場合、デッキと梁を頭付きスタッドで接合することで水平構面を形成しますが、デッキの溝方向(スパン方向)と直交方向での力の伝達効率に注意が必要です。
・耐火認定を満足させる
合成スラブを採用する場合、最も重要なのが耐火認定です。
デッキの耐火性能は「スパン」「支持条件」「配筋・金網」「デッキ板厚・亜鉛めっき」「かぶり」「山上コンクリート厚」「開口補強」「貫通スリーブの制限」等が「1時間耐火」「2時間耐火」などの認定条件で細かく決まっています。
- 捨て型枠の場合:コンクリート単体で耐火性能を確保(スラブ厚の確保)する必要があります。
- 合成スラブの場合:認定番号に基づいたスパン、最小厚さ(例:デッキ山上+50mm以上など)や、ひび割れ拡大防止筋の仕様を守る必要があります 。
・ひび割れに対する配慮
合成スラブやデッキスラブは、支点上部(梁上)のスラブ上端で曲げモーメントが発生し、表面にひび割れが生じやすくなります。
「ひび割れ拡大防止筋」として、耐力上は不要であっても溶接金網や異形鉄筋(D10等)を適切に配置するかどうかは設計者が判断する必要があります 。特に厚さが100mmを超える場合は、表面から30mm程度のかぶり厚さを確保した位置に配筋を行う等の配慮が必要です 。
③ 施工段階を見据えた「スパン設定」と「現場対応」の留意点
・飛ばせるスパンの考え方(単純支持と連続支持の使い分けと落とし穴)
デッキプレート選定の最大のポイントとも言えるのが、「コンクリート打設時に、支保工なしでどれだけ飛ばせるか」です。 支保工を入れると、その分のコスト増に加え、下階での作業が制限されるため、基本的には支保工なしとなるように設計することが求められます。
メーカーカタログの「許容スパン表」を見ると、「単純支持」「連続支持」という項目があり、連続支持の方が長く飛ばせる数値になっています。このメカニズムと注意点を解説します。
許容スパンを見る際には仮設時(デッキ単体の性能)と実際の積載荷重を踏まえた構造スラブ(デッキ+スラブ)としてのスパンがあるので見間違えないようにしましょう。
1. 単純支持(1スパン・1枚使い)
最も基本的な使いかたです。1枚のデッキプレートが、2本の梁(支点)の上に単純に乗っている状態です。
- 特徴:
- デッキ中央部で「たわみ」と「曲げモーメント(正)」が最大になります。
- カタログの「単純支持」の許容スパン数値を参照します。
- メリット:
- 計算が単純で安全側の検討になります。
- デッキの定尺発注がしやすく、現場での振り分け(搬入計画)が容易です。
- デメリット:
- 連続支持に比べて、飛ばせるスパンが短くなります(たわみやすいため)。
- 小梁の本数が増える可能性があります。
2. 連続支持(2スパン以上・長尺使い)
1枚の長いデッキプレートを、中間の梁をまたいで敷き込む方法です(例:6mのデッキを、3.0mピッチの小梁3本の上に敷く)。
- 特徴:
- 中間の梁部分でデッキがつながっているため、端部の回転剛性があります。
- 中央のたわみが抑制され、単純支持よりも1.1〜1.2倍程度長いスパンを飛ばすことができます 。
- 構造的なメリット:
- 正の曲げモーメント(下側の引張)が減るため、同じデッキでもより広い小梁間隔が可能になります。
【重要】設計・施工上の注意点
- スパン長の扱い:許容スパンと言うのは単純支持であれば梁端部間の内法寸法になります。連続支持の場合には外端は梁端、内端側は梁芯とします。ちょっとした寸法の違いでデッキ仕様が変わってしまったり、適用外になってしまうこともあるので梁の寄りなどの細かい条件もしっかりと押さえるようにしましょう。
- 端部スパンの扱い: 建物全体で連続支持を想定していても、端っこのスパンだけは物理的に「単純支持」や「2スパン連続の端部」となることがあります。中央スパンの感覚で小梁ピッチを決めると、端のスパンだけ耐力が足りなくなるミスが起こりやすいです。
- 搬入長さの限界: 連続支持にするためにはデッキを長くする必要があります(例:スパン3mの3連続=9m)。しかし、現場周辺の道路事情や荷揚げリフトの制約で、6mまでしか搬入できない場合、物理的に「連続支持」が使えず「単純支持」扱いとなり、スパン不足に陥ることがあります。
カタログを見る際は、ただ数値を見るだけでなく、「現場にその長さのデッキが入るか?」「本当に現場でその通りに連続して敷けるか?」をイメージして、単純か連続かを選択してください。EVや階段、設備シャフトのような床開口がある周辺は連続支持ができないため注意が必要です。イレギュラー部分においては小梁のピッチを短くするなどの配慮をするようにしましょう。
・現場作業を少なくする使い方
鉄筋トラス付きデッキ(ファブデッキ等)を採用すると、支保工の設置がなくなるだけでなく下端筋が既にデッキに組み込まれているため、現場での配筋手間が劇的に減ります。
特に、工期が厳しい現場や、配筋検査の手間を省きたい(工業化製品のため品質が安定している)場合に有効です。また、下端筋のかぶり厚さが確実に確保されるメリットもあります。
鉄筋トラス付きのデッキの中でもいくつかの種類があり、その中でも工法によっては配力側も先付けされているなどの違いがあります。なので採用する工法を決定する際にデッキだけの見積で検討してしまうと配筋の見込まれている範囲が異なり、デッキの見積もりは安いけど現場の配筋工事費は高くなるということがあります。
・床開口がある場合の留意点
鉄筋トラス付きや合成デッキの場合にはコンクリートと一体になる以前に開口を設けてしまうと、コンクリートの打設時に必要な性能を持ち合わせていないことになったり、鉄筋や山谷の位置によっては開口を設けたい位置に配置できないといったことがあります。床開口が多い箇所についてはフラットデッキにしておく方が調整はしやすくなります。
認定工法の範囲内であれば、所定の補強筋を入れることで対応可能な場合もありますが、事前の検討が不可欠です。
まとめ
今回は、デッキスラブの種類から、構造設計上の留意点、そして施工時のポイントまでを解説しました。
デッキプレートは単なる「床の型枠」ではなく、建物の軽量化、耐震性能、そして現場の施工スピードやコストに直結する重要な部材です。 「いつもの仕様だから」と機械的に選定するのではなく、以下の3つの視点を持って最適な一枚を選定してみてください。
- 目的の明確化: 捨て型枠で良いのか、合成スラブとして荷重を減らすのか。
- 性能の確保: 耐火認定や床剛性、ひび割れ対策は十分か。
- 現場の想像: そのスパンで本当に搬入・施工ができるか、開口や配筋の納まりに無理はないか。
これらをバランスよく検討することで、構造的にも経済的にも、そして施工的にも優れた床を設計することができます。ぜひ次回の設計で役立ててください。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 デッキプレートのカタログにある「許容スパン」を確認する際、単純支持よりも「連続支持(2スパン以上)」の方が飛ばせる長さが長くなるため、小梁を減らしてコストダウンを図るためにも、計算上は常に「連続支持」の値を採用して設計するべきである。
問題2 合成スラブ(合成デッキ)を採用する場合、デッキプレート自体が引張鉄筋の役割を果たすため、支点(梁)上部のコンクリート表面に配置する「ひび割れ防止筋(溶接金網やD10等)」は、耐力計算上不要であれば省略することができる。
問題3 設備配管などで床に開口が多くなることが予想されるエリアでは、現場での配筋手間を減らすために、あらかじめ鉄筋がセットされている「鉄筋トラス付きデッキ」を採用するのが最も施工性が良く合理的である。
解答と詳しい解説
問題1 :× 解説: 計算上の数値だけで判断するのは危険です。「連続支持」とするためには、長尺のデッキ(例:9mなど)が必要になります。しかし、現場周辺の道路事情や荷揚げリフトのサイズによっては、そのような長い部材が搬入できない場合があります。 搬入限界により短いデッキしか使えない場合、物理的に「単純支持」扱いとなり、設計スパンが成立しなくなる恐れがあるため、必ず搬入経路とセットで検討する必要があります。
問題2 :× 解説: 合成スラブであっても、梁の上部(支点)には負の曲げモーメントが発生し、コンクリート表面にひび割れが生じやすくなります。そのため、構造耐力上はデッキのみで成立していても、ひび割れ制御のためにトップ筋(ひび割れ拡大防止筋)の配置が必要です。特にかぶり厚さの確保にも注意しましょう。
問題3 :×解説: 鉄筋トラス付きデッキは、トラス筋の位置が決まっているため、不規則な開口位置に合わせて鉄筋を切断したり補強したりするのが困難な場合があります。開口が多く複雑な調整が必要な箇所については、現場での加工自由度が高い「フラットデッキ(捨て型枠)」を採用し、現場配筋で対応する方が納まりが良くなります。
