仕事の計画を立てる際、「念のため、多めに時間を見積もっておこう」「予期せぬトラブルに備えて、予算を厚めに確保しておこう」と考えた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
建築の構造設計のような工学分野に限らず、何かを判断する際には「どの程度の余力を持たせるか」を考えるものです。予算やスケジュールなど、すべてが予測通りに進めば良いですが、実際には様々な不測の事態が発生します。そのため、常にギリギリを狙って計画を立てると、予定がすべて狂い、後で調整に追われることになりかねません。
かといって、予測の精度を上げることばかりに注力して、肝心の行動に移れないようでは本末転倒です。
しかし、その「備え」が過剰になってしまうと、かえって非効率になることもあります。スケジュールに余裕を持たせすぎた結果、本当は受注できたはずの仕事を断ってしまった、なんてことにもなりかねません。
今回は、仕事やプロジェクトを合理的に進めるための「最適な余力」の考え方について、3つのポイントで解説します。
①まずは物事を単純化し、予測の精度を上げる
これは基本ですが、非常に重要です。物事が複雑であるほど予測は困難になり、結果として余力も「念のため」と高めに設定する傾向が強くなります。
まずは、大きなタスクやプロジェクトをできるだけ小さな単位に分解し、単純な項目のリストに整理することから始めましょう。
一つひとつの項目が単純であればあるほど、必要な時間やコストの予測精度は格段に上がります。
②危険な「安全率の掛け算」に陥っていないか?
物事を単純な項目に分解して整理した後にやりがちなのが、「あらゆる部分で少しずつ余力を見込んでしまい、最終的に積み重なると過大な余力になってしまう」という失敗です。
例えば、構造設計で考えてみましょう。
- 荷重設定に1.1倍の余力
- 部材の耐力にも1.1倍の余力
- 建物の概算数量に、さらに1.1倍の余力
といった形で、各段階で安全率を見たとします。 それぞれの段階で見れば「1割程度の余力」なので、特に違和感はないかもしれません。しかし、最終的には 1.13≈1.33 となり、全体では約1.3倍もの過剰な余力を見込んでいることになります。
「まさか」と思うかもしれませんが、これは意外とよくある失敗の一つです。このような事態を避けるためには、一般的な歩掛(ぶがかり)のような、基準となる数値感を常に意識しておくことが重要です。
③余力は「1つの項目」に集約するのが最適
では、どうすれば良いのでしょうか。 結論から言うと、余力は「この項目だけ」と決めて、1つに集約することが最もシンプルで合理的です。
あらゆる段階でバラバラに余力を設定してしまうと、最終的に「全体としてどれくらいの余裕があるのか」が誰にも分からなくなってしまいます。これでは、コストや納期について踏み込んだ調整が必要になった際、的確な判断ができません。
建築構造設計の例で言えば、柱や梁が必要以上に大きくなり、資材も増え、コストは上がり、空間としても不格好になる…という最悪の設計につながりかねません。
経験上、構造設計においては「荷重」の部分だけに安全率を集約させておくのが、最もシンプルで分かりやすい設定だと考えています。
これは構造設計に限った話ではありません。あなたの仕事においても、予算、スケジュール、人員など、どこか1つ「ここにだけに余裕を持たせる」という戦略的な項目を見つけることが、プロジェクト成功の鍵となります。
まとめ:賢い余力設定で、成果の質を高めよう
仕事やプロジェクトにおける余力の設定は、闇雲に余裕を持たせるのではなく、どこに集約させるかという「設計思想」が重要です。
- 物事を単純化し、見通しを立てやすくする
- 各工程での安易な余力の上乗せ(安全率の掛け算)を避ける
- 余力を持たせるポイントを戦略的に一つに絞る
闇雲な「念のため」から卒業し、意図を持った余力を設定することで、仕事はより合理的で、柔軟性の高いものになるはずです。ぜひ、明日からの計画に活かしてみてください。
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