【わかりやすい構造設計】保有水平耐力と保証設計~「安全な壊れ方」を設計するRC・S造の検討項目

【RC造】

保有水平耐力計算の中で、必ずセットで登場するのが「保証設計」という言葉です。文字通り何かを「保証する」設計なのですが、一体、何を保証しているのでしょうか?

「部材が壊れないことを保証する?」「計算が正しいことを保証する?」

実は、少し違います。保証設計が保証しているのは、大地震時に建物が「想定通りに、安全に壊れること」なのです。

今回の記事では、この少し逆説的にも聞こえる「保証設計」の本当の意味と、RC造、S造それぞれの具体的な検討内容、そしてそこに隠された数値の背景まで、わかりやすく解説していきます。

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① 「安全な壊れ方」を設計する – 保証設計の本当の目的

構造計算は、あくまで計算上の話です。弾性設計(中地震)の範囲であれば、解析の精度も高くなります。一方で弾塑性設計(大地震)の場合には、扱うエネルギーも大きく、部材も塑性化することで建物全体の変形も大きくなるため、不確定要素が多くなります。

そういった背景があることから大地震時を想定した保有水平耐力計算時に保証設計を行うことになります。保証設計の中で想定されている大きな要因は、以下の内容になると思います。

  • 材料強度のばらつき:鉄筋や鉄骨の強度が、設計上の基準値よりも実際には高い可能性があります。
  • 施工のばらつき:現場での施工精度が、計算モデルと完全に一致するとは限りません。
  • 地震動の不確実性:どのような揺れが来るかは誰にも予測できません。

これらの不確定要素を包括して安全性を確保することが保証設計になります。

参考:異常気象・地震に備える「フェイルセーフ」という考え方

安全性を確保するために具体的に保証しているのは、崩壊メカニズム(建物の壊れ方)になります。構造設計では壊れないように設計するだけでなく、大地震時に対しては壊れ方も設計しています。

参考:耐震性は耐力と硬さ(剛性)のバランスで考える

この崩壊メカニズムを保証するために重要なのが、「塑性化させたい部材」が想定通りに塑性化することです。想定通りに塑性化しないというのはどういった状況でしょうか?

それは、意図した部材が曲げ降伏(靭性的な崩壊)する前に、他の箇所が想定外の形式(せん断破壊などの脆性破壊)で先に壊れてしまう状況を指します。

以降の章でRC造とS造での想定外の崩壊形式(保証設計の項目)の中身を具体的に解説していきます。

②【RC造編】3つの脆性破壊(せん断・接合部・付着)を防ぐ検討

保有水平耐力計算では、部材の粘り強さ(靭性)を「部材ランク」として評価します。最も靭性が高いFAから、FB、FC、そして靭性に期待しないFDまでの4段階があります。

部材ランク判定の段階のパラメータを満足していても、実際の架構の中で応力状態によっては無条件でFD部材の評価になってしまう可能性があります。これがDs算定の計算の中で行っていることとも言えます。部材ランク判定は2段階で行っています。
RC部材の場合、部材ランクで期待される靭性能を確保するために、以下の項目をチェックします。

参考:RC部材種別の判定基準の物理的意味を解説
参考:保有水平耐力計算とは~計算体系を整理

1. せん断耐力の保証設計

これが最もイメージしやすい項目だと思います。靭性的な崩壊である曲げ崩壊をする以前に脆性的な崩壊であるせん断破壊しないかの確認です。ここでは、柱や梁が曲げ降伏(ヒンジ化)した際に発生しうる最大せん断力に対し、さらに不確定要素を考慮した割増率を乗じた力以上のせん断耐力があることを確認します。

Ds算定時の応力と保有水平耐力時の応力の大きい方に対しての検討を行います。部材の両端がヒンジしている場合とそうでない場合で割増率が異なります。両端がヒンジ化した状態は、部材の終局状態として挙動がある程度予測できるため割増率は比較的小さくなります。

一方、片端のみがヒンジ化した場合などは、まだ不確定要素が多く、想定以上のせん断力が生じる危険性を考慮して、より大きな割増率が設定されています。

2. 柱梁接合部の保証設計

柱と梁が最大限の耐力を発揮できる大前提は柱梁接合部が健全であることになります。どんなに柱と梁の耐力があったとしても、接合部がせん断破壊してしまっては柱も梁も機能せず長期荷重を維持できず崩壊します。

そこで柱もしくは梁が曲げ崩壊するまでに生じるせん断力に対して割増率を掛けたせん断力以上の終局せん断耐力が接合部にあることを確認します。

参考:柱梁接合部の本質 -歴史的背景とモデル化の理論
参考:RC柱梁接合部がNGに!背景を踏まえた3つの実務的対応策

3. 付着割裂破壊の保証設計

鉄筋コンクリートは、鉄筋とコンクリートが付着することで一体として機能します。しかし、鉄筋に強大な引張力がかかると、コンクリートから鉄筋がすっぽ抜けたり、コンクリートを内側から破壊したりする「付着割裂破壊」という脆性破壊が起こる可能性があります。

付着割裂破壊が生じると、鉄筋とコンクリートの一体性が失われ、鉄筋が降伏して靭性を発揮する前に部材の耐力が急激に低下するため、建物全体のねばり強さを著しく損ないます。

参考:付着割裂破壊の原理と対策(RC鉄筋の付着・基本編)

③【S造編】鉄骨の弱点「座屈」と「破断」を制する検討

S造においてもRC造と同様に部材ランク判定の段階のパラメータを満足していても、保証設計の条件を満足していないとFD部材の評価になってしまう可能性があります。またS造の場合には一部満足していない場合にはFD部材とならずに必要保有水平耐力の割増になる場合もあります。

1. 保有耐力横補剛

S造の部材は薄い鋼板で構成されているため、圧縮力を受けると「座屈」という現象で耐力を失いやすい弱点があります。

 梁が曲げ降伏し塑性化する領域では、横座屈を防ぐために床スラブや小梁で特に強固に補剛(保有耐力横補剛)することが求められます。

参考:横補剛はなぜ必要?役割と性能を解説

2. 保有耐力接合(仕口・継手)

接合部(溶接部やボルト)が、繋いでいる本体(母材)より先に破断するのは最も避けなければならない壊れ方です。これを防ぐのが「保有耐力接合」の考え方です。

これは、「接合部が持つべき耐力」は、「母材が発揮する最大耐力(必要耐力)に、不確定要素を考慮した割増係数を乗じた値」以上でなければならない、という原則です。これにより、何があっても母材より先に接合部が脆性的に破断しないことを保証します。これは柱や梁の架構だけに限らず耐震上重要なブレースでも適用されます。

参考:建物の強度を支える「溶接」の基本を解説

3. 柱脚部の保証設計

基本的に柱ヒンジは許容しませんが1階柱脚の柱ヒンジを許容します。これはS造に限らずRC造も共通です。(基礎梁のヒンジは基本的には許容しません)
ここでのRC造にはないS造特有の柱脚部の保証設計がある理由は、S造の柱脚ヒンジには複数の塑性化パターンが存在するからです。

主に根巻き柱脚と露出柱脚が対象になりますが、柱自体がヒンジするのか、アンカーボルトやベースプレート、根巻きのRCのどれが塑性化するのかによってエネルギーの吸収能力(変形性能)が変わってきます。

最もエネルギー吸収能力が高いのは柱材自身が塑性化するパターンです。そのため、アンカーボルトやベースプレートなどが先に降伏するのではなく、柱本体が降伏するまで他の部位が弾性範囲に留まることを保証する必要があります。

ここで他の保証設計とは異なるのは、この保証設計を満足していなくてもいきなりFD部材となるのではなく、エネルギー吸収能力が落ちることを評価して必要保有水平耐力の0.05の割増となります。

まとめ

今回の記事では、「保証設計」が何を保証しているのか、そしてRC造・S造における具体的な検討内容を解説しました。 最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 保証設計が保証するのは「安全な壊れ方のシナリオ」 

「壊れないこと」を保証するのではなく、材料強度や地震動の不確実性を見越した上で、建物が粘り強くエネルギーを吸収する「靭性的な崩壊メカニズム」をたどることを保証します。

  • 脆性破壊を「曲げ破壊」に先行させない 

そのために、せん断破壊や接合部破壊、付着割裂破壊といった脆性的な壊れ方が起きないよう、部材が降伏した際の最大応力に「割増」を行い、十分な安全余裕を確保します。

  • 設計者は「壊れ方」をデザインする 

保証設計とは、単なる計算作業ではありません。不確実な大地震に対して、設計者が唯一コントロールできる「壊れ方の順序」をデザインし、建物の最後の砦としての安全性を確保するという、構造設計の根幹をなす思想なのです。

保有水平耐力計算は複雑に見えますが、背景にある「どのように安全を確保するのか」という思想を理解することで、一つ一つの規定の意味が繋がり、より深いレベルで構造設計と向き合えるようになるはずです。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?4つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 保証設計の主な目的は、大地震時に建物がいかなる損傷も受けない「無被害」の状態を保証することである。

問題2 RC造の保証設計において、柱や梁の「せん断破壊」は、「曲げ破壊」よりも先に起こるように誘導することが推奨される。

問題3 鉄骨造の「保有耐力接合」では、接合部(溶接部やボルト)の耐力を、接合される母材(鋼材本体)の最大耐力以上に設定することが原則である。

問題4 保証設計で用いられる「割増率」は、材料強度のばらつきや地震動の不確実性などを考慮し、脆性的な破壊が靭性的な破壊に先行しないようにするための安全余裕である。

解答と詳しい解説

問題1 :× 解説: 保証設計の目的は「無被害」ではなく、大地震時に建物が「想定通りに、安全に壊れること」を保証することです。部材が粘り強く変形する「靭性的な破壊」を先行させ、建物全体のエネルギー吸収能力を高め、倒壊を防ぎます。

問題2 :× 解説: 「せん断破壊」はエネルギーを吸収できずに突然起こる「脆性破壊」であり、最も避けなければならない破壊形式です。保証設計では、必ず「曲げ破壊(靭性破壊)」が「せん断破壊(脆性破壊)」に先行するように、せん断耐力に十分な余裕を持たせます。

問題3 :〇 解説: 接合部が母材よりも先に破断するのは、脆性的で最も危険な壊れ方です。そのため、必ず「接合部の耐力 > 母材の最大耐力」という力関係を成立させ、母材が粘り強く降伏することでエネルギーを吸収できる状態を保証します。

問題4 :〇 解説: 実際の材料強度が設計値を上回る可能性や、未知の地震動による応力の増幅などを「不確定要素」として考慮し、脆性破壊が起こる可能性のある箇所に安全余裕(マージン)を持たせるのが「割増率」の役割です。

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