構造設計をしていると力の流れという言葉がよく出てきます。
実務を始めたときにはいまいちピンと来ておらず、力が流れ切らない詳細図を書いてしまったり、力の流れにあっていない計算書を作ってしまうことがありました。
実務をある程度経験すると、これが『力の流れ』か、と何かをきっかけに急に理解できることがあります。それがわかってくると構造設計がとても楽しくなってきます。
今回は、『力の流れ』とは具体的にどういったことなのかを書いていきたいと思います。
①地面までの流れルートは確保できているか?
力の流れは簡単に言ってしまうと、ある荷重が部材を経由して地面まで流れる経路のことになります。その経路の中にある部材が、荷重によって発生する力に対して抵抗できる耐力を持っていないと力の流れが途中で途絶えてしまうことになります。
例えば荷重は量になるので、水や砂、コンクリートのような重さがありつつ流動性のあるものに置き換えて流れる様子をイメージすると理解しやすくなると思います。
この流したものがたくさん集まってくるところというのは大きな力を負担していることになります。(鉛直力であれば梁にはせん断力、柱では軸力)
これは常時生じている重力による鉛直方向の力に限らず、地震時の横方向の力についても基本的な考え方は同じです。
当たり前ですが、繋がっていないところには力は流れません。初歩的なミスでありがちなのが、地震による横力を耐震壁に流しているというものの、吹き抜けの向こう側に耐震壁があり、床とほとんど繋がっていない、なんてことがあります。
コア周りにも耐震壁は設けやすいのですが、設備シャフトやEV、階段などで実は耐震壁と床スラブがほとんど繋がっていないなんてこともありがちなので気を付けましょう。
②誰かの支点は誰かにとっては荷重になる
RCは全体が繋がっているので力の流れがややイメージしにくいところもあるので、鉄骨造のスラブがない屋根や設備架台で考えると力の流れを掴みやすくなります。
二次部材では単純なモデルに置き換えて検討する際に、よくありがちなのが部材単体だけで成立することに注目しすぎて、最終的に柱まで力がたどり着いていないことがあります。
末端の部材から順番に検討をしていくことが基本ですが、支点に生じている反力は次に解く部材にとっては集中荷重に変わります。これを順番に繰り返していって柱までの梁部材の耐力が満足することを確認することになります。
力の流れが読めていないと思われてしまう失敗は、『支点反力から集中荷重へ』という関係ではなく、『支点反力と集中荷重が相互依存する』と考えてしまうことです。力の流れは基本的に一方通行である必要がありますが、都合よく支点としてモデル化してしまうと、結果として部材同士がもたれあうことになってしまい、いわゆる不安定構造物になってしまいます。
『支点反力から集中荷重へ』という一方通行の流れを意識して確認を繰り返していくと、ある瞬間、視界が開けるときがくると思います。
参考:構造解析のモデル化の基本~支点条件の仮定/基礎部の剛床の重要性
③力の流れをコントロールすることが構造設計
実務を始めたばかりの時には、設定された架構に対して力を流せる部材を設定(検討)するというところから始まります。
力が流れることを確認することや、流れる部材を決めることも構造設計ですが、そのような検討をしているときも意識することは、力の流れ道として他の道はないのか?どうやったら力の流れる道を変えられるのか?ということです。
力の流れをコントロールできる術が増えていくと、無から有を生み出す思考に繋がっていきます。設計の中ではよく計画段階と言われる部分です。
大学の授業でやってきた時はよくわかっていませんでしたが、支点の種類(ピン、固定、ローラー)、接合部の条件(ピン、固定、半剛接)を上手く使いこなすと力の流れ方を変えることができます。
※同じピン、固定という言葉でも、支点に対して言っているのかと、接合部に対して言っているのかで計算条件が変わるので正確に意図を押さえましょう。
支点、接合条件と剛性・変形・力の関係がわかれば基本的に力の流れはコントロールできるようになってきます。
これらを体得していこうと思うと、試行錯誤していくことになりますが、単純に電算の結果を眺めていても身につくものではなく、例えば、ある支点をピンに変えたらどのように応力や力の負担率が変わるのかを予想して、計算結果と整合しているのかを確認するといったことを繰り返していくことが不可欠になってきます。
このときも電算が必ず正しいわけではない(入力間違いなどもある)ので、妄信せずに常に電算と対話しながら理解を深めていきましょう。
参考:構造計算プログラムに使われない付き合い方
まとめ:構造設計とは「力の流れ」をデザインすること
今回の記事では、構造設計者の必須スキルである「力の流れ」の読み方と、それをコントロールする重要性について解説しました。 計算ソフトに数値を入力する前に、頭の中で水が流れるように荷重の経路をイメージできるかどうかが、設計の質を分けます。
- ルートの確保: 荷重は必ず地面まで流れます。吹き抜けや設備シャフト周りで、力の伝達経路(スラブ)が分断されていないか、立体的に確認する癖をつけましょう。
- 一方通行の原則: 「AがBを支え、BがAを支える」という相互依存は、現実には成立しない「不安定構造物」です。「支点反力が次の部材の荷重になる」という一方通行の流れを意識することで、モデル化のミスを防げます。
- コントロールする楽しさ: 構造設計は、与えられた条件を確認するだけの作業ではありません。支点条件(ピン・固定)や剛性を調整し、力の流れる道を意図的に変えることで、より合理的で美しい架構を創造することができます。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 地震力を負担させるために耐震壁を配置する場合、平面的にバランスよく配置されていれば十分であり、その手前に大きな吹き抜けや階段室があって床スラブが繋がっていなくても、剛床仮定によって力は自動的に耐震壁へ伝達されると考えてよい。
解答1 :× 解説: 力(地震力)は床スラブを通って耐震壁に流れます。どんなに立派な壁があっても、その手前に吹き抜けなどでスラブが分断されている(繋がっていない)箇所があれば、力は壁までたどり着けません。平面図だけでなく、力が流れる「道」が繋がっているかを必ず確認する必要があります。
問題2 二次部材の検討において、部材Aと部材Bが互いに交差している場合、お互いがお互いを支え合うようなモデル化(Aの支点をBとし、Bの支点をAとする)を行うことは、荷重を分散させ部材断面を小さくできるため、経済的かつ合理的な設計手法といえる。
解答2 :× 解説: これは「不安定構造物」の典型例です。 力の流れは基本的に「支点反力→次の部材の荷重」という一方通行である必要があります。お互いがお互が支え合う状態(相互依存)は、実際にはどちらも支えがなく、荷重を負担できない不安定な状態を意味します。このようなモデル化は避けなければなりません。
問題3 構造設計のスキルアップにおいて重要なのは、計算ソフトが出した結果を正解として受け入れることではなく、計算前に「ここをピンにしたら力はどう流れるか?」と予測を立て、その予測と計算結果のズレを確認しながら、力の流れをコントロールする感覚を養うことである。
解答3 :〇 解説: 構造計算ソフトはあくまで道具です。入力ミスやモデル化の限界も踏まえ、「こうすれば力はこう流れるはずだ」という仮説を持って計算結果と対話することが、設計者のスキルを高め、意図した構造物を実現するための近道です。
