【わかりやすい構造設計】地下階特有の外力と構造計算・設計上の留意点

【モデル化】

建築物で一般的に目にするのは基本的には地上部分になりますが、用途や敷地条件によっては地下階のある建築物はたくさんあります。

地上の建物に比べて地震で揺れることは少ないですが、その代わりに地上とは別に考慮しないといけない事項が多々あります。

今回の記事では、初めて地下のある建物を設計する方が知っておきたい、地下階設計の重要な留意点を解説していきます。

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①構造計算上の地下階とは?

まず地下階の定義から確認していきたいと思います。

建築基準法での地下階の定義と構造計算上の地下階の定義は異なります。

建築基準法第2条第1項第8号に基づく地下階の定義は「床が地盤面下にあり、床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの1/3以上」になります。意匠設計者からは地下階と聞いていた階においても構造計算上は地上階としてモデル化(計算)する場合があります。

構造計算上、地下階として扱う定義としては、振動性状が建築基準法施行令第88条に規定する地震力が作用するとみなせるかで判断する必要があります。その目安として一般的には技術基準解説書に示されている「層の階高の2/3以上が全て地盤と接している」又は「層の全周面積の75%以上が土に接している」といった考え方が一般的に使用されます。

例えば斜面地に建設される片土圧を受けているような建物だと、建築基準法上は地下階になりますが、特に長手側の1面が完全に地上にさらされていると構造計算上は地下階の扱いになりません。

地上階と地下階で計算方法が大きく変わる点は、主に以下の項目です。

  • 層せん断力係数:地上の1階部分になるとCo=0.2ですが、地下階であれば深さに応じた0.1未満の水平震度を乗じた値になります。それにより上階での係数も変わってきます。
  • 固有周期:建物の高さの取り方が変わるので固有周期が変化します。
  • 剛性率の評価:土に接する箇所は無開口のRC壁になるため非常に剛性が高くなり、場合によっては地上階の剛性差が大きく、地上階の剛性率によるFsが大きくなります。
  • 保有水平耐力の算出:耐力の計算が必要になることで、剛性率の場合と同様に地上部分と特性が異なり、Ds値が大きくなり耐力の確保が難しくなる場合があります。

上記とは別の視点として、土に接する範囲によっては片土圧が生じる場合があります。その場合には長期荷重時にも水平力に対する検討が必要になったり、地震時の検討の際に正負加力時の検討が完全な対称形の応力ではなくなります。

参考:剛性率~剛性率が生まれた理由から規準値の背景、実務での着眼点

②地下に作用する外力と地下階があることで有利になること

地下に作用する外力について見ていきます。

土圧

最もイメージしやすい外力として土圧があります。土の内部摩擦角や粘着力、土の重量、地上部での載荷重に応じて水平方向に生じる荷重です。これは深くなるほど大きな荷重になります。

これは長期荷重時だけでなく、地震時には「地震時土圧」として追加の水平力が作用します。これは、地震の揺れによって土圧が増加する効果を考慮したものです。

水圧(浮力)

これは地下水位のレベルにもよりますが、地下水位よりも深い位置まで躯体を構築すると底盤に対して上向きの力として浮力が生じます。

次に地下階があることで検討用の外力が小さくなるものもあるのでそれを見ていきます。これを知らないと過剰にコストが上がることになってしまうのでぜひ把握しておきましょう。

地盤による地震力の増幅が小さくなる

これは静的解析の場合には一般的な検討方法であれば数値としては表れてきません。しかし、実際には表層地盤での増幅が小さくなるので入力地震動が小さくなります。動的解析用に地震波を作成した場合には考慮されます。

杭の検討用水平力も小さくなる

単純に杭長が短くなることにより曲げモーメントが小さくなることもありますが、地下階部分で受動土圧や側面の摩擦などで地面に水平力を伝達できるため杭で負担する水平力が小さくできます。地下階分の荷重が増える分の水平力は増えますが、適切な低減率は考慮して経済的な設計をしていきましょう。

参考:杭の耐震設計の変遷と外力の考え方
参考:既製杭の計算書チェックリスト|メーカー任せにしないための確認ポイント

③地下の設計での留意点

ここまで法的な内容、荷重の考え方について扱ってきました。最後は納まりや力の流れや応力に関しての内容について扱っていきます。

土圧壁のつり合い反力の取り方、柱梁への面外曲げ

地下の土圧壁の反力の考え方は基本ですが、とても重要な部分です。特に境界条件をどのように設定するかによって結果が大きく変わってきます。

大きな考え方はスラブの検討に近いですが、床スラブが取り付いている大梁や基礎梁の剛性と水平方向には拘束するものがない柱では当然剛性が変わってきます。また上部の大梁についてはスラブが取り付いていなかったりすれば当然回転を拘束する固定ではなくピンの仮定でも検討した応力に対しても満足するように中央や下端の配筋を決定するなど、いくつかのパターンを包括するような検討を行うのが良いと思います。

特に柱については地上階では検討しないような柱中央の応力や、端部応力の足し合わせ応力のパターンが漏れないように検討しましょう。

これらを踏まえて土圧壁の端部の配筋定着や中央での配筋の切り替え箇所については適切に図面へ反映しましょう。標準図もありますが、壁のプロポーションなどによっても力の流れは変わるため、標準図任せにしない判断が求められます。

参考:構造設計が楽しくなる「力の流れ」の読み方/つまずくポイント解説

山留への対応

地下工事では山留が出てきます。基本的には、山留と地下外壁は近接させて山留を型枠代わりにして施工します。そのためフーチングは外壁の沿った位置にしていないと山留が雁行した配置になり、外壁の増し打ちも大量になってしまいます。

なのでフーチングサイズに応じて杭は偏心させます。外端は基礎梁1本で杭頭曲げを負担するので元々負担する応力が大きいですが地下の場合には偏心曲げによりさらに負担応力が大きくなります。

また、前述したように山留が型枠になる場合には施工誤差により躯体を欠損させるわけにはいかないので安全側の寸法での施工になります。なので、地下部分については外壁増し打ちの重量を多めに見込んでおく必要があります。

耐震壁への力の伝達

地下階ではドライエリアを設けない限りは、外周部はすべて耐震壁(土圧壁) となります。地上階では外周部がすべて耐震壁といったことはないので、1階の床スラブを経由して地上階部分の地震力が耐震壁に流れていくことになります。

例えば地下駐車場へのスロープで大きく床スラブのレベルがズレている場合などには力の伝達経路が確保されていることを確認する必要があります。

参考:混構造を「単純化」する思考法・役割分担と力の伝達

今回は3つの留意点を解説しました。これらはよくある基本的な留意点であり、当然建物の特徴に応じて他に留意する点は出てきますので、地上階との違いを十分に理解して課題を抽出するようにしましょう。

まとめ

今回は、地下階の構造設計における重要な留意点を、「①構造計算上の定義」「②外力とメリット」「③実践的な設計」の3つの視点から解説しました。最後に、本記事のポイントを振り返ります。

  • 地下階は地上階とは別物と心得る: 構造計算上の定義や地震力の考え方が異なり、安易な仮定はリスクにつながります。
  • 特有の外力(土圧・水圧)を制する: 地下特有の荷重を正しく評価し、時には地下外壁の抵抗力などを利用して経済的な設計を目指しましょう。
  • 力の流れと「納まり」を具体的に想像する: 土圧壁の反力、山留や杭との取り合いなど、施工段階まで見据えたディテールの検討が、建物の品質を大きく左右します。

普段目にすることのない地階部分は、まさに構造設計者の腕の見せ所です。地上階との違いを深く理解し、様々な課題を抽出しながら設計に臨むことで、より安全で合理的な建築を実現できます。この記事が、その一助となれば幸いです。

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