床振動の基本と評価手法
こちらの記事では床振動の基本について解説してきました。
床振動は概念の理解だけでは数値的な感覚を把握しにくい分野でもあります。
今回は実際の振動の状況と建物の性能が結び付くように経験的な感覚と対策の方向について解説していきます。
繰り返しになりますが振動については前提条件が少し変わるだけでも結果が大きく変わる可能性のある領域なので、解説内容についても概要を理解するためのものとして読んでいただければと思います。
①床振動が課題になるのはどのようなとき?
どんな建物でも床振動が課題になるわけではありません。許容応力度設計や平12建告第1459号の使用上の支障に関する確認を満足していれば十分なケースの方が多いと思います。
では具体的にどのような場合には詳細な検討や対策が必要になるのでしょうか?まずは大きな目安を知っていきたいと思います。
居住性能評価指針での評価が気になるのはどのようなとき?
まず、大きくは剛性が高く質量の大きいRC造で問題になることはよほど特殊な場合だと思っています。
主に詳細な検討が必要になるのはS造で大スパンを採用している場合です。当然架構の条件にもよりますが10mを超えるようなスパンになってくると注意をしていく必要があります。
感覚的な部分が多いので自分で設計した建物に限らず、スパンと梁せい、荷重の負担幅の関係からどの程度のバランスなら問題ないのかを経験的に掴んでおくと非常に役に立ちます。細かい数値を覚えるというよりも、最大のスパンを把握しておくだけでも目安になるので非常に役に立ちます。(例えば、スパン17mで梁せい900のH鋼では大丈夫だった等)
基本的にトラブルになるのは静寂な空間での振動です。普段から活発な活動がされているような場所よりも、オフィスのような空間で床が揺れていると気になります。
静寂な空間とは逆に階段のように集団で同時に歩行して共振するような場所も注意が必要です。
環境の変化によっても振動を感じやすくなる場合もあります。基準値を満足していても、RC造からS造への建替えの場合には相対的に揺れているように感じると言ったこともあるので、対策やクライテリアを満足するように設計することも重要ですが、きちんと客先に説明しておくことが重要な課題であると言えます。
対策なしでVC曲線ではどの程度の性能になる?
VC曲線でクライテリアを設定するような精密機器を使用する用途の場合には、立地条件によっては建物だけでは対策できない場合もあります。
まずは大きく接地階とそれ以外の地上階によって性能が異なってきます。経験則にはなりますがS造の地上階では特殊な対応をしない場合にはVC-Aが限界に近いと思います。
次に接地階ですが、地上階に比べて性能は高くなりやすいです。接地階の性能は地盤条件によって大きく変わってくると言えます。接地階であっても表層地盤が軟弱である場合には減衰が小さいので高い防振性を発揮することができません。
色々な条件にもよりますがVC-B~VC-Cが目安になると思います。それ以上の性能を必要とする場合にはどのような方法があるのかも次の章で解説します。
②具体的な振動対策事例
①で解説してきたような振動対策が必要なケースに遭遇した場合には具体的にどのような手順で検討をしていくのかを見ていきます。
どのような手順で検討をする?
何を基準にするかに関わらずまずはクライテリアの設定を行います。実験機器のように専門メーカーが具体的な数値を示してくれる場合にはそれが目標クライテリアになります。
目標性能が定かでない場合には、既存施設で測定をしてみるといった方法があります。
次に実際に設計段階で解析をするために、既存施設や新築建物建設地で振動測定を行って外力として利用することで精度を高めることができます。
現在の主流の解析は有限要素法によるモデルを作成して時刻歴応答解析を行って性能を予測します。
解析する際に評価するのは、外力の大きさと周期、躯体の固有振動数(質量と剛性)、減衰の効果(地盤・杭、底盤の剛性などによってきまる入力損失)が基本パラメーターになります。
除振台を採用するような場合には追加で減衰効果を見込むことができるようになります。除振台を設けた場合にはどの周波数に対しても一律で改善はされるわけではなく周波数帯によって効果が変わってきます。
具体的な対策とその使い分け方は?
地上階であればとにかく剛性を高める必要があるので、RC造やSRC造にする、スパンを短くする、梁せいを大きくすると言った建築計画に関わる部分で調整する必要が出てきます。
居住性能評価指針に対応する程度のクライテリアであれば前述のような剛性を高めるような対応、もしくはTMDのような揺れを打ち消すような逆位相で振動するダンパーを設置するといった対応が主流です。
VC-B以上の性能を接地階で確保するには構造設計(躯体)としての配慮の仕方としては、柱以外にも杭を設けて減衰効果を高める、基礎部材の剛性を高める(地盤での増幅が大きいと効果は高くない)、表層を地盤改良して地盤の剛性を高める、振動発生源と完全に縁を切るといった対策が一般的に用いられている方法だと思います。
実験機器のように使用する範囲が限られる場合には除振台を使用するのが一般的な対策になります。
もっと広域に対策をするには減衰機構を用いた二重床にするといった対策があります。こちらは部屋全体への対応が可能になりますが、あらかじめスラブレベルを下げておくといった対応が必要となることや、発生振動数に応じて都度チューニングをすることができないといった汎用性のなさが弱点にはなります。
③ まとめ:床振動設計のポイント
最後に、これまでの内容を振り返り、構造設計の実務で意識すべきポイントをまとめます。
- 「スパン感」と「用途」の不一致を察知する
床振動の問題は、S造で10mを超える大スパンを採用し、かつ「静寂さ」が求められるオフィスや研究施設などで顕在化します。過去の類似実績(スパン・梁せい・負担幅)と比較し、設計の早い段階でリスクを把握することが重要です。 - 「接地階」と「地上階」で限界値を見極める
地上階では躯体の剛性が支配的となり、VC-A程度が対策の限界目安となります。一方、接地階では地盤の剛性や減衰が重要になり、杭の配置や地盤改良を含めた検討が必要になります。 - クライテリアの合意形成が最大の対策
振動は数値上の基準(居住性能評価指針やVC曲線)を満たしていても、以前の建物との比較や個人の感覚によって不満が出る可能性があります。解析精度を高める努力はもちろん、施主に対して「どの程度の揺れが想定されるか」を事前に丁寧に説明し、合意を得ておくことが、構造設計者にとって最も重要な「対策」と言えるかもしれません。

