【わかりやすい構造設計】床振動の基本と評価手法

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構造設計の領域の中でも判断が難しいのが「床振動」についてです。 評価にあたってのパラメータに未知の部分が多いことが、評価を難しくしている要因だと思います。

確認申請や人命に直接関わるわけではないため、評価自体が義務付けられてはおらず、検討方法も建築基準法や告示で詳細に体系化されていません。そのため、設計者自身の認識や経験則に委ねられてしまう部分が大きいのが現状です。

今回の記事では、この捉えどころのない「床振動」という要素の基本を理解するための解説をしていきます。

目次

① 床振動と床の騒音対策の違い

まずは床振動の定義について確認していきたいと思います。 床の振動障害は、大きく分けて以下の2つがあります。

  1. 床の振動としての「揺れ」による障害
  2. 床の振動が音として伝わる「防音性能」による障害

どんな建物に対しても詳細な検討が必要になるわけではありません。留意すべき代表的な用途としては、集合住宅、音楽ホール、運動施設、オフィスビル、そして精密機器が置かれる実験研究施設や工場などが挙げられます。

集合住宅や音楽ホール、運動施設においては、精密な床振動の性質(揺れそのもの)を求められるというよりも、下階の居室への防音性能が求められます。

一方で、精密機器が置かれる実験研究施設や工場においては、かなり緻密な床振動の性能評価が必要になってきます。常時微動のような小さな揺れであっても、例えば電子顕微鏡のような精密機器においては、発揮できる性能が異なってきてしまうからです。

また、ここまでの精密な振動性能ではありませんが、オフィスビルのような静寂な場で座って作業するような場所では、人の歩行振動などによる「揺れ」に対しての居住性能を確保する必要があります。

どの現象においても、基本的には剛性の低い床(梁)によって問題が発生しやすいため混同しがちですが、要求されているクライテリア(評価指標)は異なります。 また、音と振動では評価するための検討方法も異なってきます。

② 床振動の評価指標

床の性能を評価する際、まずは「音(騒音)」と「振動(揺れ)」で分けて考える必要があります。それぞれ評価に用いる指標が異なり、構造設計者が躯体(スラブ)でコントロールできる範囲も異なります。

1. 床衝撃音の評価(L値)

下階への音の伝わり方は、音の種類によって「軽量床衝撃音」と「重量床衝撃音」の2つに大別されます。

軽量床衝撃音(LL)

スプーンを落とした音やスリッパの歩行音のような「コツン・パタパタ」という軽くて高い音です。 この音は、コンクリートスラブを厚くしてもあまり効果がありません。カーペットや遮音フローリングなど、床の表面仕上げを柔らかくすることが主な対策となります。

重量床衝撃音(LH)

子供が飛び跳ねたり走ったりした時の「ドスン・ズシン」という鈍くて低い音です。 構造設計においてスラブ厚や梁で対策できるのは、主にこの重量床衝撃音です。

重量衝撃音は、床全体が太鼓のように低く振動して下階へ音を放射する現象です。この低い周波数の揺れを止めるには、物理的な「重さ」と「硬さ」が必要不可欠だからです。 床仕上げ材でどうにかできるレベルのエネルギーではないため、構造設計の段階で十分なスラブ厚(重量)と小梁の剛性を確保しておくことが唯一の対策となります。これの具体的な対策として、集合住宅ではボイドスラブが採用されたりもします。

2. 床振動(居住性能)の評価

次に、音ではなく「床そのものの揺れ(居住者が感じる不快感や機器への影響)」を評価する指標についてです。代表的なものが日本建築学会の評価指針と、精密機器向けのVC曲線です。

日本建築学会 居住性能評価指針(V-〇〇) 

実務で最も標準的に使われる指標です。振動レベルを用いて、周波数ごとの揺れの感じ方を評価します。一般的に「V-〇〇」という数値でグレードを表します。

例えば「V-70」であれば、概ね30%程度の人は揺れを感じない程度の大きさという評価になります。ただし床振動については人によって感じ方が異なる(個人差が大きい)ため、数字を満足していれば絶対にクレームにならないと言い切れない部分が難しいところです。

VC曲線(Vibration Criteria Curves)

主に半導体工場や研究所など、微細な振動を嫌う施設で用いられる国際的な指標です。 人間が感じるかどうか(居住性)ではなく、「精密機器が正常に動作するか」という観点で設定されています。

  • VC-A 〜 VC-E: アルファベットが進むほど厳しい基準になります。

例えば、光学顕微鏡ならVC-A、電子顕微鏡や微細加工装置ならVC-D〜Eといったように、設置する機器のスペックに合わせて要求グレードが決まります。これらはAIJの居住性能指針よりも遥かに小さな振動(ミクロン単位)を制御する必要があります。

③ 床振動の評価方法

重量衝撃音と床振動に対する具体的な評価方法について解説していきます。

重量床衝撃音の評価

重量床衝撃音(LH)の予測計算には、日本建築学会の「インピーダンス法」という手法が一般的に用いられます。 計算式は複雑ですが、構造設計者が押さえておくべきポイントは以下の2点だけです。

  1. スラブ厚(質量)が最も効く 床のインピーダンス(揺れにくさ)は「スラブ厚の2乗」に比例します。つまり、仕上げや小手先の対策よりも、スラブを厚くすることが圧倒的に効果的です。
  2. スパンと拘束条件 小梁を入れて床を小さく区画する(スパンを短くする)ことや、周囲を大梁でしっかり固めることも性能向上に寄与します。

「スラブを厚く、スパンを短く」という構造的な剛性を高めることが、重量床衝撃音対策の基本となります。

床振動(居住性能)の評価

現在では有限要素法(FEM)を用いた振動解析を行うことが主流になっています。 FEM解析を用いた評価の標準的なフローは以下の通りです。

床振動への影響があるのは「荷重」と「剛性」、それによって決まってくる「固有振動数」です。単純に剛性を高めるだけでなく、外力との共振を考える必要があるということが、許容応力度設計のような静的な応力検討とは異なってくる部分です。

これらの概念を理解した上で以下の流れを見ることで、優先的に着目すべき点が見えてきます。

1. 解析モデルの作成

対象となる床だけでなく、それを支える大梁・小梁、柱を含めた架構モデルを作成します。ここで重要なのが、モデルは部分的に切り出したモノになるため「境界条件」の設定、そして「荷重」の設定です。特に固定荷重は決定できますが、積載荷重をどのように設定するのかが結果に与える影響が大きくなります。

これには明確な答えがあるものではないので、実測と解析結果を比較した情報を収集して判断材料を増やしていくことが最善策になります。 例えば、以下のようなパラメータ設定の判断が必要になります。

  • 積載荷重: 地震用を採用するのか、実況に近い地震用の半分(あるいは低減値)を採用するのか。
  • 小梁の端部条件: ピン接合とするか、スラブと一体打設であることを考慮して固定(剛接合)と見るか。
  • コンクリートの剛性: スラブは弾性範囲なので、長期の剛性低下(Fcの1/3)ではなく、初期剛性や割り増した値を採用する。
  • 減衰定数: 安全側の略算値と精算値のどちらを採用するのか。

ここに挙げたものは代表的な例ですが、こういったパラメータの評価で何を選択するのかに構造設計者の判断力が試されます。安易に結果が良くなる数値を採用するのではなく、不確定ながらも自分なりに根拠を持った判断をするようにしましょう。

2. 固有値解析(固有振動数の把握)

まず、その床が「どのような揺れ方(モード)」を「どのくらいの速さ(周波数)」でするのかを把握するために、固有値解析を行います。

特に重要なのが一次固有振動数です。 人が歩くテンポは一般的に約2Hz前後(1秒間に2歩程度)と言われています。床の固有振動数がこの歩行振動数の倍数(2Hz、4Hz、8Hz…)に近いと、「共振」現象が起き、小さな力でも揺れが増幅してしまいます。

3. 応答解析(歩行荷重の入力)

固有振動数が確認できたら、実際に揺らしてみる時刻歴応答解析を行います。モデル上の人が歩くルート(最も揺れそうな場所など)に対し、「歩行荷重」を入力波として与えます。

4. 評価指標(V値)との照合

応答解析によって得られた振動数ごとの「振動速度(または加速度)」の最大値を読み取ります。 前述した日本建築学会の居住性能評価指針(V-70などの曲線)に合わせてプロットし、目標とする性能グレードの範囲内に収まっているかを判定します。

今回解説したものは床振動に関する基本概念になります。これらを踏まえた実務での具体的な判断や対処方法については、今後別の記事で解説していきます。

まとめ

今回の記事では、構造設計者を悩ませる「床振動」について、基本概念と評価のフローを解説しました。 以下の3つのポイントを押さえることで、曖昧な評価を整理できます。

  • 現象の切り分け: 床の振動には「音(衝撃音)」と「揺れ(居住性・機器障害)」の2種類があります。重量床衝撃音(LH)は物理的な質量(スラブ厚)で止めるしかありませんが、居住性は剛性と減衰のコントロールが鍵となります。
  • 指標の使い分け: 一般的な居住性能なら「AIJ指針(V値)」、精密機器施設なら「VC曲線」を用います。目的(人の不快感低減か、機器の正常動作か)に応じて適切なモノサシを選びましょう。
  • 解析の肝はパラメータ設定: FEM解析の結果は、入力条件(積載荷重、剛性、減衰定数)で大きく変わります。明確な基準がないからこそ、安易に有利な数値を採用せず、根拠を持って条件を設定する「設計者の判断力」が問われます。
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【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 集合住宅などにおける「重量床衝撃音(LH)」は、子供が飛び跳ねるような低く鈍い音であり、カーペットなどの柔らかい床仕上げ材に変更するよりも、構造体としてのスラブ厚を増やしたり、小梁を追加して剛性を高めたりする方が遮音対策として有効である。

解答1 :〇 解説: 重量床衝撃音(LH)はエネルギーが大きく周波数が低いため、表面仕上げ材では防げません。スラブ厚(質量)を増やして重くするか、剛性を高めて揺れにくくすることが、構造設計における最も効果的な対策です。

問題2 精密機器工場などで用いられる振動評価指標「VC曲線」は、主に居住者(作業員)が感じる不快感や不安感を軽減することを目的としており、日本建築学会の居住性能評価指針(V値)よりも緩やかな基準が設定されている。

解答2 :× 解説: VC曲線は「精密機器が正常に動くか」を基準としており、人間が何も感じないレベルの微振動でもNGとなるような、非常に厳しい基準です。人間の感覚(V値)よりも遥かに小さなミクロン単位の制御が求められます。

問題3 床振動のFEM解析において、床の固有振動数が人の歩行テンポ(約2Hz)やその倍数に近い場合、小さな入力でも揺れが増幅する「共振」現象が生じるリスクが高まるため、固有値解析によって一次固有振動数を確認し、共振を避けるような剛性計画を行うことが重要である。

解答3 :〇 解説: 振動障害の多くは「共振」によって引き起こされます。歩行の加振振動数(約2Hz)と床の固有振動数が一致(または倍数関係に)すると、揺れが劇的に大きくなるため、固有振動数をずらす設計(高剛性化など)が有効です。

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