時代の流れとしては新築を建てるだけでなく、既存建物を有効に利用する機会も増えてきています。ただ内装を改修して使用するだけでは構造設計者の出番は限られますが、増築を行う場合には構造設計も必要になってきます。
既存建物に増築する場合には技術的な耐震安全性を設計者として確認することは当たり前として、法的に満足させなければいけない内容もあり、必要な書類を揃えてきちんと手続きする必要があります。
既存建築物の扱いに関するガイドラインも多くありますが、基本的な認識がないと読み解きにくい分野でもあります。そこで今回の記事では既存不適格建築物の構造に関する扱いに関して読み解くために必要な基本知識を解説します。
①既存建築物を有効に活用することが目的
まずは具体的な法体系を見ていく前に大きな考え方について解説していきます。
基本的に構造関係以外の内容については増築する場合には現行法規に適合させることになるのに対して、構造関係規定については適合させる内容が緩和されています。
これは既存建物を利用するために、法的な構造関係規定について全てを満足させることが現実的ではない状況が多々あります。例えば、RC躯体を斫って鉄筋を作り変えたり、鉄骨の部材を変更するようなことは現実的ではありません。特に旧耐震の建物を新耐震に適合させることはほぼ不可能です。
また新耐震というのは最新の法に適合していることを示すのではなく、昭和56年の法改正による新耐震基準以降に建築された建築物の全てを示した言葉になります。それ以前のものが旧耐震と呼ばれ、それらの建物に新耐震の考え方を用いて耐震性を評価し直しているのが耐震診断になります。
制度の立て付けとしては「新耐震=震度6強で倒壊しない」ことを目標に設計されています。なので耐震診断でも同様の耐震性があることを確認していることになります。
ただし、実際に存在している建築物で現行法規に適合していない部分があるからといって、構造安全性が著しく劣っているわけではありません。
そういった現実的な状況を踏まえて既存建物を有効に利用できるような法体系になっていることをまずは理解しておくことで複雑な内容に対しても理解が進みます。
②どの時点の法に適合させるのか
次に実際に既存不適格建築物に関する法令の具体的な内容について見ていきます。
既存不適格建築物の定義を改めて整理しておくと、着工時点の建築基準法には適合した状態で竣工はしたものの、その後の法改正による内容については適合していない建築物を既存不適格建築物と定義しています。
建築基準法(令第137条)の中に『基準時』という言葉が出てきますが、これは建築基準法が改定されてその建築物が既存不適格になった時点を指します。
建築基準法の中に既存不適格建築という言葉を明確に定義していませんが、法第3条第2項がそれを示している内容になります。原則として、法律は施行された後の出来事に適用(これを「遡及適用」と呼びます)されますが、法第3条は適用の除外を示す項目になり、この記載を根拠に既存建物は法改正があっても追随して法に適合させなくてもよいということになります。
既存不適格建築物と混同されがちなのが違法建築物です。違法建築物は着工時点の法令には適合していない建築物を指す言葉になります。竣工段階で適合していて完了検査に合格したとしても、その後に改修をして法に適合していない状態になればそれは違法建築物になります。
誤解されがちなのがどの段階の法令に適合させる必要があるのかということです。実はこれを勘違いしていると悪気はなく違法建築物を作ってしまうことにもなりかねないし、完了検査を合格にしないといったことにもなりかねません。
厳守するべき法令の内容とは、確認申請が下りた段階の内容ではなく、『着工』時の内容になります。なので、確認済証が下りている設計図書の通りに作ったとしても、確認済証が下りてから期間を開けて着工した場合には違法建築物になってしまう可能性があるということです。
③既存不適格に関する法令とは
基準時以降に既存不適格建築物に増築、改修、大規模の修繕又は大規模の模様替えを行う場合には、原則として既存部分にもその時点の法令を遡及適用させる必要があります。
それを緩和するのが法第86条の7になり、さらにその具体的に緩和できる範囲を示しているのが令第137条の2~令第137条の16になっています。構造に関係する内容は主に第137条の2になります。この中で増築の規模に応じて緩和するために適合させるべき内容が定められています。
増築の規模やEXP.Jの有無によってどのようなルートになるのかの図を目にすると思いますが、その内容の元になっているのが第137条の2です。
法令だけだと読み解きにくいのが正直なところなので、上記のような原文となるモノはどこなのかを把握した上で以下のような解説資料に沿って実務を行うことが現実的だと思います。
・既存建築物の緩和措置に関する解説集(第3版)(国土交通省)
・既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)(国土交通省)
まとめ:増築設計は「着工時の法律」と「緩和措置」の読み解きから始まる
今回の記事では、既存の建物を活用(増築・改修)する際に避けて通れない、既存不適格建築物と遡及適用の基本について解説しました。 構造設計者が法規と向き合う際、以下の3つの大前提を持っておくことが重要です。
- 「既存不適格」と「違法」の違い: 「既存不適格」とは、着工時の法令には適法に建てられたが、その後の法改正によって現行法に合わなくなった建物のことです。最初から法令違反していたり、勝手に改修して不適合になった「違法建築物」とは明確に区別されます。
- 絶対基準は「着工時」: 建築物が守るべき法令の基準は、「確認済証が下りた日」ではなく「着工した日」です。確認済証取得から着工までに期間が空き、その間に法改正があった場合、古い図面のまま着工すると「違法建築物」になってしまうリスクがあります。
- 遡及適用と緩和措置(法86条の7): 既存建物に増築等を行う場合、原則として既存部分も「現行法(最新の法律)」に適合させる必要があります(遡及適用)。しかし、RCの躯体を作り直すような非現実的な対応を避けるため、増築規模等に応じてこの遡及適用を免除・緩和するルール(令137条の2など)が用意されています。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
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問題1 「既存不適格建築物」として適法に扱われるための条件は、「確認済証が交付された時点の法令に適合していること」である。したがって、確認済証交付後に大規模な法改正が行われたとしても、交付済みの設計図書通りに着工・竣工させれば、違法建築物として扱われることはない。
解答1 :× 解説: 法令適合の基準となるタイミングは、確認済証の交付時ではなく**「着工時」**です。確認申請が通った後でも、着工前に法改正があれば、新しい法律に合わせて設計変更(計画変更等)を行わなければ、違法建築物となってしまいます。
問題2 不動産や建築の実務でよく使われる「新耐震基準」という言葉は、「現在施行されている最新の建築基準法の構造規定に完全に適合していること」を意味するため、新耐震基準の建物に増築を行う場合は、既存部分に対する構造規定の遡及適用(現行法への適合)を一切気にする必要はない。
解答2 :× 解説:「新耐震」とは、**昭和56年(1981年)**の法改正以降の基準で建てられた建物を指す言葉であり、必ずしも「現在の最新の法規」に適合しているわけではありません。その後も2000年(平成12年)などに大きな法改正が行われているため、新耐震の建物であっても、増築時には現行法とのすり合わせや緩和措置の適用検討が必要です。
問題3 既存不適格建築物に増築や大規模の修繕を行う場合、原則として既存部分にも現行の法令が遡及適用されるが、現実的にすべての構造躯体を現行法に合わせて作り直すことは困難である。そのため、建築基準法第86条の7および施行令第137条の2等によって、増築規模(床面積の割合)やEXP.Jの有無に応じた「緩和措置」が規定されている。
解答3 :〇 解説: これが既存増築プロジェクトの根幹となる法規です。原則は「全部今の法律に合わせなさい(遡及適用)」ですが、現実的に不可能なので「増築が1/2以下なら〇〇の検討で良い」といった緩和(法第86条の7、令第137条の2)が用意されています。設計者はこの緩和ルートを読み解き、国交省のガイドライン等に沿って安全性を証明していくことになります。
