線材モデルについてとモデル化の目的
剛床仮定とはなにか/非剛床の事例
構造解析のモデル化の基本シリーズです。
支点条件はどのようなモデル化、解析方法の中でも重要な要素になります。支点の条件によって応力や変形が大きく変わってきます。
今回は主に一貫計算での支点条件の設定が適切に扱えるようになるための内容を書いていきます。
①支点はどこに配置するのか?
一般的な平地に立っている建物の構造計算をするときには、支点をどこに配置するかというと地面に接していて、地面に力を流す部分が支点となります。
杭基礎の場合の方がイメージがしやすいと思うので、杭基礎から触れますが支点を設定した部分というのは現実場面では杭が配置されているということになります。なので支点反力の値が杭に求められる支持力(耐力)になります。
直接基礎の場合は、独立基礎であれば鉛直力に対しては杭基礎と同様の考え方でイメージができると思いますが、布基礎やべや基礎のような点ではなく面で力を負担する場合には少しイメージが変わってきます。
布基礎やべや基礎の場合には支点での荷重を基礎梁や底版を通して地面に流す必要が出てくるので、支点反力の値を適切に周囲のどの基礎にどの程度流すのかを計画する必要ができます。
②支点条件の基本
支点の種類としては以下の3つが基本になります。
- 固定支点:回転と水平・鉛直の変位を固定とします。反力としては曲げモーメント、水平力、鉛直力が発生します。
- ピン支点:水平・鉛直の変位を固定とします。反力としては水平力、鉛直力が発生します。
- ローラー支点:鉛直の変位を固定とします。反力としては鉛直力が発生します。
※回転固定の固定とは回転角がゼロ、変位の固定とは変位がゼロのことを示しています。
基本的な支点の条件はゼロか100かの極端な支持条件になっていることがわかります。なので、この3種類のモデルの間を表現する支点をモデル化することも可能です。
固定支点⇔ピン支点の間には回転ばねを評価したもの(半固定、半剛接などと言ったりします)、ピン支点⇔ローラー支点の間のには水平ばねを評価したものを使用する場合もあります。また、どの支点においても鉛直方向のばねを評価するというものもあります。
例えば、水平ばねで支点を評価する場面としては、接地レベルが異なる場合があります。すべてをピン支点にしてしまうと、計算上は上のレベルの杭に多くの力が流れる想定になってしまうので、水平ばねを設けることで適切な水平剛性まで下げることをします。
③支点条件がピン支点なのはなぜか?
一貫計算では支点条件をピンとすることが一般的です。その理由を知っておくことが、支点を条件を応用して利用していくための基本になります。
ここで告示や構造関係技術基準解説書との関係についても触れておきたいと思います。告示については具体的に言うと”第594号第2 第一号ロ”が今回の内容に該当します。
ロ 基礎又は基礎ぐいの変形を考慮する場合にあっては,平成13年国土交通省告示第1113号第1に規定する地盤調査の結果に基づき,当該基礎又は基礎ぐいの接する地盤が弾性状態にあることを確かめること。
このような書き方だけから意図を組むのは難しいですが、解説を読んでいくと大きな解釈としては、基礎の支点条件はピンとすることが原則で、一般的な地盤調査ですべての地盤ばねを設定することは困難であるし、地盤ばねを考慮しなくても問題ないというのが結論となっています。
だからといってなんでもピン支持で検討しておけば問題ないということではありません。一般的に基礎梁部分は地上階に比べても剛性耐力共に高い部材で構成されます。そのため、現実には支点ごとに多少の変形差が出たとしても応力を分配できるということも加味しての判断になっていると思います。
保有水平耐力計算の中でも基礎梁にヒンジが発生すると、ワーニングメッセージが出てきます。これはヒンジができるということは基礎部分の剛床が成立していると想定してよいかということを確認しているとも言えます。
耐震壁下の杭のように大きな引抜力が発生するような支点についてはピン支点としてだけでの検討だけでなく、支点の浮き上がりを考慮したばねの設定をした場合との比較が必要になってきます。このような浮き上がりの仮定が成立するのも基礎部分の剛性耐力が高いことが前提になっているので、それも踏まえて検討をするようにしましょう。
支点の状態によって上部構造の応力を簡単に変化させることができてしまいます。地盤部分は不確定要素が多いためそれに関係する部分は安全率を見つつ色々な可能性に対応する必要があります。なので、都合のよい条件だけを採用しないようにしましょう。
参考:まだまだ未知が多い杭(地面)の世界
参考:幅を持って安全性をデザインしていく
まとめ
今回の記事では、構造解析における「支点条件」の基本と、実務で標準的に用いられる「ピン支点」の背景について解説しました。 一貫計算ソフトでは、初期設定で自動的に支点が生成されますが、その意味を理解せずに進めることは非常に危険です。
- ピン支点の前提: 「支点はピン」という常識は、基礎梁が十分に剛強で、力を再配分できるという前提の上に成り立っています。基礎梁にヒンジができるような設計は、この前提を覆すことになります。
- 中間的なモデル化: 固定・ピン・ローラーだけでなく、段差がある場合の「水平ばね」や、浮き上がりを考慮した「鉛直ばね」など、状況に応じてモデルを使い分ける柔軟性が必要です。
- 都合よく解釈しない: 地盤は不確定要素の塊です。モデル化によって応力は大きく変わりますが、「部材が小さくなるから」という理由で都合の良い条件を選ぶのではなく、浮き上がりや剛性の低下など、複数のケースを検討して安全側の判断を行うことが重要です。
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問題1 構造計算における支点のモデル化は、「固定」「ピン」「ローラー」の3種類のみで表現され、それらの中間的な状態(回転ばねや水平ばね等)を考慮することは、計算が複雑になるため一般的には行われない。
解答1 :× 解説: 基本は3種類ですが、実務ではその間を埋めるモデル化も重要です。例えば、基礎の根入れ深さが異なる場合の「水平ばね」による剛性調整や、露出柱脚の「回転ばね」、杭の鉛直挙動を表す「鉛直ばね」など、状況に応じてこれらを使い分けることで、より実態に近い応力解析が可能になります。
問題2 一貫計算において一般的に最下層の支点条件を「ピン支点(回転拘束なし)」とする背景には、地盤のばね定数を正確に設定することが困難であることや、基礎梁が十分な剛性と耐力を持ち、上部構造からの力を適切に分配・処理できるという前提がある。
解答2 :〇 解説: 地盤の性状を完全に把握するのは難しいため、告示や解説書においても、基礎梁等が弾性範囲内(剛強)であれば、支点を固定しない「ピン」として扱うことが一般的とされています。逆に言えば、基礎梁が降伏してしまうとこの前提が崩れるため注意が必要です。
問題3 耐震壁の脚部など、地震時に大きな引抜力が発生する箇所において、計算上で杭の引抜耐力を超える(浮き上がる)ような場合であっても、基礎梁の剛性が高ければ力は再配分されるため、支点条件を「ピン」としたままの検討だけで十分であり、浮き上がり(ばね)を考慮した検証は不要である。
解答3 :× 解説: 引抜力が大きく支点が浮き上がる可能性がある場合は、ピン支点(浮き上がらない仮定)だけの検討では不十分です。支点が浮き上がると、その負担分が周辺の杭や基礎梁に再配分され、応力が大きく変化します。そのため、浮き上がりを考慮したモデル(鉛直ばねの解除など)でも解析を行い、両方のケースで安全性を確認する必要があります。
