【わかりやすい構造設計】構造解析のモデル化の基本~剛性評価/相対性の評価が重要

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構造解析のモデル化の基本シリーズです。
これまで書いてきた、線材モデル化を行い、支点条件を設定してそこにどのように剛性条件を設定することで、おおよその構造計算のモデルはできてきます。それくらい基本的で重要な内容になります。

今回の記事では構造種別に特化した内容によらない共通の基本事項について書いていきます。そのため主な内容は許容応力度計算になります。

目次

①告示での剛性の位置づけ

まずは告示や構造関係技術基準解説書の中で剛性評価についてはどのような位置づけになっているかについてです。”第594号第1 第一、二号”、”第594号第2 第一号イ”の内容がそれに当たると考えられます。

一 建築物の架構の寸法、耐力、剛性、剛域その他の構造計算に用いる数値については、当該建築物の実況に応じて適切に設定しなければならない。

二 前号の数値の設定を行う場合においては、接合部の構造方法その他当該建築物の実況に応じて適切な設定の組み合わせが複数存在するときは、それらすべての仮定に基づき構造計算をして当該建築物の安全性を確かめなければならない。

イ 構造耐力上主要な部分に生ずる力は、当該構造耐力上主要な部分が弾性状態にあるものとして計算すること。

解説部分も含めて解釈すると大きくは、不確定な要素も多いので、ばらつきが等が包括されるような設定を採用したり、適切な安全率を設定して検討をするようにということになります。

一次設計時は特にRC部分になりますが、ひび割れによる剛性低下は考慮せずに弾性剛性での評価を基本にしましょうとなっています。剛性低下を考慮する場合に限らないですが、全体として統一した評価をすることも重要なことになっています。

鉄骨部材であれば一定の数値として評価しやすいですが、RC部材はばらつきがあるということを認識しておく必要があります。一貫計算の中でも一次設計ではひび割れの剛性低下は評価していません。

この仮定だと耐震壁の剛性が高く評価されてしまい、架構部材が危険側の評価になってしまうため別の告示では、耐震壁の負担する応力がその階の半分以上の場合には応力を割り増して検討することにしています。

参考:剛性の変化とその影響を知る

②剛性に関わる重要な要素

剛性に関わる重要な要素は、前段の告示にもあるような寸法(部材断面・長さ)、剛域(接合部)、その他のものとしては、耐震壁やスラブ、雑壁といった主要な柱や梁に取りつくものがどのような影響があるのかを評価することが重要なことになってきます。

一貫計算の中では、柱や大梁については基本的な断面寸法、ヤング係数から、曲げ剛性(方向別)、軸剛性を算出して、そこにスラブや壁の取りつきに応じて剛性増大率を掛けるようなような形で、各部材の剛性を評価しています。

剛性増大率の計算方法は、個別で補正しない限りはどのような部材でも一律な評価になってしまうので、スラブや壁の取りつき方が一般的でないところは個別に補正するようにしましょう。

例えばスラブであれば、吹抜けが部分的にある場合やスラブレベルが梁の中央くらいまで下がっている場合では一般的な梁上端とおおよそスラブ上端が揃っている場合とでは影響具合が変わってきます。

また、剛域に長さについては、部材長さに影響してくるので、水平剛性においては3乗で影響の出てくる重要な要素になります。梁サイズにばらつきがある場合の、構造階高の設定やそれに応じての剛域の補正は確実に行いましょう。

一貫計算の中ではこれらも自動計算も選べるようになっているので、任せてしまいがちですが全体へ大きな影響がある内容なので、初期に自らでも手計算で当たりを付けてから、自動計算に任せるようにして、適切に部分的な補正ができるようにしましょう。

③何を解析するための剛性か/相対性の重要性

剛性の評価方法は色々とあります。その中でどの方法を選択するのかを判断する視点を知っておく必要があります。

例えば、応力解析をする場合であれば、部材間の剛性の比率を評価することが重要になります。極端なこと言えば全体に高めに剛性を評価してあっても、剛性比が変わらなければ負担する応力は変わりません。

鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説の中では、ひび割れによる剛性評価を行わなくても、剛性低下は相対的であるため、全体の応力分布にはあまり影響がないと書かれています。

一方でそのモデルで同様に変形について評価してしまうと、変形量については小さく評価されてしまうため危険側の判断になってしまう可能性があります。

このように応力を確認するのか、変形を確認するのかで剛性評価の判断軸が変わってきます。

前段でも書いたように剛性評価はばらつきがあり構造計算の中でも評価が難しい部分であり、構造計算があくまでも仮定であるということを実感する部分でもあると思います。

なので、細かな数値合わせをするような視点でモデルを作りこむことに注力するのではなく、全体を見てどのような振れ幅の中にいるのかを認識しつつ、気になる部分については個別で詳細な検討をするなどして、自分なりの安全率を設定していくことを心がけましょう。

繰り返しになりますが、剛性でのポイントは他の部材との相対性が重要になるので、部分を詳細に評価しても全体の精度は上がらないことは忘れないようにしましょう。

参考:幅を持って安全性をデザインしていく
参考:余力をどのように設定する?過剰思考になっていない?
参考:細い柱(地震力を負担しない部材)の作り方

まとめ:剛性評価は「相対評価」と「絶対評価」の使い分け

今回の記事では、構造計算のブラックボックスになりがちな「剛性評価(特に一次設計)」について、告示の位置づけから実務的な注意点までを解説しました。 一貫計算ソフトは便利ですが、剛性は応力と変形を支配するパラメータであるため、設計者の意図が強く反映されるべき部分です。

  • 一次設計の原則と注意点: 基本は「弾性剛性(ひび割れ考慮なし)」ですが、それにより耐震壁が硬く評価されすぎると、周辺の架構(柱梁)の応力が過小評価されるリスクがあることを認識しておく必要があります。
  • ソフトの自動計算の罠: スラブや壁による「剛性増大率」は、吹抜けや段差などのイレギュラーな箇所では自動計算が実状と合わないことがあります。手計算で当たりをつけ、個別に補正する視点が不可欠です。
  • 解析目的による使い分け: 応力解析は「部材間の剛性比(相対評価)」で決まりますが、変形解析は「剛性の絶対値(絶対評価)」で決まります。全体を一律に硬く評価すると、応力図はそれらしく見えても、変形(層間変形角など)は危険側の評価になる可能性があるため注意が必要です。

理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 一次設計(許容応力度計算)において、RC部材の剛性は原則としてひび割れによる剛性低下を考慮しない「弾性剛性」で評価するが、これによって耐震壁の剛性が高く評価されると、並列する柱や梁に流れる力が実態よりも小さく計算され、架構部材にとっては危険側の評価になることがある。

解答1:〇 解説: 一次設計では弾性剛性が基本ですが、RCの耐震壁は実際にはひび割れ等で剛性が低下しやすい部材です。計算上で壁を「硬いまま」評価すると、地震力の大半を壁が負担してしまい、本来もっと力を負担するはずの柱や梁(架構)への応力が小さく算出されてしまう恐れがあります。そのため、壁量が多い場合などの応力割増規定が存在します。

問題2 柱や梁のモデル化において設定する「剛域(接合部などの変形しない領域)」の長さは、部材の水平剛性に影響を与えるが、その影響度は部材長さの「1乗」に比例するため、剛域の設定を多少誤っても全体への影響は軽微である。

解答2:× 解説: 部材の水平剛性は、部材長さの「3乗」に反比例します。 剛域を長く設定すると、変形する部分(内法長さ)が短くなるため、剛性は急激に高くなります。剛域の設定ミスは、3乗で効いてくるため、応力や変形に多大な影響を与える「感度の高い」パラメータです。

問題3 応力解析において、全部材の剛性を実態よりも一律に「2倍」の硬さで過大評価してモデル化した場合、部材間の剛性比(バランス)が変わらなければ「応力分布」も大きく変わらないため、建物の「変形量(層間変形角)」の確認においても同様に正しい結果が得られると考えてよい。

解答3:× 解説: 確かに剛性比(バランス)が変わらなければ、力の分配(応力図)は大きく変わりません。しかし、「変形量」は剛性の絶対値に依存します。 剛性を一律に2倍(硬く)評価してしまうと、計算上の変形量は実態の半分しか出ません。これでは層間変形角などの検討において、実際にはもっと揺れるのに「変形が小さい」と誤認する危険側の検討となってしまいます。

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