【わかりやすい構造設計】構造解析のモデル化の基本~柱梁接合部の本質 -歴史的背景とモデル化の理論

【RC造】

構造解析のモデル化の基本シリーズです。

柱梁接合部は構造種別に限らず重要な部分になります。柱や梁が力を発揮するためには接合部の健全性は不可欠な要素です。
今回の記事ではそんな柱梁接合部の歴史から計算モデルでの扱い、設計での留意点について書いていきます。

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①柱梁接合部設計の歴史

柱梁接合部の検討の必要性が本格的に注目されたのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災がきっかけです。それまでの構造設計では、柱や梁といった部材単体の検討が中心でした。各部材が十分な強度を持っていれば建物全体も安全であるという考え方が主流だったのです。

もちろん、接合部に関する規定が全くなかったわけではありません。「仕様規定」が中心で、「接合部そのものが地震時にどのような挙動をし、どれだけの耐力を持つべきか」という性能に基づいた検証は、現在の設計ほど重要視されていませんでした。

しかし、阪神・淡路大震災の被害に共通していたのは、「柱や梁そのものが壊れる前に、それらを繋ぐ接合部が先行して破壊している」という事実でした。いくら個々の部材が強くても、力の伝達ルートである接合部が破壊されてしまえば、建物は本来持つべき耐力を全く発揮できないまま崩壊に至ることが明らかになったのです。

参考:基準法の変遷から学ぶこと~一歩先の構造設計

②柱梁接合部の外力とは?

では、その重要な接合部には、具体的にどのような力が作用するのでしょうか。これを理解するためには、建物全体の力の流れを把握する必要があります。

建物に水平力が作用すると、その力はまず屋根や床(水平構面)に伝わります。水平構面は一体となって力を受け止め、次にその力を柱や耐力壁といった垂直な部材に分配します。そして、垂直部材を通して梁へ、梁から柱へ、最終的に基礎、そして地盤へと力が伝達されていきます。

この力の伝達経路において、柱と梁、梁と梁などが交わる「節点」こそが接合部です。接合部には、複数の部材から曲げモーメント、せん断力、軸力といった様々な力が複雑に集中します。

これらの力を適切に伝達するためには、接合部自体が十分な強度と靭性を持つ必要があります。特に重要なのは、接合部が周辺部材よりも先に破壊されないようにすることです。これは耐震設計の基本原則となっています。

特に重要になるのは、大地震によって建物が大きくしなやかに変形する場合です。耐震設計の基本的な思想は「中小地震では損傷せず、大地震では倒壊・崩壊しない」というものです。後者の「倒壊・崩壊しない」を実現するためには、建物の柱や梁が粘り強く変形することで、地震のエネルギーを吸収する仕組みが必要です。耐震壁の多い剛性の高い建物よりも靭性型の変形が大きい構造では重要度が高くなります。

例えば、RC造の柱梁接合部では、梁の曲げ降伏によって生じる大きなせん断力に対して、接合部パネルがせん断破壊しないことを確認します。鉄骨造では、梁端部の塑性ヒンジ形成に対して、接合部の溶接部や高力ボルト接合部が破断しないことを確認します。

参考:部材が力を発揮できるようにする/付着・接合部の必要性

③柱梁接合部はどのようにモデル化されているのか?

一般的な構造計算では、建物を線材(フレーム)でモデル化することが多いですが、このようなモデルでは接合部をどのように表現するのでしょうか。

ほとんどのプログラムでは、柱と梁が交差する部分は「剛域」として扱われています。この範囲は変形しないものとして考えます。そして、梁の応力や変形を評価するスパンは、この剛域の端から端まで、つまり柱の面から面まで(柱面-柱面間)で計算されるのが一般的です。

そして、多くの一貫計算の設定デフォルトでは、接合部そのものが持つ変形性能(せん断変形など)は「考慮しない」になっていると思います。その理由としては以下になります。

・仕様規定で性能が担保されているから
現在の基準では、接合部が先行破壊しないように、鉄筋の量や定着方法、鉄骨の補強方法などが「仕様規定」として決められています。この仕様に満足すれば、接合部の変形は十分に小さく抑えられ、性能が担保される、という考え方があります。

・結果的に安全側の設計になりやすいから
接合部が変形しない「剛」だと仮定すると、建物の変形はすべて柱や梁が受け持つことになります。すると、柱や梁に生じる応力が少し大きめに計算される傾向があり、結果として部材断面が大きくなったり、配筋量が増えたりと、より安全側の設計につながることが多いのです。

・計算が複雑になるから
接合部のせん断変形まで計算に組み込むと、解析モデルは一気に複雑化し、計算時間も膨大になります。前述のような前提がある中で、課題の優先順位から考えると考慮する必要がなくなります。剛床仮定を採用する理由とも似ています。

参考:なぜ剛床仮定なのか?

もちろん、これはあくまで原則です。超高層建物や免震・制振構造、複雑な形状の建物など、よりシビアな性能検証が求められる場合は、接合部の非線形性(バネ特性)をきちんとモデル化して、より現実に近い挙動をシミュレーションすることもあります。

④接合部の耐力評価と仕様

最後にRC造と鉄骨造の接合部の耐力の考え方について見ていきます。

・RC造の接合部

RC造の柱梁接合部の設計は、「接合部パネルのせん断破壊をいかに防ぐか」に尽きます。地震時に梁の両端には大きな曲げモーメントが発生します。この力は、梁の上端筋を引っ張り、下端筋を圧縮する力として接合部内に伝わります。この「引張」と「圧縮」の力の対(偶力)が、接合部をひし形に変形させようとする強大な「せん断力」を生み出すのです。

参考:間違え探し⑧(ひび割れ・接合部)

このせん断力に抵抗できず、コンクリートが斜めにひび割れて破壊するのが「せん断破壊」です。これは非常に脆い壊れ方で、一瞬にして建物の支持能力を失うため、絶対に避けなければなりません。

RC造の柱梁接合部の耐力は、主に以下の要因によって決まります:
接合部のサイズ(柱断面の大きさ)/コンクリート強度/接合部の形状(十字形、T字形、L字形など)/直交方向の梁の有無
これらの条件に基づいて、接合部のせん断耐力が評価されます。日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針」では、接合部のせん断耐力式が提案されており、多くの構造設計で採用されています。

接合部の耐力評価の前提条件として、接合部内のフープ筋(帯筋)の最小鉄筋量が定められています。RC規準での仕様規定では0.2%が最小鉄筋量となりますが、「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針」を採用する場合には0.3%になります。
最小鉄筋量は規定されていますが耐力式上ではフープ筋量を増やしても接合部の耐力は上がりません。

・鉄骨造の接合部

鉄骨造の接合部は、溶接や高力ボルトで構成されます。阪神・淡路大震災では、この溶接部の脆性破壊が大きな問題となりました。

現在の鉄骨造の接合部設計は、「接合部で脆性破壊を起こさず、梁やパネルゾーンで安定的にエネルギーを吸収させる」ことを目指します。

・パネルゾーンの設計
柱と梁に囲まれた、柱ウェブ部分の領域を「パネルゾーン」と呼びます。RC造と同様、梁の曲げモーメントによってこのパネルゾーンにも大きなせん断力が作用します。設計思想としては、梁が降伏するよりも先にこのパネルゾーンが適度にせん断降伏し、エネルギーを吸収する「パネル降伏先行型」と、パネルは降伏させずに梁の端部を塑性化させる「梁降伏先行型」があります。いずれにせよ、脆性的な破壊は絶対に避けなければなりません。

・溶接部の破断防止
震災で多発した溶接部の破断は、梁のフランジ(上下の板部分)と柱を溶接する部分に、地震の力が集中したことが原因の一つでした。特に、溶接作業のために設けられていた「スカラップ」に応力が集中し、破壊の起点となりました。 この教訓から、現在はスカラップを設けない「ノンスカラップ工法」が標準となっています。また、溶接部が破断しないよう、非常に高い品質管理の下で「完全溶込み溶接」が行われます。

・梁端接合部の形式
柱を貫通する形で鋼板(ダイアフラム)を設ける「通しダイアフラム形式」が一般的で、これにより梁からの力をスムーズに柱に伝達させます。

まとめ

今回は、構造設計における「柱梁接合部」の重要性について、その歴史から具体的な設計思想までを解説しました。

  • 歴史の教訓:阪神・淡路大震災をきっかけに、接合部の先行破壊を防ぐことの重要性が認識された。
  • 設計の基本思想:柱や梁が塑性化して地震エネルギーを吸収する間、接合部は健全であり続ける「靭性保証設計」が原則。
  • モデル化:通常は変形しない「剛域」として扱うが、その背景には仕様規定による性能担保と、安全側の設計思想がある。
  • 具体的な評価:RC造では「せん断破壊防止」、S造では「脆性破壊防止」がキーワードとなり、それぞれ詳細な仕様が定められている。

接合部の設計は、一見すると複雑に感じるかもしれませんがまずは背景を理解することで、原理も理解しやすくなります。

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