
こちらの記事では特殊な条件として地下階がある場合の建物を設計する際の留意点について解説してきました。
地下階を設計する際には地上と違った外力条件に対して追加検討する必要があります。しかも、全面が地下となるのであれば全体での力のつり合いも取りやすいですが、部分的に地面の中でなく地上に露出している場合には土圧のつり合いを考えると力のつり合いも複雑になってきます。
そこで今回の記事では地下の設計の中でも特殊条件が加わる部分地下の場合の設計での留意点を解説していきます。
①部分地下・片土圧の外力状態
部分的に地下になっている場合には全体が地下の場合や地上階と最も大きな違いは長期荷重として常に水平方向の力が掛かっているということです。
建物全体としての水平力に対しての反力を考える必要があります。全体が地下になっている場合には土圧による水平力に対する反力も土圧で取ることができます。しかし、部分地下になっている場合には全体で力のつり合いが取れないため建築自身でつり合いが取れる剛性や耐力を有する必要があります。
このような正負の加力条件の違いに対してどのような検討や配慮が必要になってくるのかを具体的に見ていきます。
②どのような検討が必要になるのか?
長期荷重時の水平力に対する検討
部分地下の場合に限らず全体が地下階の場合でも直接土圧を受けている部材については面外方向に対する応力も足し合わせて検討をしています。
しかし部分地下のように片方の土圧が大きくなる場合には、水平変位が発生するので直接土圧を受けていない部材においても応力が発生します。ここが大きな違いになります。
また、その水平力の反力をどのように処理するかも検討が必要になります。
基本的に抵抗の仕方は地震時の水平力に対する抵抗と同じですが、杭基礎や直接基礎の底面摩擦で処理することになります。長期時の応力単体での検討と、地震時に追加で長期応力を考慮して検討する必要があります。
応力を重ね合わせて1つの部材で複数の応力に抵抗してしまった方が、部材的には効率がよく経済設計にも繋がることが多いですが、複雑にすることで真の安全性を見失うことにも繋がるので各種応力に対して部材の役割鮮明にしていくことも意識して検討するようにしましょう。
参考:応力の重ね合わせとは?基本原理から詳細図への応用まで
参考:混構造を「単純化」する思考法・役割分担と力の伝達
偏心率
部分地下で片土圧になる場合には、土圧が生じる部分には土圧壁を設けて、土と接していない反対側については開口を設ける計画になることがよくあります。
その場合には非常に偏心の大きな構造になりがちです。地下階と評価できる程の条件であれば多少偏心率が大きい場合においても、全体の剛性を高めることができるし、土圧も受けているので地震時の変形量も小さくなるので特に問題にはなりません。
しかし、斜面地や段差がある敷地では、一方は全部壁でもう一方は全て開口で壁が確保できないという場合もあります。こういった場合にはもっともシンプルな対応方法としては土圧側にドライエリアを設けて主架構の面から壁を外してしまうという方法があります。
ただしドライエリアを設けることで、躯体数量が増えたり建物配置への制限が加わることになるので全体の条件を踏まえて最適な案を選択しましょう。
参考:偏心率~立体解析との関係
剛性率
部分地下の場合は構造計算上の階として評価が地下階ではなく地上階としての扱いになることがよくあります。
その場合には建物全体の剛性率を算出する際にこの階の剛性も評価に加える必要が出てきます。そのため、剛性率は階同士での相対評価であるため、非常に剛性が高い層が1層でも入ってしまうと計算上はバランスが悪いという評価になってしまいます。それによりルート2の適用ができなかったり、必要保有水平耐力を必要以上に割り増して設定することになってしまいます。
2025年版の建築物の構造技術基準解説書に詳しく記載がありますが、剛性率の扱いについて緩和されました。最下層だけの剛性が極端に高い場合では一定の条件を満足することでルート2を適用できるようになっています。
Fsによる割増を必要としない条件の中の一つに偏心率が0.15以下というものがあります。なので、前述している偏心率の課題と合わせて考える必要があるということです。
参考:剛性率~剛性率が生まれた理由から規準値の背景、実務での着眼点
地震力と必要保有水平耐力
片土圧を地震力と必要保有水平耐力に追加で考慮する必要があります。実務的には略算にはなりますが、静止土圧力程度を荷重として加算することになると思います。ただし、地震力と土圧力は外力としての性状が異なるモノを加算しているということを理解しておくことが重要です。
③まとめ 部分地下・片土圧の設計における重要ポイント
部分地下や片土圧が発生する建物の設計では、通常の地上階とは異なる「常に水平力が作用し続ける」という特殊性を正しく理解し、以下の3点に留意することが不可欠です。
- 長期水平力への抵抗と応力の明確化 片土圧による長期的な水平変位を考慮し、土圧を直接受けない部材への応力伝達や、基礎底面の摩擦・杭による抵抗を確実に検討する必要があります。経済性と安全性のバランスを取りつつ、各部材の役割を明確に整理することが重要です。
- 偏心率・剛性率のマネジメント 土圧壁の配置により剛性が偏りやすいため、ドライエリアの設置による主架構との分離や、平面計画の工夫が求められます。特に剛性率が極端に高くなる階については、ルート2適用の可否に関わるため、最新の基準に照らした慎重な判断が必要です。
- 最新基準(2025年版)の活用と外力特性の理解 2025年版の建築物の構造技術基準解説書における剛性率の緩和規定など、最新の知見を取り入れることで合理的な設計が可能になります。ただし、地震力と土圧力という性質の異なる外力を重ね合わせる際は、その物理的な意味を常に意識して計算に臨むべきです。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
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問題1 部分地下の建物においては、片土圧による水平変位が発生するため、直接土圧を受けている外壁だけでなく、土圧に接していない内部の柱や梁などの部材においても応力が発生することを考慮して長期荷重時の検討を行う必要がある。
回答1 :〇 解説: 片土圧を受けると、床(剛床)を介して建物全体が水平に押されて変形します。そのため、直接土に触れていない内部のフレーム(柱・梁)にも曲げやせん断などの応力が発生するため、これを見込んで設計する必要があります。
問題2 斜面地などの部分地下において、土圧を受ける側に剛性の高い壁が集中して偏心率が大きく悪化してしまう場合、設計上の有効な解決策の一つとして、土圧側にドライエリアを設けて土圧壁を主架構から分離する手法が挙げられる。
回答2 :〇 解説: 建物の片側だけが土圧壁(非常に硬い壁)、反対側が開口部となると、重心と剛心が大きくズレて極端な偏心を生みます。ドライエリア(空堀)を設けて土圧を受ける擁壁を建物本体と別の構造にすることで、主架構のバランスを良好に保つことができます。
問題3 部分地下の設計において、地震力と土圧力を組み合わせて検討する際、両者はともに水平力であるため全く同じ性質の外力として扱い、すべての応力を外周部の特定の部材のみに集中して負担させることで、経済的かつ安全な設計となる。
回答3 :× 解説: 地震力(動的で往復する力)と土圧力(静的で常に押し続ける力)は外力としての性質が異なります。これらを重ね合わせて1つの部材で効率よく抵抗させることも経済設計には繋がりますが、特定の部材に応力を集中させすぎると危険です。それぞれの部材の「役割を明確にしていく」意識を持って検討することが重要です。
