RC造では不可欠かつ最重要な事項でもあるのが鉄筋の定着です。 鉄筋がコンクリートと一体になることでRC造の本領を発揮することができます。
定着長さを把握しておくことは配筋詳細図を作成する場合や現場で配筋検査をするときには不可欠な知識になります。
また、配筋を効率よく配置するにはカットオフ筋を使用することが効果的です。応力が大きいところには配筋を多くし、応力が小さい部分の配筋を減らすことで確実にコスト削減に繋がります。
今回の記事では定着長さの背景を理解した上でカットオフ筋を正しく使用できるように解説していきます。
① 定着長さはどのようにして決まっている?
「定着長さ」とは、簡単に言えば「鉄筋がコンクリートから抜けないようにするために必要な最小の埋め込み長さ」のことです。
鉄筋コンクリート(RC)造が成り立つ大前提は、鉄筋とコンクリートが「付着」によって一体化していることです。この「付着」がなければ、鉄筋はコンクリートからスポッと抜けてしまいます。
では、この必要な長さ(定着長さ)は、何によって決まるのでしょうか。
基本は「力の釣り合い」
基本原則は、「鉄筋が引っ張られる力」と「コンクリートが鉄筋を握る力(付着力)」の釣り合いです。
- 鉄筋が引っ張られる力 = 鉄筋の降伏強度 × 鉄筋の断面積
- コンクリートが握る力 = コンクリートの付着応力度 × 鉄筋の表面積(周長×定着長さ)
この2つが等しくなる(正確には付着の方が大きくなる)ように定着長さ(L)を決めます。
定着長さを左右する3大要素
この釣り合い式から、定着長さに影響する主な要素が見えてきます。
- コンクリートの強度(Fc)
- 高強度のコンクリートほど、付着力が強くなります。
- したがって、コンクリート強度が大きいほど、定着長さは短くて済みます。
- 鉄筋の強度(降伏点)と径
- 高強度の鉄筋(SD345よりSD390など)ほど、鉄筋に生じる「引張力」が大きくなります。
- したがって、鉄筋強度が高いほど、定着長さは長く必要になります。
- また、鉄筋径が太くなると、断面積は径の2乗で増えるのに対し、表面積は径の1乗でしか増えません。そのため、径が太いほど定着長さは長くなります。
- フックの有無
- 鉄筋の先端を曲げて「フック」を設けると、コンクリートに機械的に引っかかる効果が期待できます。
- このフックの効果により、純粋な付着力に加えて抜け止めが期待できるため、フックを付ければ定着長さは大幅に短くできます。梁の端部などでスペースがない場合に必須の処理です。
L1、L2、L3とは?
- L1(継手長さ):主に重ね継手で使用する長さです。
- L2(定着長さ):引張力が作用する配筋で使用する長さです。柱・梁の主筋については鉄筋の空きが1.5d、仕口のHOOP筋比が0.2%で接合部コア内に定着するものとして十分にかぶりがある場合の長さです。
- L3(圧縮定着長さ): 圧縮力を受ける鉄筋(柱主筋など)を定着させる長さです。一般に引張より短くなります。
これに h が付く(例:L1h)と、「フック付き」の場合の定着長さを示します。
より詳細の計算仮定は鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説の付録に記載されているので、数値の傾向を把握するだけでなく1度はどのような仮定で計算されているのかについて目を通しておきましょう。
参考:付着割裂破壊の原理と対策(RC鉄筋の付着・基本編)
参考:RC造の柱・梁・接合部の『最小値』とその意図
② カットオフ配筋の長さはどう決まる?
カットオフ筋とは、部材(梁など)の途中で「もうこれ以上、鉄筋の量は必要ない」と判断した箇所で、鉄筋を途中で終わらせる配筋方法です。
M図(曲げモーメント図)が全ての基本
カットオフ筋の配置は、「M図(曲げモーメント図)」によって決まります。応力が大きいスパン中央や端部では鉄筋がたくさん必要ですが、応力が小さくなる部分では、それほどの鉄筋は必要ありません。
カットオフ筋の長さを決める手順は以下の通りです。
- 理論的カットオフ点の決定
- M図上で、残す鉄筋の量だけで十分に耐えられる(応力が小さい)ポイントを探します。この点が「理論的カットオフ点」です。
- M図上で、残す鉄筋の量だけで十分に耐えられる(応力が小さい)ポイントを探します。この点が「理論的カットオフ点」です。
- 「余長」の確保
- 「余長」の確保 最重要ポイントです。 鉄筋は「理論的カットオフ点」でピタリと止めてはいけません。 主な理由は以下の2点です。
- M図のズレ(安全余裕) 設計で使うM図は、あくまで計算上の仮定に基づいています。実際の建物では、積載荷重が偏ったり、地震時には応力が複雑に移動したりします。この「M図のズレ」を考慮し、理論点よりも安全側(応力が小さい側)まで鉄筋を伸ばす必要があります。
- 鉄筋の定着 カットする鉄筋も、その「理論的カットオフ点」で設計通りの力を負担しきるためには、その点までにコンクリートへしっかり「定着」している必要があります(①の定着長さの考え方)。
この安全余裕と定着の確保を「余長」と呼び、規準などで具体的に定められています。
- カットオフ長の決定
- 梁の端部主筋にカットオフ筋を配置した場合には梁の内法スパンの1/4+15d(余長)、中央配筋に対してのカットオフ筋を配置した場合は梁の中点から内法スパンの1/4+20d(余長)と中央配筋の方が余長が長くなります。
- 端部と中央で余長の長さが変わる理由は、梁端部の1/4範囲には梁中央部の曲げモーメントが若干残る場合があることや、積載荷重の偏りを想定して中央下端筋の余長は5d長くなっています。
- つまり、「カットオフ筋の長さ = 鉄筋が必要な区間 + 余長(定着や安全余裕のための長さ)」となります。
「カットオフ筋の必要な範囲」を踏まえてこの「余長」を正しく確保することが、カットオフ筋を安全に成立させるための鍵となります。
参考:配筋検査の役割とは?施工管理との違いと見るべきポイント解説
③ カットオフ筋を採用した際の留意点
カットオフ筋はコスト削減に有効ですが、設計・施工上の留意点を無視すると、かえって建物の弱点を作ってしまう危険性があります。
1. 付着割裂破壊を考慮した終局せん断耐力の評価
付着割裂破壊の検討で大地震時において「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」(通称:靭性指針)を用いた検討式があります。こちらの付着割裂破壊の影響を考慮したせん断信頼強度Vbuは通し筋を前提としているためカットオフ筋を使用している場合には適用できません。そのため、靭性指針のVbuを採用する場合には通し筋にする必要があります。
2.短スパンでの採用
計算上のカットオフ筋の入力はスパン長に関わらずできてしまいます。短スパンの場合にはコスト削減のためにカットオフ筋にしても、ほとんどの範囲で配筋がされている状態になってしまいます。かえって現場の作業手間を増やしてしまうことや、配筋が不連続になることで応力伝達が不連続になり思わぬ弱点(せん断破壊)を引き起こすことにも繋がります。
3.カットオフ長さの記載
梁の内法スパンが基準となるため、スパンによっては応力の勾配が緩やかで標準図の配筋長では不足する場合があります。その際には部材ごとにカットオフ筋の長さを図面に個別で記載することを忘れないようにしましょう。この時、図面に記した長さはどこからどこまでの長さかを示しておくことが重要です。
まとめ:定着とカットオフは「力の流れ」を想像する技術
今回の記事では、RC造の根幹である鉄筋の「定着長さ」と、コスト削減に繋がる「カットオフ筋」について解説しました。
【定着長さのポイント】
- 基本は「力の釣り合い」:鉄筋が引き抜かれる力(鉄筋強度)と、コンクリートが握る力(付着力)のバランスで決まります。
- 3大要素:コンクリート強度(強いほど短くOK)、鉄筋の強度・径(強い・太いほど長く必要)、フックの有無(フック有りは大幅に短縮可)を理解することが重要です。
【カットオフ筋のポイント】
- M図が全て:応力(曲げモーメント)が小さくなる部分の鉄筋を合理的に減らす手法です。
- 「余長」が命:「理論的カットオフ点」で鉄筋を止めず、「M図のズレ(安全余裕)」と「鉄筋の定着」のために必ず「余長」を確保します。
- 安易な採用は危険:短スパンでの使用や靭性指針との関係など、留意点を守らないと思わぬ弱点(せん断破壊など)に繋がるため注意が必要です。
定着もカットオフも、「鉄筋がどこでどれだけの力を負担し、その力をどのようにコンクリートに伝達するか」という力の流れを具体的に想像することが、安全な設計・施工管理の第一歩となります。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 定着長さは「鉄筋の引張力」と「コンクリートの付着力」の釣り合いで決まるため、使用する鉄筋の強度(降伏点)を高くする(例:SD345からSD390へ変更する)ほど、必要な定着長さは短くなる。
問題2 カットオフ筋の長さを決定する際、M図(曲げモーメント図)上で計算上鉄筋が不要となる「理論的カットオフ点」で鉄筋を止めてしまうと、定着不足やM図のズレによる危険性が生じるため、必ず「余長」を確保する必要がある。
問題3 コスト削減を目的とする場合、カットオフ筋は部材長さに関わらず有効であるため、スパンが短い梁(短スパン)であっても積極的に採用することが推奨される。
解答と詳しい解説
問題1 :× 解説: 鉄筋の強度(降伏点)が高くなると、鉄筋が負担できる(=引っ張られる)力が大きくなります。その大きな力に耐えうるようコンクリートにしっかり握らせる必要があるため、鉄筋強度が高いほど定着長さは「長く」必要になります。逆に、コンクリート強度(Fc)を高くした場合は、付着力が強まるため定着長さは短くなります。
問題2 :〇 解説: M図はあくまで仮定であり、地震時や積載荷重の偏りによって応力状態は変化(M図のズレ)します。また、カットオフ点においても鉄筋が有効に働くためには定着が必要です。そのため、理論点に「余長(梁内法スパンの1/4+15dなど)」を足した長さにする必要があります。
問題3 :× 解説: 短スパンでカットオフ筋を採用しても、実際に減らせる鉄筋量はわずかです。逆に、配筋が混雑して現場の作業手間を増やしてしまったり、応力伝達が不連続になり「せん断破壊」などの弱点を引き起こすリスクが高まります。短スパンでは通し配筋とするのが一般的です。
