【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~外装材(ALC・ECP・PC)の支持部材

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鉄骨造を設計する際には、外装材との取り合いについては非常に重要になってきます。
荷重情報だけでなく、外装材の支持方法やその支持方法による力の流れ方を正確に把握することで適切に部材の計画ができます。

外装材の支持部材は小径部材を使用することが多いので、耐力や剛性には余力が少なく、力の流れ方の把握を誤るとすぐにトラブルに繋がります。

今回は外装材の特徴とその支持部材を設計する際の留意点を書いていきます。

今となってはよい経験ですが、支持方法の認識違いで荷重の負担の仕方が違ってヒヤッとしたことや、梁がねじれかけて早急に架設計画したりと・・・本当に深い理解が必要です。

そんな経験も踏まえて構造設計の中では主要構造部ではないですが非常に重要な部分なので記事にしてみました。

設計思想は二次部材も近いのでこちらも参考にしてください。
参考:二次部材設計の留意点
参考:鉄骨造の基本を知る~材料の特徴/計算条件とディテールの整合

目次

①既製品であることを活かして計画する

鉄骨造の外装材は基本的には既製品を利用することになります。工場で作ってきたものを現場で取り付けることになります。既製品であるため基本的なモジュールや基本的なおさまりがあります。それに沿って適切な計画をすることで下地鉄骨を減らして経済的な設計が可能になります。

外皮面積というのは母数が大きいため、外装材に掛かる金額というのは全体金額の中でも比率の高い方に分類されます。そんな外装材の下地鉄骨を極力なくすことはコストへの貢献度は高くなります。

少し部材を小さくして数量を少なくするだけでは効果は小さいので、外装材の割付や開口補強が必要となる開口の割付を整理することで、外装材支持専用の部材を”なくす”ことが上手い設計になってきます。(外装支持鉄骨はざっくりなイメージとしては外装面積あたりの数量としては10kg~20kg/m2くらいのオーダーだと思います。)

②支持部材設計での留意点

材料の種類によらない共通する考え方について扱っていきます。

まず基本的な張り方として縦張りと横張りの2種類があります。鉄骨造であれば一般的に平面的な柱間スパンが飛んでいるので横張りにすると主の柱とは別に中間に間柱が必要となります。
縦張りにすれば大梁とスラブ間の支持で十分に飛ばせることも多いので下地鉄骨もなくすことができます。階高が高い場合には間柱の代わりに耐風梁を設ける必要が出てきます。

開口を設ける場合には、間柱と耐風梁を組み合わせて周囲を補強する必要も出てきます。
下地鉄骨をなくすために厚い材料を使うことで建物全体の荷重は大きくなるので、全体のバランスを見ながら厚さも選定しましょう。

構造設計の中では壁の荷重を拾うときには、階高の中間で分けて上下階に割り振ることが基本ルールになっていますが、外装材を支持する部材に対してはすべてがその考え方が当てはまるものではありません。おさまりによっては上下どちらかの梁のみで負担していることがあります。

この考え方を誤ると、どちらかの部材には想定の倍の荷重が掛かることになるので、想定外の変形や損傷に直結します。

どうして上下で均等に固定しないかというと、主要には地震での変形になりますが、そういった変形に追随するために、ルーズホールを設けるなどの工夫がされています。

なので初期段階でカタログや意匠図でおさまりを確認して、主要に荷重を負担している部材がどれになってどの位置にどれくらいの大きさの荷重が作用しているのかを把握しましょう。
RC造の壁のように等分布荷重として作用するのではなく、ある一定ピッチでの支持になるので、それも踏まえて断面算定を行いましょう。

設備架台などの目隠しで使用してるような、建物本体以外の部分で小径部材を使用している箇所は余力も小さいので要注意です。
また、長期荷重だけでなく風荷重に対しての横力も負担していることを踏まえてH鋼であれば使用する向きも考えていく必要があります。

外装材と支持部材との平面的な距離にも注意が必要です。例えば外壁芯と梁芯からの距離が大きくなると梁の側面に片持ち形式で受け材となるガセットプレートを付けます。その際に鉄骨梁にねじる力が掛かります。H鋼はねじれに対して非常に弱い部材です。あまり離れが大きい場合には反対側に反力成立する部材を取りつける必要があります。

スラブが取りつく梁であればスラブでねじれを拘束できるので問題ありませんが、その際にも施工手順には注意が必要です。スラブの強度発現よりも先に外装材の取り付け工事とならないようにしましょう。

③よく使用する外装材

よく使用する外装材を3種類について具体的に考えていきます。

ALC版

ALCは軽量気泡コンクリートのことです。コンクリートの約1/4の重さになるので、構造設計にも優しい材料です。
ローコスト建築でよく使用される材料です。厚さにも種類があるので、飛ばしたいスパンに応じて厚さを選ぶことで下地をなくすことが可能になります。

外壁で使用する場合には厚さは100~200mmで長さは6m以下、幅の基本モジュールは610mm以下になります。鉄骨図のスパンを考える際にも基本モジュールに沿っていることが経済設計をするためには重要なことになります。

詳細はこちらを参考にしてください。一般社団法人 ALC

ECP版

ECP版は押出成形セメント板のことです。実務の中ではよくアスロックという言葉の方が聞きなじみがあるかもしれませんが、アスロックは製品名になります。

ALC版に比べて意匠性があることからやや割高になりますが、支持の仕方については基本的に同様の考え方になります。
厚さは50、60、75、100mmで長さは5m以下、幅の基本モジュールは1200mm以下でいくつかあります。

単純な材料の比重で比較するとALC版の方が小さくなりますが、ECP版は中空かつ強度が高くて薄いため外壁の面積当たりの荷重はほとんど差がありません。

縦張りの場合には鉛直荷重を負担するのは下端の部材になります。上端の部材は水平方向に対しての支持部材になります。下端部材はECPの荷重をすべて負担してもねじれないように設計する必要があります。

詳細はこちらを参考にしてください。押出成形セメント板協会(ECP協会)

PC版

前述の材料に比べてグレードも重量も大きいのがPC版(プレキャストコンクリート)になります。強度も高いため開口補強を設けなくても済んでしまうことが多いと思います。また、基本的には建物に応じて作る製品になるので、既製品のメーカー品を使っている感覚とは違ってきます。

PC版は材料としてはRCになるので重量が大きくクレーン計画でもクリティカルになることもあります。重量が大きいということは支持方法や施工手順を誤ると、鉄骨部材がねじれるというトラブルが起こりやすいとも言えます。

詳細はこちらを参考にしてください。高橋カーテンウォール工業株式会社

まとめ:外装材は「単なる荷重」ではなく「力の伝達」として捉える

今回の記事では、鉄骨造における外装材の支持方法と、それに伴う構造設計の留意点について解説しました。 外装材の設計は、ともすれば「仕上げ荷重として拾っておけばOK」と単純化して考えがちですが、実際には部材のねじれや想定外の変形など、多くの落とし穴が潜んでいます。

  • 既製品の特性を活かす: ALCやECPなどの基本モジュールを理解し、割付に合わせて架構を計画することで、下地鉄骨(二次部材)を減らし、大幅なコストダウンにつなげる。
  • 力の流れを「想像」する: 「壁荷重は上下で半分ずつ」という固定観念を捨て、実際の支持金物(縦張り・横張り・ロッキング機構)の形状から、力がどこに集中し、梁をどうねじろうとするのかを正確に把握する。
  • 施工手順への配慮: 片持ち形式で受ける場合など、スラブによる拘束が期待できるのか、それともスラブ打設前に外装が付くのか、施工フェーズまで想像して安全性を確保する。

「たかが二次部材」と侮らず、ディテールまで踏み込んで検討することが、トラブルのない現場、そして経済的で美しい鉄骨造を実現する鍵となります。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 構造計算において外壁の重量を拾う際は、一般的に階高の中間で上下に振り分けてモデル化するが、外装材を支持する個別の部材(耐風梁やファスナー等)の設計においても、経済性を高めるため、原則としてパネル1枚の重量を上下の支持部材で均等に(50%ずつ)負担させる前提で断面算定を行うのがよい。

解答1 :× 解説:構造計算上の荷重拾いと、個別の支持部材の設計は分けて考える必要があります。 外装材は、地震時の層間変形に追従するため、ロッキング機構(一方は固定、もう一方はルーズホールでスライドさせる等)を持たせることが一般的です。その場合、自重(鉛直荷重)は「下端のみ(または上端のみ)」で全重量を受けることになります。「半分ずつ負担する」と誤解して設計すると、実際の支持部材には想定の2倍の荷重がかかり、変形や脱落の原因となります。

問題2 外装材の取り付け位置が梁の中心から離れており、片持ち形式のガセットプレート等を介して支持する場合、H形鋼の梁には「ねじれ」の力が作用する。H形鋼はこの「ねじれ」に対して非常に弱いため、反対側に補強を入れるか、スラブによる拘束効果(およびその強度発現時期と施工順序)を十分に検討する必要がある。

解答2 :〇 解説:H形鋼は「曲げ」には強いですが、「ねじれ」には極端に弱い断面形状です。外壁芯が梁芯から離れると、その偏心によって梁をねじる力が発生します。スラブが打設され硬化していれば拘束されますが、スラブ打設前に外壁を取り付ける工程の場合、梁がねじれてしまうトラブルが起きやすいため、施工手順や補強の検討が不可欠です。

問題3 ECP版(押出成形セメント板)は、ALC版(軽量気泡コンクリート)と比較すると材料自体の比重が大きいため、外壁としての単位面積当たりの重量(kg/㎡)もECP版の方が大幅に(倍近く)重くなる。したがって、ECP版を採用する場合はALC版の時よりもはるかに強固な下地鉄骨が必要となる。

解答3 :× 解説:確かに「材料単体の比重」はコンクリートに近いECPの方がALCより重いです。しかし、製品として見ると、ECP版は「中空形状」かつ「薄肉(強度が高いため薄くできる)」であるのに対し、ALC版は厚みがあります。 結果として、外壁としての「単位面積当たりの重量(kg/㎡)」で比較すると、両者に大きな差はありません。そのため、重量を理由に下地鉄骨のサイズが劇的に変わるということは基本的にはありません。

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