今回は「鉄骨造の基本を知る」シリーズとして、前回の記事で触れた鉄骨造の弱点を補う重要な部材、「横補剛(よこほごう)」について深掘りしていきます。
鉄骨造の基本を知る~鉄骨造の弱点「座屈」とは?原因と対策を解説
横補剛は、目立たない部材ですが、設計の初期段階で方針を決める必要があり、建物全体の架構計画にも影響を与える非常に重要な要素です。
この記事では、横補剛の基本的な役割を再確認しつつ、どのような性能が求められるのか、そしてその基準を満たさないとどうなるのかについて、分かりやすく解説していきます。
① 横補剛とは?~H形鋼の弱点を克服する~
改めて、横補剛の役割から確認しましょう。 一言でいうと、横補剛はH形鋼の梁が「横座屈(よこざくつ)」するのを防ぐための補強部材です。
梁に上から力がかかると、弓のように下側(梁せい方向)にたわみます。このとき、梁の断面を見ると、上側のフランジには「圧縮力」が、下側のフランジには「引張力」が作用します。
引張力を受ける下フランジは、引っ張られることで安定します。一方で、圧縮力を受ける上フランジは、細長い柱が圧縮されてぐにゃっと曲がる「座屈」と同じ現象を起こしやすくなります。 この上フランジが横方向(面外方向)にはらみ出し、同時に梁全体がねじれてしまう現象、これが「横座屈」です。
横座屈は、鋼材が本来持っている強さ(降伏耐力)を使い切る前に、耐力を失う現象です。
この横座屈のしやすさは、圧縮フランジがどれだけ自由に動けるか、つまり「横補剛で支えられていない区間の距離(横補剛点間距離)」が長いほど高まります。
そこで、この弱点を補うために、コンクリートの床スラブと一体化させたり、小梁や母屋、あるいは専用の横補剛材を一定間隔で設置したりして、圧縮フランジを横から支えます。これが横補剛の基本的な役割です。
②横補剛に求められる性能とは?
では、横から支えればどんな部材でも横補剛として機能するのでしょうか?当然ながら、ふにゃふにゃな部材で支えても意味がありません。
横補剛には、適切に機能するために、大きく分けて「剛性」と「耐力」という2つの性能が求められます。
横補剛における剛性とは、梁の圧縮フランジが横に動こうとするのをしっかりと拘束する硬さです。圧縮フランジが動こうとしたときに、自身が変形してしまっては意味がありません。
横補剛における耐力とは、梁が横座屈しようとするときに発生する横方向の力に対して基本的には許容応力度を満足する必要があります。(ここは設計者の思想にもよるとは思います。)
補剛されている大梁においては大地震時に対する検討ではありますが、その耐力を保証する際に補剛部材まで塑性化領域に達してしまうと十分な剛性がなくなってしまいます。
各部材の役割を踏まえて検討用の耐力を何にするかを判断しましょう。
次に実際に横補剛に作用する外力についてです。梁が完全に安定しているわけではなく、実際にはわずかに横方向へ動こうとする力が働きます。
一般的に、この力はそれほど大きなものではなく、補剛される梁のフランジが受けている圧縮力(=梁断面積/2×σy)の2%程度の力に耐えることができれば良いとされています。わずか2%ですが、この耐力があるかないかで、梁が本来の性能を発揮できるかが決まるのです。
この2%は横方向の初期たわみを想定した値になっています。
これらの「剛性」と「耐力」を確保するために、横補剛として用いられる小梁やブレース自身の検討だけでなく、それらと大梁を接続するボルトの本数などももれなく検討する必要があります。
参考:大阪府構造計算適合性判定 指摘事例集 -よくある指摘事例とその解説
具体的な計算方法事例
③ 必要横補剛配置を満足していないとどうなる?
構造設計の基準では、横補剛をどのくらいの間隔で、どのように配置すべきかが定められています。ただし、設計上はその条件を満足させないという選択肢もあります。設計の実務でどのような配慮をするべきなのかを具体的に見ていきます。
一次設計においては横補剛の間隔に応じて許容曲げ応力度を低減する必要があります。
この低減は、横補剛点間距離が長くなればなるほど大きくなります。梁せいが大きく梁幅が小さい程に低減は大きくなります。
こういった場合に梁の断面を大きくするのか、横補剛を配置する方が経済的なのかを判断する必要があります。
二次設計においては耐力の低減だけでなく、部材ランクに対しても考慮する必要があります。部材の靭性が保証できないため、架構のランクはFDとなり建物全体の必要保有水平耐力が大きくなります。
ブレースを配置して強度型(変形が小さい)場合には、横補剛間隔を満足しないという考え方もありえます。
一貫計算ではこれらの想定した部材の耐力や部材ランクが反映されていることを、計算条件の設定で確認しましょう。座屈を考慮した耐力になっていることや、横補剛の配置が部材ランクに反映されているのか、小梁を横補剛としてカウントしてよいのかなど、設定が多岐に渡るので確実に反映させましょう。
また、一貫計算では小梁を横補剛としてカウントしたり、横補剛専用の部材を配置することができますが、前述したような横補剛しての性能を満足しているのかまでは確認しないので別途検討するようにしましょう。
まとめ
今回は、鉄骨造の重要な要素である「横補剛」について深掘りしました。
- 横補剛は、梁の圧縮フランジが横にはらみ出す「横座屈」を防ぐための補強部材である。
- 横補剛には、梁をしっかり支えるための「剛性」と、発生する力に耐える「耐力」が求められる。
- 横補剛の配置が不十分だと、梁の耐力の低減が必要。建物の特性を踏まえて横補剛間隔の方針を決める必要があり、必ず満足させないといけないわけではない。
横補剛は、普段私たちの目に触れることは少ないかもしれませんが、鉄骨造の構造的な合理性と安全性を支える上で、なくてはならない存在です。
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