【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~柱脚仕様の使い分けと露出柱脚のチェックの視点

【S造】

鉄骨造の設計で欠かせないのが柱脚の設計です。鉄骨造で「柱脚」という場合、柱の最下部そのものだけでなく、基礎コンクリートとの接合部全体を指します。そのため、どちらの意味で使っているのか、関係者間での認識を合わせることが重要です。

接合の仕様によって柱材の機能の仕方、柱脚の仕様は、建物の耐震性能などの要求性能(クライテリア)に大きく影響します。

また「実務で露出柱脚を選ぶとき、一体どんな点に注意すればいいんだろう?」なんてこともあるのではないでしょうか?

今回の記事では柱脚仕様において、使用頻度の高い「露出柱脚」を中心に、基本的な役割から法告示上の扱い、そして実務で部材を選定する際の具体的なチェックポイントを解説していきます。

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①柱脚仕様にはどんな種類がある?どう使い分けている?

鉄骨造の柱脚には、大きく分けて「露出柱脚」「根巻き柱脚」「埋込柱脚」の3種類があります。RC造とは異なり、鉄骨造では基礎と柱を一体の材料で作るわけではないため、これらのいずれかの方法で柱と基礎を強固に一体化させる必要があります。

  • 露出柱脚: 施工がシンプルで工期を短縮しやすく、コスト面でも有利なため、実務で最も広く採用されています。
  • 根巻き柱脚/埋込柱脚: より強固な固定が必要な場合や、特殊な条件下で採用されることが多い方法です。

この記事では、数ある柱脚仕様の中から、実務で最も多く使われる「露出柱脚」に焦点を当て、その選定における重要なポイントを解説します。

露出柱脚は、完全な「固定」ではなく「半固定」と呼ばれる状態になります。これは言葉の通り、ピン(自由に回転する)と固定(全く回転しない)の中間の性能を持つことを意味し、構造計算では「回転ばね」としてモデル化します。

固定度だけを考えれば根巻き柱脚や埋込柱脚が有利ですが、これらは鉄骨建方後に行う配筋や型枠、コンクリート打設といった工程が増え、コストと工期に影響します。そのため、駐車場の柱で衝突防止を兼ねる場合や、小規模な庇(ひさし)などでどうしても柱脚を固定したい場合など、明確な意図がある場合に部分的に採用されるのが一般的です。

どの工法も選択肢として知っておき、建物の特性やコストに応じて適切に使い分けることが重要です。

参考:支点条件の仮定/基礎部の剛床の重要性

②まずは基本から!法律で決まっている露出柱脚の5つのルール

ここからは、最も使用頻度の高い露出柱脚について掘り下げていきます。 まず基本として、建築基準法関連の告示(平12建告第1456号)で定められている仕様を把握し、設計時に「変更してよい数値」と「厳守すべき数値」を区別できるようにしましょう。

※雑談:このように法令で明確に数値が定められている項目は、一級建築士の構造分野の問題で出題されやすい傾向にあります。

告示では、露出柱脚については簡単にまとめると以下の5つのルールが示されています。

  1. アンカーボルトの配置: 柱の中心に対して均等に配置すること。
  2. ナットの緩み止め: 二重ナットなどで緩まないようにすること。
  3. 定着長さ: アンカーボルトの径の20倍以上の長さを確保すること。
  4. ボルト断面積: 柱の断面積に対し、ボルトの総断面積は20%以上にすること。
  5. ベースプレートの厚み: アンカーボルト径の1.3倍以上の厚さにすること。

柱脚に限らずRC部分に定着を取る際に慣例的に20dを使うのはここから来ていると思います。

この20dは弾性範囲での繰り返し荷重に対してアンカーボルトは安定した挙動を示す長さとして、『鋼構造接合部設計指針』ではいわれています。これはコーン状破壊を防ぐためにもある程度定着金物や折り曲げ位置より上部にコンクリートを確保する必要もあることも踏まえていると考えられます。

ここで規定しているものから露出柱脚の性能を規定する上で重要している要素がなにか見えてきます。

現在では既製品の柱脚を使用することが主流であり、これらの基本仕様は当然満たされています。しかし、設計者として一度は原文に目を通し、ルールの背景を理解しておくことが大切です。

③露出柱脚はどう選ぶ?計算のチェックの視点

前章でも少し触れましたが露出柱脚では在来工法よりも既製品を使用することがほとんどだと思うので、実務上既製品を使用する際に必要な視点を最後にまとめていきたいと思います。

一貫計算の中でタブで簡単に選べてしまうのでNGが出たら変えることが簡単にできてしまうのですが、適当にOKにするのではなく初期段階で意図を持って選べるようになりましょう。

・保有水平耐力接合タイプへの適合

まず大きな仕様としては、保有水平耐力接合タイプへ適合させるかどうかで耐震設計の大きな考え方や、使える製品というのが絞られてきます。

いわゆる、構造関係技術基準解説書の中にある露出柱脚を建築物の計算ルート別の設計フローでどのルートで設計するか決めるということです。

これは、大地震で建物が大きく変形した際に、柱脚と柱本体のどちらが先に降伏(塑性化)するかという設計思想の選択です。

  • 適合タイプを選ぶ場合: 柱本体が先に塑性化し、エネルギーを吸収します。
  • 適合タイプを選ばない場合: アンカーボルトなど柱脚部が先に塑性化します。

このような定義があることから冒頭でも柱脚が示している部分を明確に使い分けることの重要性を述べています。この適合によって仕様が大きく変わってくることがわかってきたと思います。

この適合は絶対ではないですが、エネルギー吸収能力が変わるので、Ds値の割増が必要になる場合が多いです。製品によって条件があるのでそれはもれなく確認するようにしましょう。

ここで重要なのは細かな数値の整合よりも先に大地震後の損傷状態を想像したときにどのような残留変形状態になっているのかを踏まえてあえて「保有水平耐力接合タイプ」に適合させないという選択が最適になる場合もあります。

フロー図を見るとどうしてもYES側に合わせてしまいたくなりがちではありますが、意図を踏まえて最適な判断をしましょう。

参考:保有水平耐力と保証設計~「安全な壊れ方」を設計するRC・S造の検討項目

・回転剛性

建物全体に影響を与える要素として大きいのがこの回転剛性になります。この回転剛性も建物の変形だけを考えれば値が大きい方が良いですが判断はそんなに単純ではありません。

回転剛性を選定する際に注目する視点としては、建物全体の剛性の確保、柱材の応力状態(応力の中立点が柱の中心に近ければ、柱の断面を経済的にできるなど)、偏心率あたりだと思います。

当然回転剛性を大きくするということは、アンカーボルトの本数を増やすか径を大きくする、外側に配置するためにベースプレートを大きくする(結果板厚も厚くなる)といったコスト増に直結もするので最適な値を選択するようにしましょう。

負担する力を小さくして部材を小さくするために意図的に回転剛性を低くしている製品もあるのでそういった製品も意図に合わせて使用しましょう。

参考:EXTRA SLIM(究極の極細柱)~木造建築に美しく洗練された柱を
参考:細い柱(地震力を負担しない部材)の作り方

・せん断耐力の評価

露出柱脚のせん断耐力の評価式は単純にアンカーボルトのせん断耐力だけで決定されるわけではなく、軸力や曲げモーメントの関係なども踏まえて決定されるので、特に引張力の掛かるような柱では想定以上にせん断耐力が取れないといったこともあります。

そういった場合でもスラブ内に柱脚部分を埋め込むことで、スラブコンクリート部分にせん断力を負担させるといった方法もあります。これらは工法が違っても似たような考え方のものはあっても、それぞれの工法で認定を取っているので評価式の中身が違ったりしているので、中身を把握して想定していたほどに耐力が確保できないといったことがないようにしましょう。

・礎柱サイズ

意外と抜けがちな部分ですが、鉄骨柱に対して思った以上に大きな礎柱が必要だったということがあります。この礎柱の最低サイズは工法の条件として決まっていることなので変更することができません。

柱にPSを抱かせていた場合に、実は礎柱と干渉しているといったことや、外壁面から大きく凹凸が見えているといったことがないように柱の仮定断面サイズと一緒に共有するようにしましょう。

まとめ:最適な柱脚を選ぶために

今回は、鉄骨造の柱脚、特に「露出柱脚」について、その基本から実務的な選定ポイントまでを解説しました。

  • 柱脚には3種類あるが、施工性とコストから露出柱脚が主流。
  • 露出柱脚には法律で定められた基本的なルールがある。
  • 実務では「保有水平耐力」「回転剛性」「せん断耐力」「基礎サイズ」の4つの視点で、意図を持って製品を選ぶことが重要。

構造計算ソフトを使えば、部材の選定はボタン一つでできてしまいます。しかし、その数値の裏にある物理的な意味や、建物全体に与える影響を理解して選択することが、より安全で経済的な設計につながります。

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