【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~冷間成形角形鋼管(コラム柱)設計の留意点と計算ルート別解説

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中大規模の鉄骨造では欠かせない存在になっている冷間成形角形鋼管。普段はコラム柱、あるいは材料の種別で BCP、BCR なんて言葉で呼んでいると思います。

H形鋼の柱とは違って、X方向・Y方向のどちらにも同じ性能を発揮し、極端な弱点となる弱軸がなく、断面性能も高いのが特徴です。

一見すると設計もしやすいように見えますが、角形鋼管柱が地震時にきちんとした性能を発揮するためには、色々と留意すべき点があり、それを数値できちんと確認する必要があります。

今回の記事では、冷間成形角形鋼管(コラム柱)を用いた設計をする際の留意点を、その原理から具体的に確認すべき数値まで解説していきます。

目次

① 冷間成形角形鋼管とは?どんな種類がある?

冷間成形角形鋼管(コラム)は、その名の通り「冷間(常温)」で鋼板を曲げ加工して四角いBOX形状にした鋼材です。

加工の仕方によっていくつかの種類が分かれますが、共通していることは「一度加工して変形させている」ことです。鋼材は加工されると、目に見えない内部応力(残留応力)が残ったり、特に曲げられたコーナー部分の性質が変化したりします。

主な製造方法には、複数のローラーで連続的に曲げていく「ロール成形」と、プレス機で鋼板を曲げる「プレス成形」があります。 その影響の度合いや製造方法、品質管理の違いによって、設計上の扱いに違いが出てきます。主に使われるのは以下の3種類です。

  • BCR(冷間ロール成形角形鋼管)
    • 主にロール成形で作られます。建築構造用に開発された鋼材で、一般的なコラム材として広く使われます。「BCR295」などがこれにあたります。正式には「建築構造用冷間ロール成形角形鋼管」と呼ばれ、JASS 6(日本建築学会建築工事標準仕様書・鉄骨工事)に規定されています。
  • BCP(冷間プレス成形角形鋼管)
    • 名前の通り、プレス成形で作られます。BCRよりもさらに耐震性能を高めたコラム材です。こちらも「建築構造用冷間プレス成形角形鋼管」としてJASS 6に規定されています。
  • STKR(一般構造用角形鋼管)
    • ロール成形またはプレス成形で作られる、JIS規格(JIS G 3466)で定められた一般的な角形鋼管です。BCRやBCPが建築構造用に特化しているのに対し、STKRはより汎用的な鋼管と言えます。そのため、耐震設計上の要求が、BCRやBCPに比べて厳しくなる場合があります。

冷間成形角形鋼管のコーナー部は、加工硬化により母材よりも強度が上がりますが、同時に靭性が低下する可能性があります。特に地震時の繰り返し荷重に対する性能を考慮する必要があります。BCPやBCRは、この点を考慮して建築構造用に開発されているため、STKRよりも耐震性能が優れています。

参考:材料と形状の使い分け完全ガイド

② 冷間成形角形鋼管を使用する際の留意点

冷間成形角形鋼管を柱に用いる場合、通常の耐震計算(ルート1, 2, 3)に加えて、以下の4つの要素を組み合わせて特別な検討(付加項目)を行う必要があります。

  1. 耐震計算ルート(ルート1-1, 1-2, 1-3, 2, 3)
  2. 柱・はり接合部の形式(ダイアフラムの形式)
  3. 材料の種類(STKR, BCR, BCP)
  4. 崩壊形(全体崩壊形、部分崩壊形)

まず重要なのが「接合部の形式」と「筋かいの接合」です。

1. 柱・はり接合部(ダイアフラム形式)

角形鋼管の柱にH形鋼の梁を接合する場合、柱の内部(または外部)に応力を伝えるための「ダイアフラム」という補強板を設けます。この形式によって、設計上の扱いが変わります。

  • (a) 通しダイアフラム
    • 柱を梁の位置で一度切断し、間に厚い鋼板(ダイアフラム)を挟んで溶接する形式です。
    • 応力伝達が最も確実ですが、溶接の品質管理(完全溶け込み溶接)が非常に重要です。
    • スカラップ(溶接欠陥防止のための切欠き)の形状や大きさにも注意が必要で、過大なスカラップは応力集中の原因となります。溶接部の靭性確保のため、適切な溶接材料の選定や施工管理も重要です。
  • (b) 外ダイアフラム
    • 柱を切断せず、外側にダイアフラムを設ける形式です。
    • 製作はしやすいですが、ダイアフラムの角(入隅部)に応力が集中しやすいため、注意が必要です。
  • (c) 内ダイアフラム
    • 柱の内部にダイアフラムを設ける形式です。
    • 柱を切断して内側にダイアフラムを溶接するなど、製作に手間がかかります。
  • (d) ノンダイアフラム工法
    • 最近では、ダイアフラムを使用しない接合方法も開発されています。柱と梁の接合部に特殊な補強を施すことで、ダイアフラムなしでも十分な耐力を確保する工法です。
    • 施工の簡略化やコスト削減が可能ですが、適用条件や設計上の制約を十分に理解する必要があります。

溶接部の靭性確保

冷間成形角形鋼管の接合部では、溶接部の靭性確保が特に重要です。地震時の繰り返し荷重に対して十分な変形能力を確保するため、以下の点に注意が必要です:

  • 溶接材料の選定:JIS Z 3211に規定されるD種(高靭性)の溶接材料を使用することが推奨されます
  • 溶接施工管理:予熱温度や層間温度の管理、適切な溶接順序の遵守
  • 溶接部の非破壊検査:超音波探傷試験(UT)や放射線透過試験(RT)による品質確認

特に通しダイヤフラム形式では、完全溶け込み溶接の品質が建物の耐震性能に直結するため、厳格な品質管理が求められます。

2. 筋かい接合部

地震力に抵抗する「ブレース」をコラム柱に取り付ける場合も注意が必要です。

  • 偏心させない:力の中心(軸心)が、柱の軸心とずれる(偏心する)と、柱に余計な曲げモーメントがかかるため、極力偏心させないように設計します。
  • 柱の面外変形::非常に大きな引張力や圧縮力が、ガセットプレートを介してコラム柱の「面(板要素)」に作用します。この力が大きいと、柱の面が面外方向に変形してしまい、ブレースの耐力が十分に発揮できなくなる恐れがあります。これを防ぐため、必要に応じて柱の内部にリブ(補強材)を入れるなどの対策が必要です。

3. 幅厚比制限

冷間成形角形鋼管の設計では、幅厚比(B/t:断面の幅を板厚で割った値)の制限が重要です。幅厚比が大きいと局部座屈が生じやすくなり、耐力や変形性能が低下します。令和元年の告示改正では、幅厚比の上限値と適用条件の明確化などの改定がされています。

参考:鉄骨造の弱点「座屈」とは?原因と対策を解説

③ 冷間成形角形鋼管に関する知っておくべき数値

ここが最も重要なポイントであり、冷間成形角形鋼管の根本的な設計思想になります。
そもそも冷間成形角形鋼管を用いた場合の詳細検討というのはどういう場合に適用されるのかの認識が重要になっていきます。地震力を負担する柱が冷間成形角形鋼管であれば当然検討対象になりますが、例えば地震力は負担をせずに長期荷重を負担するために配置した柱に当然これらの対応は不要になります。

一貫計算では自動で色々と判定してくれるのは助かる一方で機械的な判断しかできないため、長期荷重のみを負担する部材として入力している場合には適切な入力や補正が必要になります。

冷間成形角形鋼管を柱に使う場合に限らないですが、全体崩壊形となるように設計します。「柱が梁よりも先に壊れない(降伏しない)」ようにするため、耐震計算ルート、材料の種類、ダイアフラム形式に応じて、柱の設計用応力を割り増したり、柱の耐力を低減することで確実に梁降伏の崩壊形となるように検討します。

参考:崩壊形とヒンジ図のチェックの視点

1. ルート1(保有水平耐力計算をしない場合)

「地震力による柱の設計用応力の割増し」を行います。ルート1では簡易な方法で検討するようになっています。

これは、柱の設計用応力を応力解析の値から割り増すことで柱が降伏しにくくするための安全率を高めています。
例えば、通しダイアフラム形式の場合、柱の材料によって以下のように応力を割り増します。

  • STKR 使用:1.4倍/BCR 使用:1.3倍/BCP 使用:1.2倍

耐震性能が確保されているBCPほど割増率が小さく、STKRは最も厳しく見られていることがわかります。

2. ルート2(柱・はり耐力比の確認)

「柱・はり耐力比の確認」を行います。
これは、柱の曲げ耐力が、梁の曲げ耐力の合計よりも十分に大きいことを確認する計算です。

『十分に大きい』の定義は当該接合部における「柱の全塑性モーメントの和が、梁の全塑性モーメントの和の1.5倍以上」の耐力を有していることになります。

この条件を満たした上で、もし柱に STKR材 を使用している場合は、ルート1での条件であった、地震力による応力割増し1.4倍を柱脚の許容応力度の検証に対して行う必要が出てきます。

参考:柱梁耐力比とパネルゾーンの重要性/梁ウェブ評価の注意点

3. ルート3(保有水平耐力計算をする場合)

「崩壊系の判定」を行います。まず、柱が梁よりも十分に強いか(全体崩壊形となるか)を判定します。

  • BCR, BCP材の場合:「柱の全塑性モーメントの和が、梁の全塑性モーメントの和の1.5倍以上」または「柱の全塑性モーメントの和が、接合部の全塑性モーメントの和の1.3倍以上」のいずれかを満たす必要があります。
  • STKR材の場合: ルート2と同様

もし上記の条件を満たせず、「部分崩壊系」(=柱が梁より先に降伏する可能性がある)と判定された場合は、その柱の耐力を低減して保有水平耐力を計算しなければなりません。

例えば、通しダイアフラム形式で部分崩壊系と判定された場合、材料に応じて以下のように耐力を低減します。

  • BCR 使用:0.75倍/BCP使用:0.8倍

地震時に柱が先に壊れてしまうと建物全体が崩壊する危険があるため、そう判定された層の柱、最下階柱脚及び最上階柱頭(柱ヒンジを想定する箇所)は、厳しく評価(低減)するルールになっています。このケースだけは低減という概念が出てきます。建物全体の耐力の検証であるため低減することが安全率を高めることになります。

また、これは柱ヒンジとなっても耐力が十分にあることを確認することが目的であるため該当柱に取り付く梁にはヒンジが生じない想定になります。

保有耐力計算の中で、保有耐力時として耐力がそのままの場合(全体崩壊形)と低減した場合(部分崩壊形)との2回増分解析を行うことになり、どちらの場合でも保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回っている必要があります。

ただし、必要保有水平耐力を算出するためのDsは全体崩壊形の場合の値を採用するためどちらのケースの検討においても必要保有水平耐力は同様の値になります。

このケースでも一貫計算の結果を鵜呑みにせずに補正する必要がある場合があります。例えばH鋼の耐震間柱を設けた場合にそこでの仕口部も比較用の耐力の和に計上されてしまうため、梁の耐力の和が大きく計上されます。

設計意図を踏まえて数値に違和感はないかは確認するようにしましょう。

参考:保有水平耐力計算とは~計算体系を整理
参考:「塑性ヒンジ」の概念と保有水平耐力計算における役割を解説

まとめ

冷間成形角形鋼管(コラム柱)は、弱軸がなく断面性能も高い、非常に優れた構造材料です。しかし、その性能を最大限に引き出し、安全な建物を設計するためには、H形鋼柱とは異なる特有の性質を深く理解しておく必要があります。

今回の記事の重要なポイントをまとめます。

  1. 材料特性の理解 BCR, BCP, STKRは製造方法や品質が異なり、耐震性能(特に靭性)に差がある。設計で要求される性能に応じた適切な使い分けが必要
  2. 接合部の詳細な配慮ダイヤフラム形式の選定に加え、特に筋かい(ブレース)接合部では、柱の面外変形(局部座屈)を防ぐための検討が不可欠
  3. 崩壊形確保のための必須計算:「梁降伏先行」の原則を守るため、耐震計算ルートに応じた「応力の割増し」や「耐力の低減」といった特別な検討が法律で定められている。

これらの留意点を確実に押さえ、コラム柱の特性を正しく設計に反映させることが、耐震性の高い鉄骨造建築物を実現する鍵となります。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 冷間成形角形鋼管は、製造過程で鋼板を常温で曲げ加工するため、特にコーナー部(角)は加工硬化によって強度が上昇する。STKR材(一般構造用角形鋼管)はこの硬化による強度上昇を積極的に利用しているため、BCP材やBCR材よりも耐震性能(靭性)に優れた材料として扱われる。

解答1 :× 解説: 逆です。冷間成形による加工硬化は、強度を上げますが、同時に「靭性(粘り強さ)」を低下させます。STKR材は一般構造用であり、建築構造用として塑性変形能力(靭性)が保証されたBCP材やBCR材に比べて耐震性能は劣ります。そのため、大規模な地震力が想定される建築物では、STKRの使用には厳しい制限や割増し検討が課せられます。

問題2 冷間成形角形鋼管(BCR/BCP)を使用した柱において、ルート2やルート3で「全体崩壊形(柱が梁より先に降伏しない)」であることを確認するための「柱・はり耐力比」の検討では、接合部における「柱の全塑性モーメントの和」が「梁の全塑性モーメントの和」をわずかでも上回っていること(比率が1.0以上であること)を確認すればよい。

解答2 :× 解説: 「1.0倍(柱>梁)」では不十分です。 冷間成形角形鋼管は、製造時の加工硬化などの影響や、地震時の挙動の不確定さを考慮し、より高い安全率を見込む必要があります。具体的には、当該接合部における「柱の全塑性モーメントの和」が、「梁の全塑性モーメントの和」の**「1.5倍以上」**(または接合部耐力の1.3倍以上)であることを確認する必要があります。

問題3 保有水平耐力計算(ルート3)において、柱梁耐力比の確認の結果、「部分崩壊形(柱が梁より先に降伏する可能性がある)」と判定された場合、その柱の保有耐力算出時の耐力は、材料に応じて「低減(0.75倍~0.8倍など)」させて評価しなければならない。

解答3 :〇 解説: 正解です。全体崩壊形(梁降伏型)にならず、柱が先に壊れる「部分崩壊形」となる場合、建物が脆性的に崩れるリスクがあります。そのため、安全側の評価として、計算上の柱の耐力をあえて「低減(BCRで0.75倍、BCPで0.8倍)」させた状態で、それでも保有水平耐力が必要量を満たしているかを確認する必要があります。

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