【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本~ブレースの種類と設計の留意点

  • URLをコピーしました!

鉄骨造はRC造に比べて剛性が低く、大きく変形することで主架構の損傷がなかったとしても非構造部材が損傷するリスクが高まります。

準ラーメン構造でDs=0.25で設計した場合には保有水平耐力は十分に確保できたとしても、建物規模によっては剛性の低さが疑問視されることがあります。

補足ですが、Ds=0.25は一次設計用地震力(Co=0.2)の1.25倍に相当します。

保有水平耐力計算では、材料強度を基準強度の1.1倍、断面係数を全塑性断面係数(S造なら約1.1倍~)として評価できるため、計算上の耐力は 1.1×1.1 = 1.21 倍となります。

つまり、一次設計をギリギリで満足している状態でも、計算の仕様上、保有水平耐力もほぼ満足してしまうというカラクリがあります。

こういった剛性不足を補うために重要な要素がブレースになります。ブレースを使用することで、剛性を高めるだけでなくフレーム部材を小さくして経済的な設計にしたり、柱梁の仕口や柱脚部をピン接合にしやすくなるといったメリットがあります。

今回の記事ではブレース部材を使用する際の留意点について解説していきます。

目次

①ブレースの種類

鉄骨造でのブレースは大きく分けて3種類あります。まずはそのブレースの特徴を見ていきたいと思います。

引張ブレース

丸鋼(ターンバックル付)やアングル(山形鋼)、フラットバーなど(細長比が十分に大きい)を用いた形式です。

最大の特徴は「圧縮力には抵抗せず、引張力のみを負担する」として設計する点です。圧縮力がかかった瞬間に座屈(たわみ)が生じて耐力を失うため、一般的にはX型に配置することで、地震時のように2方向からの荷重に対しては、どちらか片方の引張側の材だけが効くという考え方をします。引張力に対してだけ作用するので粘り強い挙動が期待できます。

軽量で安価ですが、耐力が小さいので小規模な建物や工場や倉庫といった多くの箇所に設置できる建物で多用されます。

引張+圧縮ブレース(座屈有り)

H形鋼、角形鋼管、円形鋼管など、ある程度の断面剛性を持つ部材(細長比が小さい)を使用します。

引張力だけでなく、圧縮力に対しても抵抗します。ただし、圧縮力が限界を超えると「座屈」を起こします。座屈した後は急激に耐力が低下するため、設計時には細長比(部材の長さと断面の比率)を適切に抑え、簡単に座屈しないように計画することが重要です。

保有水平耐力時(大地震時)には、座屈後の耐力低下を考慮して構造特性係数や採用する耐力を決定する必要があります。

弾性範囲内で使用する場合は許容圧縮耐力の過小評価は安全側となりますが、終局圧縮耐力として座屈耐力を評価する場合は、耐力を過小評価すると周辺フレームや基礎に対しては危険側になることもあることに留意する必要があります。

座屈拘束ブレース

芯材(鋼材)の周囲をコンクリートやモルタル、鋼管などで覆った高性能なブレースです(アンボンドブレース、二重鋼管ブレースなど)。

芯材が圧縮力を受けても周囲の拘束材によって座屈が防がれるため、引張時と同等の耐力を圧縮時にも発揮します。

地震エネルギーの吸収能力が非常に高く、履歴特性(復元力特性)が安定しているため、制振ダンパーとしての役割も果たします。コストは掛かりますが、高い耐震性能が求められる建物で採用されます。

②ブレースの接合部の考え方

ブレース構造において最も重要なのが「接合部の設計」です。

原則として、ブレース材そのものが降伏(塑性化)して地震エネルギーを吸収する前に、接合部(ガセットプレートやボルト)が壊れてはいけません。これを「保有耐力接合」といいます。
ブレース材の降伏耐力に対して、接合部の破断耐力が材料強度のバラツキも考慮して上回るように設計します。

具体的には、接合部を構成する最も弱い箇所の耐力(=接合部の耐力)を評価します。接合部と一言でいってもいくつもの部材で構成されており、どこかで力の流れが途絶えてしまってはブレースが機能しなくなります。力の流れを正確に捉えて以下の各要素を確認していく必要があります。

 (1) 筋かい端部の破断
 (2) 接合ファスナー(ボルトなど)での破断
 (3) ファスナーの端あき部分での破断
 (4) ガセットプレートの破断
 (5) 溶接部での破断

これら全てが、ブレース部材本体の降伏耐力を上回るように設計することで、ブレースが降伏するまで接合部が破壊しないことを保証します。ブレース部材本体の降伏耐力を確実に上回る必要があるため、材料強度のばらつき等の不確定要素を踏まえて安全率を乗じて必要耐力は決定されます。具体的な安全率は技術基準解説書に示されています。

引用:保有耐力接合とは?鉄骨造の原則「部材<接合部」

参考:応力の重ね合わせとは?基本原理から詳細図への応用まで
参考:混構造を「単純化」する思考法・役割分担と力の伝達

③ブレース設計での留意点

実務設計において、計算ソフト任せにしていると見落としがちなポイントがいくつかあります。

長期荷重の負担の有無

ブレースは基本的に「水平力(地震・風)」を負担させる部材ですが、構造計画によっては「長期荷重(固定荷重・積載荷重)」を負担させることがあります。

特にK型ブレースやV型ブレースのように、梁の中間部に取り付く形式の場合、梁のたわみに追従してブレースに圧縮力が導入されてしまいます。これを避けるためには、解析モデル上で長期荷重時にブレースの軸剛性を無視する設定(剛度増大率を0.001のような数値を直接入力することで補正できます)にするか、あるいは実際に長期荷重を負担するものとして断面算定を行う必要があります。

またこういった長期荷重を負担しているブレースにおいては大地震時のヒンジを許容するのかも重要なポイントになってきます。

剛性評価の補正

一貫計算の中には既製品のブレースを含めて部材を選択すれば簡単に部材を配置することができます。しかし一貫計算の中での剛性評価はその部材の断面形状によって決まってしまいますが、実際には接合部が存在するので、同一の断面が連続している場合と比べて剛性が高くなります。
既製品のブレースであれば実際のブレースの納まりを踏まえてメーカーで算出する式があります。

なので実際の納まりを踏まえて剛度増大率を直接入力して補正する必要があります。剛性を低く評価することは全体に対して安全側の検討とは言えません。特にブレースの取り付く構面の柱梁や杭に対して危険側の検討になっている可能性が高いです。

接合部での偏心

理想的な設計では、柱・梁・ブレースの重心線(図心)は一点で交わるべきです。

しかし、実際の納まりではガセットプレートが大きくなりすぎたり、施工上の都合で重心線を一点に集めることが難しい場合があります。

この時に生じるズレを「偏心」と呼びます。偏心があると、接合部に余計な曲げモーメントが発生します。この偏心モーメントに対して、ガセットプレートや取り付く梁・柱が耐えられるかどうかの確認が必要になります。

既製品柱脚との組み合わせ

露出型の既製品柱脚(ハイベースやベースパック等)を使用する場合、柱脚部分にブレースを取り付ける際にはいくつか注意が必要です。

ブレースから伝わる大きな水平力(水平成分)と引抜き・押し込み力(鉛直成分)が作用することになります。

大きな引抜力が掛かるとアンカーボルトのせん断耐力不足になるケースが多々あります。その場合にはスラブへの埋込み効果を考慮するなどの対応手段があります。最小の埋込深さや耐力の評価式が製品によって異なるので工法ごとの条件を把握して採用しましょう。
外周部の柱の場合には水平力が作用する方向にスラブがない場合があるので注意しましょう。

また、ブレースを取り付けることでDs評価の考え方が変わる場合もあるのでDs値との関係も確認するようにしましょう。

最後の納まりについてですが、アンカーボルトの位置が決まっているので柱芯にアンカーボルトがある場合にはブレースを柱芯から偏心させる必要があります。この場合には偏心による影響も検討しましょう。

まとめ

今回の記事では、鉄骨造におけるブレースの役割と設計の要点について解説しました。 ブレースは建物の剛性を確保し、経済的な設計を可能にする強力な部材ですが、その扱いには以下の3つの注意が必要です。

  • タイプの使い分け: コスト重視の「引張ブレース」、圧縮も負担する「一般ブレース」、高性能な「座屈拘束ブレース」。それぞれの特性(座屈の有無、履歴特性)を理解し、建物規模や要求性能に応じて使い分けることが重要です。
  • 保有耐力接合の原則: ブレース構造の絶対ルールは「ブレース本体が降伏するまで、接合部は壊れてはいけない」ことです。ボルト、ガセットプレート、溶接部など、全ての要素がブレース材の強度を上回るように設計しなければなりません。
  • モデル化の落とし穴: 既製品ブレースやガセットプレートによる「剛性の増大」を無視してはいけません。ブレースの剛性を低く見積もると、計算上でブレースが負担する力が小さくなり、結果として取り付く柱や基礎(杭)に対して危険側の設計となる恐れがあります。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 丸鋼やアングルを用いた「引張ブレース」は、圧縮力が作用した瞬間に座屈して耐力を失うため、一般的にX型に配置し、地震時には引張側のみが有効に働くと仮定して設計する。一方で、「座屈拘束ブレース(アンボンドブレース等)」は、圧縮力を受けても座屈せず、安定したエネルギー吸収能力を発揮する。

解答1 :〇 解説: 引張ブレースは圧縮に抵抗できませんが、安価で一般的です。対して座屈拘束ブレースは、芯材をコンクリートや鋼管で拘束しているため、圧縮時でも座屈せずに耐力を維持し、制振ダンパーのような高い性能を発揮します。

問題2 ブレースの接合部設計における「保有耐力接合」とは、大地震時に接合部(ガセットプレートやボルト)が先に破壊することで地震エネルギーを吸収し、ブレース材本体の損傷(塑性化・破断)を防ぐという設計思想のことである。

解答2 :× 解説: 保有耐力接合の原則は**「部材 < 接合部」**です。 接合部が先に壊れてしまうと、ブレースが伸びてエネルギーを吸収する前に脱落してしまい、耐震要素として機能しなくなります。必ず「ブレース材が降伏しても接合部は耐える」ように設計する必要があります。

問題3 一貫構造計算ソフトでブレースを入力する際、実際の納まり(ガセットプレート等による剛性アップ)を考慮せず、ブレース材単体の剛性のみでモデル化することは、建物全体の変形量計算においては安全側となるが、ブレースが取り付く柱や梁、基礎杭の設計にとっては、応力が過小評価される「危険側」の検討となる可能性がある。

解答3 :〇 解説: ブレースの剛性を実際よりも低く(柔らかく)評価すると、計算ソフトは「このブレースにはあまり力が流れない」と判断し、その反力(柱への軸力や杭への引き抜き力)を小さく算出してしまいます。 実際にはガセットプレート等で剛性が高く(硬く)、大きな力が流れるため、柱や杭が耐力不足になるリスクがあります。剛度増大率などで適切に補正する必要があります。

  • URLをコピーしました!
目次