主に基礎の設計をするのに地盤調査は不可欠です。どのような地盤調査を行うのかから設計が始まっていると言っても過言ではありません。
地盤調査の項目も色々あって、さらに調査結果からはさらにたくさんの係数が出てきて、どの係数が何を検討するのに必要であって、そのためにはどのような調査をどの程度する必要があるのかについて悩むのは、誰もが通る道だと思います。
今回の記事では地盤調査内容と、そこからわかる結果がどのような検討に繋がっていくのかを解説していきます。
① 長期地耐力の検討:建物を恒久的に支える力を評価する
建物の構造設計において、全ての土台となる「長期地耐力」の検討は、最も基本的かつ重要なプロセスです。地盤の状況を正しく評価し、「直接基礎」または「杭基礎」という最適な形式を選択します。
地盤調査の基本は標準貫入試験による地層構成とN値の確認になります。調査本数については、過去の近隣の調査結果がどの程度あるかにもよりますが、目安になるのは『建築基礎設計のための地盤調査計画指針』(日本建築学会)の中にある、建築面積と地層構成の変化の有無により算出できるグラフになります。
【直接基礎】支持力と沈下、2つの視点での地盤評価
直接基礎の場合、基礎直下の地耐力だけでなく、その荷重がさらに下層の地盤に伝わっても問題ないか、支持力に余裕があるかを確認することが重要です。
地耐力を確認する3つのアプローチ
表層地盤の地耐力について確認する方法はいくつかあります。最も確実かつ高い地耐力が確認できる傾向にあるのが平板載荷試験になります。平板載荷試験は支持層となる地盤に直接載荷試験を行って地耐力を確認する方法なので最も信頼できる値と言えます。
ただし、2m以上深い地盤の調査を行うには大掛かりな準備が必要となるため基本的に地表付近の浅い深度で行う試験になります。
その他に地耐力を確認する方法としては、土をサンプリングして一軸圧縮試験や三軸圧縮試験を行って内部摩擦角(土粒子同士のかみ合わせによる強さ)や粘着力(土の粘り気による強さ)、告示式を使って算出する方法があります。
標準貫入試験のN値を使って内部摩擦角を算出することもできますが、この方法はあくまでも推定式なので安全側の判断となるよう値が小さめに設定されるため、サンプリングした試験を使った方が高い地耐力が期待できます。
特に粘性土の場合にはN値からの算定では粘着力が推定できないため、サンプリングが必須になります。
支持力だけじゃない!圧密沈下という潜在的リスク
地耐力以外にも気を付けることがあります。支持層の下に粘土層がある場合には圧密沈下の可能性があるため、圧密試験を行います。砂層の場合には液状化の可能性があるため液状化検討を行います。液状化検討のための地盤調査内容についての詳細は後述します。
【杭基礎】信頼できる支持層へ荷重を確実に伝える設計
一般的な先端支持の杭であれば、先端のN値が重要になります。言うまでもないかもしれませんが、標準貫入試験を行ってN値50以上の層を5m以上確認することが一般的です。
高支持力の既成杭であれば支持力の70%以上は先端支持力であることがほとんどだと思います。
先端支持力以外の摩擦力の計算については直接基礎の場合と同様にN値から内部摩擦角を算出するか、圧縮試験から算出した内部摩擦角や粘着力を使って行います。
中間支持層で杭先端を留める場合には、こちらも直接基礎と同様に支持層以下の圧密沈下や液状化に対しての確認も必要になります。
② 地震時の検討:杭基礎の「水平抵抗」をどう評価するか
杭基礎は建物の重さを支えるだけでなく、地震の横揺れによる水平力にも抵抗しなければなりません。建物が水平に振られると、その力は基礎を介して杭の頭部に伝わり、杭の周囲の地盤が杭を押し返すことで、杭はその力に抵抗します。この地盤が水平方向に抵抗する力を「水平地盤反力」と呼び、この力が弱いと、杭は過大な変形を強いられることになります。
杭の水平抵抗を直接測る「孔内水平載荷試験」とは
この水平地盤反力を直接的に測定できるのが「孔内水平載荷試験」です。この試験は、ボーリング孔内の壁に圧力をかけ、その時の孔の広がり方(変形量)を測定することで、地盤が水平方向にどれだけ強いか(地盤反力係数)を評価するものです。
なぜ「杭頭付近」の調査が重要なのか?
杭頭の変位に最も大きな影響を与えるのは、ご想像の通り、杭頭付近の地盤です。なぜなら、地震時に最も大きな水平力と変位を受けるのが、地表に近い杭頭部分だからです。
平板載荷試験と同様に、実際の地盤で値を測定するので、N値から算出やサンプリングの試験結果よりも高い数値が測定できる場合が多いです。
そのため杭基礎の場合には杭頭付近のレベルで孔内水平載荷試験を行うことは必須と言えるでしょう。より経済的な設計を目指すのであれば杭頭部分の次の層でもう一か所行うのが効果的ですが、これも杭の全体の長さや、杭頭半固定の工法を使うのかなど、杭にどのような曲げの力が作用するか(モーメント図)を想定して調査位置を決定しましょう。
直接基礎の場合には長期の地耐力を算出する際に使用した数値を使って摩擦係数を設定すれば十分なケースがほとんどなので、地震時の検討用に別途調査は不要です。
③ 地下水位・液状化の検討:地盤に潜む「水」のリスク
平時の影響:浮力と施工計画への配慮
地盤調査の中でも水の状況を知ることは構造的な検討以外にも必要な情報になってきます。
ボーリング調査で判明した地下水位は、水位が高いと、地下室や基礎底盤が地下水位よりも深い場合は、常に上向きの「浮力」が作用するため、建物の重量でこれに抵抗できるのかや、基礎底盤自体が、浮力によって生じる曲げ応力などに対して安全かを確認する必要があります。
またピットの仕様を設定する上でも重要になります。地下水位が高い場合にはピットに水が入らないように底盤が必要になります。
また、基礎工事のために地面を掘削する際には、湧水への対策が不可欠となり、安全な施工計画を立てるための必須情報となります。湧水が出る場合には掘削範囲を止水性のある山留で囲って、その中の水を排水することになります。その際に山留の先端は不透水層と呼ばれる水を通さない粘性土まで達する必要があります。
そのため、標準貫入試験を通して地下水位のレベルと不透水層がどのレベルに存在しているのかを確認することが重要です。明確に不透水層かどうかを確認するためには、サンプリングをして粒度試験を行って細粒分含有率を算出します。
地震時の脅威:液状化
液状化は、地下水で飽和した緩い砂地盤が、地震の揺れで液体状になり、建物を支える力を失う現象です。その発生には、以下の「三つの条件」が揃うことが必要です。
- 高い地下水位: 土の隙間が水で飽和していることが絶対条件です。
- 緩い砂質土(低いN値): 粒子間の結びつきが弱く、揺れで構造が壊れやすいことが必要です。
- 液状化しやすい土質(低い細粒分含有率): 粒子同士の粘着力がないきれいな砂ほど、粒子がバラバラになりやすく、液状化に至ります。粒度試験で細粒分含有率(Fc)を測定して評価します。
おわりに:地盤調査は、安全設計への「対話」である
ここまで、地盤調査の結果がどのように構造設計に結びつくかを解説してきました。複雑に見える調査項目も、その目的を理解すれば、設計上の強力な武器となります。最後に、本記事のポイントを振り返ります。
- 長期地耐力: N値だけでなく、土質試験(c, φ)による精密な評価や、平板載荷試験による直接的な確認を使い分けることで、地盤の本当の実力を見極める。圧密沈下の検討も忘れてはならない。
- 地震時の杭: 杭の水平抵抗を評価する孔内水平載荷試験は、安全かつ経済的な耐震設計の要。特に杭頭付近の地盤データが重要となる。
- 水と液状化: 地下水位は浮力や施工計画に直結する。液状化は「高い水位」「緩い砂」「液状化しやすい土質」の3点セットが揃うと危険性が高まる。
それぞれの検討に、どの調査データがどう結びつくのかを理解することが、合理的で精度の高い設計の第一歩となります。地盤を正しく知ることこそ、構造設計の原点なのです。
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