

これらの記事でPC設計の基本について解説してきました。これまでは設計者視点が中心でしたが、PCに強みのある建設業者視点での設計者や施工者とでよくある調整事項やよくある質問事項について解説していきます。
今回はピーエス・コンストラクションさんに協力していただきました。
①よくある調整事項【設計段階】
まずは設計段階で確実に調整しておきたい調整事項を見ていきます。
検討条件の確認段階
・配線形状と不静定応力
基本的には長期曲げモーメントをキャンセルために長期曲げモーメントに近似した配線形状としますが、後に解説するような納まりの関係で配線形状を調整したくなることがあります。しかし、PC設計の経験が少ないとどの程度の変更で応力図にどのような影響があるかが想像がしにくいのが現実です。そこで、まずはPC鋼線の配線形状がどのにして決まっているのかの基本を押さえていきます。
まずは端部は柱芯から約1m程度の直線区間を確保します。そして次に残りのスパンの約1/5の長さで中央下端に直線区間を確保します。あとは長期曲げモーメントの反曲点に合わせて端部と中央の直線の間を結ぶようにします。
単スパンの場合には対称形になりますが、連続スパンの場合には反曲点の位置が対称形にはならないため反曲点の位置に応じて中央の直位置を調整します。

上図のような形状でPC鋼線を引張った場合には、梁中央部の下側にたわんだPC鋼線が上側に持ち上がろうとします。そうすることで梁断面内に圧縮応力度が発生するたけでなく、長期荷重による変形とは逆方向に変形しようとする力が生じます。それは、長期荷重による曲げモーメントを発生させていることになります。
そのため地震荷重が支配的な場合には、曲線にPC鋼線を配置してしまうと過剰な応力が発生してしまうことがあるので、その場合には梁の上端と下端に直線のPC鋼線を配置することで地震時に発生する梁端部の引張力をキャンセルさせます。
納まりの検討段階(現場緊張PCの場合)
PC鋼線を配置する部材単体では特に調整が発生しませんが、PC鋼線は配置した梁に取り付く小梁やスリーブ、仕口部での柱主筋や直交方向の大梁主筋との納まりが課題になります。そのためPC梁の周辺状況を把握して、できるだけ統一化しておくことも手戻りなく進めるためには重要なことになってきます。
柱梁仕口部
柱梁の仕口部では柱幅方向の中央部分に定着具と鋼線が配置されるため柱主筋の配置できる範囲が限られてきます。基本的には柱の端部にしか配筋できないことになります。他の一般的なRC柱として配筋本数を考えていると中央部に数本配筋ができないためその分の耐力が不足することになります。PC梁を受ける柱の主筋は中央部を避けた端部での二段筋で耐力を確保することが一般的です。
仕口部では柱主筋だけでなく、直交する大梁の主筋との干渉も重要な課題になってきます。直交する大梁のレベルとの段差があったり極端に梁せいに違いがあると定着具と干渉することがよくありますので、作図して確認しておくようにしましょう。
小梁の取り付き方
PC鋼線を設置した大梁に比べて小梁が小さい場合には配筋納まりと干渉することは少ないですが、PC梁の中央部付近において梁せいが近似している場合やレベルを下げている場合には下端筋がPC鋼線に干渉することになります。
干渉する場合には、小梁の下端筋を空き重ね継手にするなどして対応する方法もあります。
スリーブ開口
PC鋼線は梁に生じている曲げモーメントに近似した曲線形状に配置するので、場所によってレベルが変わってきます。これによりスリーブも一律のレベルで設置することが難しくなります。このことを踏まえて設備ルートを考えておく必要があります。一般的には、PC鋼線が梁下端部に配置される梁中央部に配置することになります。
②抜けがちな周辺部材の調整事項【施工段階】
PC部材には特殊な応力が発生するため緊張を加えた部材以外にも普段は発生しない応力が発生することになります。それによりひび割れなどの不具合が生じることになります。周辺部材に対して設計図に表現するべきこと、監理段階で確認することを見ていきます。
緊張力に対するひび割れ対策
スラブ補強鉄筋・スラブスリットの必要性
PC梁へのプレストレス導入に伴ない、柱際のスラブに局部変形やせん断変形が生じてひび割れが発生する可能性があります。もう少し具体的にイメージするとプレストレスを導入した柱が梁が圧縮する方向に変形したとするとスラブはわずかですがひし形になります。その際に、ひし形になると対角線が広がろうとする方向に引張力が発生するので柱際に補強筋を配置しています。
補強筋で対応する方法もありますが別の方法としては一部スラブにスリットを設けて、コンクリートを後打ちにして変形の拘束から開放してひび割れを防止するという方法もあります。
耐震壁とPC梁の関係
耐震壁の枠梁にPC梁を配置する機会は少ないように思いますが、スラブのように直接PC梁に取り付く場合でなくても、同じ構面にある場合には注意が必要です。構面全体に微小でも変形が生じるようなことがあれば、スラブと同様に壁にひし形なるように力が掛かることになります。
しかし耐震壁では縁を切るようなことはできないので、壁部分のコンクリートを後打ちにするといった対応を考える必要があります。
また壁のひび割れといった観点以外にも逆に壁が変形を拘束しすぎてしまってPC梁に必要な緊張力が壁に逃げてしまうといったことも考えられるので剛性バランスの観点も踏まえて施工手順を考える必要があります。
施工誤差対策
PC配線配置の許容誤差
PC鋼線の配置は設計図通りに正しく配置する必要がありますが、施工時に多少のズレが生じる可能性があるのが現実です。では実際にどの程度の許容差があるのかというと、JASS5「PC鋼材の配置」で解説されています。
1.部材最小寸法が200mm未満の部分 ±7mm
2.部材最小寸法が200mm以上600mm未満の部分 ±10mm
3.部材最小寸法が600mm以上の部分 ±15mm
部材断面には幅方向とせい方向の2方向があるので、この寸法というのはそれぞれの寸法に対して適用します。ただしスラブについては幅という概念では定義できないのでPC鋼線間隔の1/10程度の誤差以下を目安とします。
③まとめ
今回はピーエス・コンストラクションさんにご協力いただき、設計図や計算書だけでは見えにくい「製作・施工サイド」からの視点を中心に解説しました。
PC設計においては、一貫計算による応力解析などの「理論」も重要ですが、今回取り上げたような部材同士の納まりや、施工段階での変形・誤差といった「実態」をいかに設計段階で予測し、配慮できるかが品質を確保するには不可欠です。
これら特有の調整事項は設計者だけで解決しようとせず、経験が豊富な専門業者さんから学ぶことは重要なことです。学ぶ場合にもただ教えてもらう、決めてもらうといった丸投げではなくお互いに理解しようとすることや多少間違っていてもよいものを作るために意見を出し合うことが必要です。
ピーエス・コンストラクション株式会社

1952年創立以来、PC(プレストレスト・コンクリート)技術の先駆者として、各種の建設工事に数多くの実績をあげ、競争が熾烈な建設業界の中でも独自の存在感を堅持しながら事業を展開しています。
ピーエス・コンストラクション(株)は、旧(株)ピー・エスと旧三菱建設(株)が2002年に合併してできた会社です。旧(株)ピー・エスは、土木分野、特に橋梁部門を得意としてきました。また、PC技術を初めて日本で商業化した会社です。また、旧三菱建設(株)は、マンションや商業施設等の一般建築の分野を非常に得意としてきた会社です。
この2社が合併したことにより、土木と建築、二つのフィールドで存分に技術力が活かせる様になるとともに、旧(株)ピー・エスの持っていたPC技術を建築分野にも応用できるようになり、様々な仕事に対応できる事業体系が整いました。
これからも高度な建設技術を求め、研究・開発に力を注ぐとともに、工事の計画・立案・設計・施工までのトータルシステム化と、時代に対してフレキシブルな組織の確立を目指していきます。

