【わかりやすい構造設計】RC梁の開口補強~既製品スリーブの計算チェックと図面での注意点

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建築設計の中では、換気や給排水などのダクトや配管は不可欠であり、そのルートを確保するために躯体への開口を設けることも不可欠です。

RC造であれば梁貫通(スリーブ)を設ける際には開口補強を行います。現状では施工性の優れた既製品を採用することがほとんどなのではないかと思います。

メーカーによってそれぞれ特徴がある部分もありますが、大きな考え方については共通している部分も多いので、メーカー任せにならないための基本的な考え方について、今回の記事では解説していきます。

目次

①基本的な適用ルール

既製品に限らず、スリーブ設置には基本中の基本となるルールがあります。まず、孔径のサイズは梁せいの1/3以内、孔の中心間はスリーブの径の平均の3倍以上の距離を確保する必要があります。孔径のサイズはスリーブの呼び径ではなく外形であることに注意が必要です。

既製品の適用範囲は、一般的な設計で使用範囲外になることはまずありませんが、コンクリート強度や梁せいの最低寸法、あばら筋比、引張鉄筋比の規定がある場合もあるので、適用範囲も念のため確認するようにしましょう。

②開口補強ではどのような耐力を確保している?

梁の開孔補強設計での耐力は、有孔梁せん断終局強度が無孔梁のせん断強度もしくは両端曲げ降伏時のせん断応力のいずれか小さい方の強度以上となるように設計します。

無孔梁のせん断強度の算定には荒川minもしくは、荒川mean式/1.1が採用されています。または両端曲げ降伏時のせん断応力については1.1倍の安全率を見込むことが多くなっています。

製品によって多少の違いは出てきますが、上記をベースとして把握しておいて、それを踏まえてどういった耐力や外力、安全率を設定しているのかを確認することで、メーカーごとの特徴も把握しやすくなると思います。

まずは細かな内容からではなくて、こういった大きな視点を踏まえて計算条件をチェックするようにしていきましょう。

大梁を前提とした開孔補強になっているので、ヒンジを想定していないような小梁については長期荷重に対するせん断ひび割れに対して配慮した上で過剰な補強にならないように必要耐力を考えましょう。

③図面や計算書でチェックするポイント

部材条件が同じであっても評定内容の適用条件から計算結果に違いが生じます。またメーカーが独自に慣例的に使用している数値があるのでそのような数値が他の計算書と整合するように確認するのは設計者の役割になってきます。

特に補強に必要なせん断力を算定するために必要になる情報として以下の内容があります。

  • 長期荷重によるせん断力を算出するための荷重条件
  • 両端曲げヒンジ時の応力状態を想定するために使用するスラブの鉄筋量
  • 内法スパンの取り方は間柱は袖壁などの効果を踏まえて最適になっているか
  • 同一符号においてスパンが極端に異なる場合の採用スパンの考え方
  • 主筋位置dtやそれを踏まえた引張鉄筋比pt
  • 必要耐力を算出する際の安全率の設定

これらの数値に過剰の安全率が見込まれるような数値になっているとコストが増える方向になってしまうので適切な値になっているかは確認しておきましょう。

時々、補強が入りきらなくて計算NGになっているという話しが現場から来ることがありますが、その際には上記の値を確認していけば、基本的にはNGは解消できます。

またこれらの内容は開孔位置やサイズが評定条件を満足していることが前提になるので、端部のヒンジ領域(柱際から梁せい範囲)への開孔の配置については図面でしっかりと確認して、構造設計者としてどう判断するのか(在来で補強する、開孔位置を調整するなど)が重要になっていきます。

個人的な考えとしては上下の2段開孔配置は計算上OKであっても極力避けるようにしているのと、計算上では開孔上下の梁部分のスタラップ補強が不要となった場合にでも、200mm以上が無筋になることは避けるようにしています。

評定条件を満足しているからなんでも問題ないと判断するのではなく、構造設計者としての認識を重ねて判断していくようにしましょう。またそのような判断した場合にも、増額とならないように図面に一筆入れておくなど工夫もしておきましょう。

まとめ

今回の記事では、設備ルート確保に不可欠な「梁貫通孔(スリーブ)」の補強について、既製品を採用する際の実務的な留意点を解説しました。 「メーカーの計算書がOKだから大丈夫」と思考停止せず、以下の視点を持つことが重要です。

  • 基本ルールの徹底: 孔径は梁せいの1/3以下、間隔は径の3倍以上といった大原則を守ることはもちろん、呼び径ではなく「外径」で判断する点に注意が必要です。
  • 耐力評価の仕組み: 開口補強は、「無孔梁のせん断耐力」または「曲げ降伏時のせん断力」のいずれか小さい方を上回るように設計されます。このロジックを知っていると、NGが出た際の原因特定が早くなります。
  • 入力値の精査: メーカー計算書の入力値(スパン、荷重、スラブ筋の考慮など)が過剰に安全側になっていないか、あるいは実状と乖離していないかをチェックするのは設計者の責任です。また、ヒンジ領域への配置や多段開口など、計算外の配慮(工学的判断)も忘れてはいけません。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 RC梁に複数の貫通孔を設ける場合、それぞれの孔による応力集中が干渉し合わないようにするため、孔の中心間距離は「孔径(平均径)の2.5倍以上」を確保することが構造設計上の原則とされている。

解答1 :× 解説: 孔の中心間距離は、原則として「孔径の平均の3倍以上」確保する必要があります。 また、孔径のサイズ制限(梁せいの1/3以下)などを確認する際は、スリーブの「呼び径(75φなど)」ではなく、実際に埋め込む管の「外径(ボイド管やスリーブ管の実寸)」で判断する必要がある点も注意が必要です。

問題2 既製開口補強金物の選定において、確保すべき耐力(有孔梁せん断終局強度)は、原則として「穴が開いていない状態の梁(無孔梁)が本来持っているせん断耐力」、もしくは「梁が両端で曲げ降伏した時に生じるせん断力」のいずれか小さい方の値を上回るように設計する。

解答2 :〇 解説: 開口補強の目的は、孔を開けることによって「梁が弱くならないようにする(無孔梁と同等以上)」か、あるいは「梁が曲げ降伏するまでせん断破壊しない(脆性破壊を防ぐ)」ことを保証することです。これらを比較し、設計目標となる耐力を設定します。

問題3 既製品の開口補強金物を使用する場合、メーカーの認定計算書で「OK(適合)」の判定が出ていれば、その耐力は保証されているため、柱際などの「ヒンジ領域(梁端から梁せいDの範囲)」に開口を設ける場合であっても、構造設計者が個別に配置の是非を検討したり、在来補強への変更を検討したりする必要はない。

解答3 :× 解説: メーカーの計算書はあくまで「その位置でその金物を使った場合の耐力」を示しているに過ぎません。 構造設計の原則として、塑性化が予想される「ヒンジ領域(梁端D範囲)」への開口設置は避けるべきです。やむを得ず設置する場合は、既製品計算の結果に関わらず、設計者がリスクを判断し、開口位置をずらすか、靭性を確保できる在来補強(ダイヤレンなど)を検討する必要があります。

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