ラーメン構造では不可欠な大梁ですが、一般的な線材モデルの応力解析での曲げやせん断力の検討だけに限らず、条件によっては追加で色々な検討をする必要があります。
今回の記事では、どういった場合にどのような検討が必要になるのかを解説していきます。
①大梁の靭性確保の大前提
まずは具体的な検討が必要となるパターンを解説するにあたって、大梁の靭性を確保するにあたっての大前提となる基本的な考え方について解説します。
靭性性能がある大梁というのは、降伏ヒンジを許容する部位に十分なエネルギー吸収能力があるものを示します。ラーメン構造の大地震時での崩壊形は基本的には梁先行の崩壊形を目指します。建築物の靭性を確保するには梁部材のエネルギー吸収能力(塑性変形能力)の保証が不可欠になります。
塑性変形能力がある梁というのは、部材変形角が1/50に達するまでせん断破壊せず、耐力を維持できるものを指します。
梁の塑性変形能力を保証するためには、曲げ変形能力の確保と脆性破壊(せん断破壊や付着割裂破壊)の防止を行う必要があり、引張鉄筋比の制限や横補強筋による全主筋の拘束、せん断強度や付着強度が発生応力に対して安全率を考慮した値に対して満足していることを確認します。
参考:RC造設計の本質を知る/材料特性から耐震設計の勘所まで
参考:崩壊形とヒンジ図のチェックの視点
参考:RC部材種別の判定基準の物理的意味を解説
参考:保有水平耐力と保証設計~「安全な壊れ方」を設計するRC・S造の検討項目
②特殊条件での注意点【ラーメン架構】
短スパンでの大梁
大梁の靭性を確保するにあたって短スパンの大梁には十分に留意する必要があります。スパンが短いため剛比が高く大きなせん断力が発生します。特にシアスパン比((Lo/2)/D)が1.5程度の極端に短スパンの場合にはX配筋の併用といった付着割裂破壊を防止することが望ましいです。
許容応力度計算であればある程度の余裕度を持った許容応力度設計をして耐力を確保しておくというのが大事になります。
大地震時の検討では崩壊形を想定することになりますが、その際には当然曲げヒンジを想定することになると思います。一般的にヒンジ領域は梁せいと同様と仮定します。そのため両端ヒンジを想定するのであれば少なくとも理論上は梁せいの2倍以上の内法スパン寸法が必要になります。シアスパン比が極端に小さい場合の問題は前述していますが、それも踏まえて設計者としての+αのスパンを確保するのかという判断は非常に重要です。
また増分解析をする中で短スパンの大梁のせん断破壊で計算ステップが終了することがありますが、短スパンの梁なので長期荷重の支持への影響具合を踏まえて、耐力や部材ランクへの考慮をどうするかは考える余地があると思います。
カットオフ長さ
梁主筋に付着破壊が生じると、引張側主筋の応力の上昇とともに圧縮側主筋は圧縮力を維持できなくなります。また、梁2段目主筋の付着強度は1段目と比較してかなり低いことが明らかになっています。
これらのことを踏まえて、部材中央部で端部の主筋の本数を減らす(カットオフ筋にする)場合は、曲げ耐力の低下を防止するために、付着強度に対する主筋のカットオフ長さを確認し、一般的な端部主筋の定着長さ(=Lo/4+15d)で付着強度が確保されていることの検証が必要です。
標準寸法で満足しない場合には目立つ形で断面リストに特記する必要があります。
参考:鉄筋の「定着長さ」とは?カットオフ筋の留意点
参考:付着割裂破壊の原理と対策(RC鉄筋の付着・基本編)
ねじれの検討(平面的な折れ曲がり梁・片持ち床)
梁が直線でない場合には、角度が変わる部分を起点として鉛直方向への曲げせん断力以外にねじれの応力が発生します。特にバルコニーの部分のような外周部で片方向にしかスラブが取り付かない場合には梁自身のねじれ耐力(剛性)で反力を処理する必要があるので耐力の検討をしましょう。

またRC造で多いのは片持ちスラブを梁の側面で支持しているパターンです。この場合にも梁を介して片持ちスラブから連続するスラブが配置できればスラブ同士で反力を処理できますが、外周部や吹抜けでスラブによる反力が期待できない場合には梁の検討をしましょう。
③特殊条件での注意点【耐震壁架構】
境界梁(耐震壁に隣接する梁)
境界梁の応力を評価する上では、剛性の設定について理解しておく必要があります。RC造部材の剛性においては、中地震の検討である弾性解析においては曲げひび割れの剛性低下を考慮しないため、耐震壁の剛性が非常に高いままでの応力解析モデルとなるので耐震壁に取り付く梁端部の応力は非常に大きくなり実態とは異なる場合があります。
それに対して大地震時の検討である増分解析の中では曲げひび割れによる剛性低下を考慮しているため、部分的に応力が大きくなるようなことはなく、実態に応じた応力になっていると考えられます。
特に大地震時の計算時には境界梁の剛性・耐力がとても重要な要素になってきます。境界梁が早期に降伏ヒンジが発生すれば耐震壁も変形するので負担せん断力が小さくなります。逆に剛性・耐力を高めれば、隣接する耐震壁の負担せん断力を大きくすることもできます。
耐震壁の崩壊形や負担水平力をコントロールする上で境界梁は非常に重要な役割を担っていると言えます。
耐震壁枠梁(連層耐震壁内部)
耐震壁の枠梁は基本的には一貫計算の中では断面算定対象外として扱ってると思います。耐震壁の耐力評価の際にも靭性指針を用いることがなければ、耐震壁のせん断耐力の評価式にも影響はありません。だからといって断面サイズを小さくしすぎたり配筋を少なくしすぎることは、耐震壁の耐力式の大前提から逸脱する可能性があり評価式で期待している耐力が出ない可能性があります。
技術基準解説書の『付録1-3 鉄筋コンクリート造に関する技術資料』の中に耐力を発揮するための条件についての解説があるのでそれを踏まえて断面を設定するようにしましょう。
また連層で縦長の開口が設けられるような場合には、壁の取り付きもなく短スパンの梁となってしまうのでその場合には開口部分で梁には十分な耐力を持たせて、耐震壁として機能するようにしましょう。
ピロティ柱の柱頭に取り付く耐震壁下部の枠梁
主にピロティ柱の柱頭部の曲げの負担、直上階の耐震壁が負担しているせん断力を柱へ伝達するために必要なせん断耐力と軸方向の耐力を検討する必要があります。
具体的な計算方法はRC規準によりますが、まずはなぜこの検討が必要でどのような崩壊を想定しての力の流れなのかを把握しないと検討用の応力の算出でつまずくことになります。
単純に耐震壁の負担せん断力が大きいパターンで機械的に検討するのではなく、柱が引張側、圧縮側なのかということを踏まえて検討用の応力を設定する必要があるので、そのことを念頭に解説を理解するようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、一般的なラーメン構造の計算ではカバーしきれない、大梁の特殊な条件下での検討事項について解説しました。 以下の3つの視点を持つことが、計算ソフトの結果を鵜呑みにしないための鍵となります。
- 靭性の阻害要因を排除する: 大梁の役割は、大地震時に曲げ降伏してエネルギーを吸収することです。その邪魔をする「せん断破壊」や「付着割裂破壊」を防ぐため、短スパン梁のシアスパン比や、カットオフ筋の定着長さには特段の注意が必要です。
- 力のねじれを見逃さない: 平面的な折れ曲がりだけでなく、片持ちスラブを支持する外周部梁など、スラブからの反力が「ねじれ」として作用する箇所は、ソフトの自動計算外となることが多いため、手計算等での補正検討が不可欠です。
- 壁との関係性を操る: 耐震壁周辺の梁(境界梁)は、壁の挙動をコントロールする重要な部材です。弾性解析時の応力集中や、ピロティ柱頭部への応力伝達など、解析フェーズ(一次・二次)に応じた挙動の違いを理解しておく必要があります。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
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問題1 大地震時に大梁が安定してエネルギーを吸収(塑性変形)するためには、曲げ降伏する前にせん断破壊しないことが前提となる。特に内法スパンが短い「短スパン梁」においては、せん断力が支配的になりやすいため、両端に降伏ヒンジが発生するメカニズムを成立させるには、理論上、梁せいの2倍以上の内法スパンが必要とされている。
解答1 :〇 解説: 短スパン梁は、曲げモーメントが小さくてもせん断力が非常に大きくなるため、脆性的な「せん断破壊」を起こすリスクが高い部材です。曲げヒンジを形成して粘り強く壊れるためには、ある程度のスパン長さ(理論上は梁せいの2倍以上)が必要です。極端に短い場合はX配筋などの対策も検討します。
問題2 大梁に作用する「ねじれ応力」の検討が必要となるのは、平面的に梁が「くの字」に折れ曲がっている場合に限られるため、直線状の大梁で、かつ片側にしかスラブが取り付かない(片持ちスラブを支持する)ようなケースであっても、梁自体が直線であればねじれモーメントの検討は不要である。
解答2 :× 解説: 梁が直線であっても、片持ちスラブ(バルコニー等)を支持し、反対側にスラブがない(キャンチレバーの回転を抑えるバックストッパーがない)場合、スラブの固定モーメントがそのまま梁をねじ切る力として作用します。外周部の梁では特に注意が必要な検討項目です。
問題3 耐震壁に隣接する「境界梁」の設計において、中地震時(一次設計・弾性解析)の検討では、コンクリートのひび割れによる剛性低下を考慮しないことが一般的であるため、耐震壁の高い剛性に引きずられて梁端部に過大な応力が算出されることがあるが、実態としてはひび割れ等により応力が緩和される可能性があることを理解しておく必要がある。
解答3 :〇 解説: 一次設計(弾性解析)では、RC部材のひび割れによる剛性低下を見込まないため、硬い壁に繋がる梁には計算上、非常に大きな力が集中します。 一方、保有水平耐力計算(増分解析)では、ひび割れによる剛性低下(剛性率の低下)を考慮するため、より実態に近い応力分布となります。この解析フェーズによる剛性評価の違いを理解しておくことが重要です。
