【建築学生向け構造設計コラム】構造設計とはどんな仕事?組織設計・ゼネコン・アトリエの違いは?
こちらの記事では構造設計の仕事内容について解説しました。
私自身も学生の時には、構造設計という仕事を支えて下さっている多くの業種があることを知りませんでした。
どの業種も、より専門性を深めている仕事で非常にやりがいのあるものです。ただ、学生時には(企業との)接点が少なく認知度が低いため、進路の選択肢として知られていないのは非常にもったいないと感じています。
そこで今回の記事では、私たち構造設計者の仕事を支えて下さっている重要な業種について、その魅力とともに紹介していきたいと思います。
① ファブリケーター(製作工場)
ファブリケーター(通称「ファブ」)というのは、私たちが設計した図面に基づき、実際の構造体(部材)を製作する工場のことを指します。構造設計者とは非常に密接な関係にある、いわば「モノづくりのパートナー」です。
図面という二次元の情報を、三次元のリアルな部材へと「翻訳」し、製造するプロフェッショナル集団です。製造するだけでなく、構造設計者がいるファブリケーターもあります。その際には、構造的な観点もセットで提案してくれます。
鉄骨ファブリケーター
鉄骨造の建物における「骨組み」=鉄骨の柱や梁を製作する専門工場です。
私たち構造設計者が作成した「構造図」を元に、より詳細な「工作図」という図面を作成します。どの部分で鋼板をカットし、どこを溶接し、どの順番で組み立てるか、といった製造のノウハウが詰まった図面です。
高い精度での切断、強力な溶接技術、製品の品質管理(超音波探傷検査など)まで、その技術力は建物の耐震性能に直結します。特に溶接の品質は、構造的な強度を担保する上で最も重要な要素の一つです。
「モノづくり」や「鉄」そのものに興味がある人、高い技術力を追求したい人にとっては非常に魅力的な業種です。設計事務所での構造設計者よりも、実際のモノづくりに近い仕事ができます。
木造ファブリケーター
近年、注目されている中大規模木造建築や、複雑な形状の木造建築において欠かせない存在です。
鉄骨と同様に、図面から木材の加工データを作成し、特殊な機械(プレカットマシンやCNCルーター)で木材を精密に加工します。特に木造は「仕口(しぐち)」と呼ばれる部材同士の接合部が非常に複雑で、その設計・加工技術がファブリケーターの腕の見せ所です。
CLTや集成材といった新しい木質材料の登場により、その役割はますます重要になっています。木材の特性を理解し、最新の加工技術を駆使したい人に向いている仕事です。鉄骨ファブと同様に実際のモノづくりに近い仕事ができます。
参考:木造の構造設計は思想が違う!非木造出身者が押さえるべき考え方
② 専門建材メーカー(技術開発集団)
構造設計で用いる部材や工法は、すべてが「特注品(オーダーメイド)」というわけではありません。特定の分野に特化し、高度な技術開発力を持つメーカーが提供する「製品」を採用することも非常に多いです。
その分野のスペシャリストとして、私たち構造設計者に技術的なアドバイスやデータを提供してくれる頼もしい存在です。
杭(くい)
建物の全荷重を地盤に伝える、最も重要な部材の一つが「杭」です。
杭メーカーは、地盤の状況や建物の規模に応じて、最適な杭(既製コンクリート杭、鋼管杭など)を設計・開発・製造・販売しています。
「どうすればより大きな支持力を発揮できるか」「どうすれば施工しやすくなるか」といった研究開発を常に行っており、地盤工学の知識と材料工学の知識が求められます。
また設計としても地盤情報を踏まえて最適な杭種の組み合わせの提案や、施工条件を踏まえた提案も行ってくれます。
参考:既製杭の計算書チェックリスト|メーカー任せにしないための確認ポイント
地盤調査関連
構造設計(特に基礎設計)は、「地盤調査」から始まります。
地盤調査会社は、ボーリング調査や標準貫入試験などを実施し、その土地の地質や地耐力(地盤がどれくらいの重さに耐えられるか)を調べる専門家です。
彼らが作成する「地盤調査報告書」は、私たち構造設計者が基礎の形式(直接基礎か杭基礎か)を決定するための、最も重要なインプット情報です。
地質学や土質力学の知識が求められ、非常に専門性が高い業種です。調査に限らず地震波の作成といった設計者にとっても非常に難易度の高い業務を行っている会社もあります。
地盤については未知な部分も多いため、経験値の高い担当者の意見は非常に参考になります。
参考:N値だけで終わらない地盤調査の読み解き方|支持力・沈下・液状化検討のポイント
参考:地盤の評価(液状化)~法・評価手法の変遷と設計者の役割
鉄骨柱脚・ブレース(接合部・耐震要素)
建物の耐震性能を左右する重要なパーツが、柱と基礎をつなぐ「柱脚」や、地震の力に抵抗する「ブレース」です。
これらのメーカーは、より強度の高い、あるいは地震のエネルギーを吸収できる(制振性能など)高性能な製品を開発しています。例えば、「既製品の露出型柱脚」や、地震の揺れを熱エネルギーに変える「制振ダンパー」などです。
メーカーは自社製品の性能を保証するために膨大な実験データを保有しており、構造設計者はそのデータを信頼して設計を行います。材料力学や構造力学、振動工学などの深い専門知識を活かしたい人にはうってつけの分野です。
ここで紹介したもの以外にも免震やボイドスラブ、鉄筋関連、木造の金物といった多くのメーカーが存在しています。いずれにしても非常に専門性の高い知識を有しています。専門性を深めたい人にはおススメなのでぜひ色々と調べてみてください。
参考:技術評定を取得する背景を知る
参考:PC設計の基本~「PCは高い」は本当?PC設計の基本と可能性
③ 確認審査機関・適合性判定機関
設計図が完成したら、その建物が建築基準法に適合しているかどうかの「審査」を受けなければなりません。この審査を行うのが「確認審査機関」です。
確認審査機関
民間の審査機関や、特定行政庁(役所)がこれにあたります。
彼らは、意匠・構造・設備のすべての図面をチェックし、法的な問題がないかを確認します。構造の力学的な理解だけでなく、法的な専門性が高い職種になります。
適合性判定機関
一定規模以上の建物や、特殊な構造計算を行った場合、上記の「確認審査」とは別に、構造計算書だけを専門にチェックする「構造計算適合性判定」(通称:適判)を受ける義務があります。
これは、構造設計の専門家が、別の専門家の計算をチェックする制度です。
これらの機関では構造の工学的な部分のチェックが主になりますので、高い構造設計への深い理解も求められます。
多くの場合、設計事務所やゼネコンで十分な実務経験を積んだベテランが、その知識を活かして転職するケースが多いですが、新卒で審査・判定の補助業務からキャリアをスタートする道もあります。
参考:申請業務の進め方と心得
参考:建築基準法の耐震性「最低限」の中身とは?/その先を提案することが設計
まとめ
今回は、構造設計者を支える重要な業種として、「ファブリケーター」「専門建材メーカー」「審査・判定機関」の3つを紹介しました。
私たち構造設計者の仕事は、決して一人で完結するものではなく、これらの高度な専門知識を持ったプロフェッショナル達との連携によって成り立っています。
学生の皆さんが「就活」を考えるとき、アトリエや組織設計、ゼネコンといった「設計・施工」の分野に目が行きがちですが、今回紹介したような「製造」「開発」「審査」といった分野にも、非常に面白く、奥深い世界が広がっています。
- 「鉄や木でモノを作るのが好きだ」→ ファブリケーター
- 「地盤や材料の研究を突き詰めたい」→ 専門メーカー
- 「法律やルールを読み解き、安全性を守りたい」→ 審査機関
といった視点で、ぜひBtoB(企業向け)の企業にも目を向けてみてください。皆さんの専門性や興味にピッタリ合う仕事が見つかるかもしれません。

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