【構造設計コラム】構造適判とは?~制度の背景と設計者の向き合い方~

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建築プロジェクト、特に一定規模以上の建物や複雑な構造計算を用いた建物の設計において、避けては通れないプロセスが「構造適判(正式名称:構造計算適合性判定)」です。

設計業務に携わっている方なら日常的に使う言葉ですが、「確認申請とは何が違うの?」「なぜ時間とお金がかかるの?」とはじめのうちは疑問に思われることも多い制度かもしれません。

今回のコラムでは、この構造適判という制度がなぜ生まれたのか、本来の役割は何なのか、そして私たち設計者はこの制度とどう向き合うべきなのかについて解説します。

目次

① 構造適判誕生の経緯

日本の長い建築の歴史の中で見ると、構造適判は比較的新しい制度の部類に入ります。この制度が導入される直接的なきっかけとなったのは、2005年(平成17年)に発覚した「耐震強度偽装事件(いわゆる姉歯事件)」です。

それまでの建築確認手続きでは、構造計算書の詳細な中身まで第三者が厳密に再計算してチェックする仕組みは必ずしも十分ではありませんでした。性善説に基づき、建築士の倫理観と能力を信頼していた部分が大きかったと言われています。

しかし、この事件により、経済性を優先して安全性をないがしろにした構造計算書が、そのまま確認済証の交付を受けてしまっていた実態が明るみに出ました。建築物の安全性に対する国民の信頼は大きく揺らぎました。

これを受け、国は再発防止策として建築基準法を改正(2007年施行)。「一定の高さ以上」「複雑な構造計算ルート(ルート3など)を用いる」といった、高度な構造計算を要する建築物について、従来の建築確認とは別に、専門的な知識を持つ第三者機関が構造計算の内容を厳しくチェックする仕組みを導入しました。

これが「構造計算適合性判定(構造適判)」の始まりです。

② 構造適判の本来の役割

では、一般的な「確認申請(確認審査)」と「構造適判」は何が違うのでしょうか。

確認申請の審査を行う「指定確認検査機関」は、主に提出された図書が「建築基準法という法律に適合しているか(法的な適合性)」を確認します。これは、法律で定められた最低限の基準を満たしているかどうかのチェックです。

これに対し、「構造計算適合性判定機関」の役割は、「その構造計算が工学的に見て妥当であるか」という、より専門的で高度な判断を行うことにあります。計算のプロセス、モデル化の妥当性、入力数値の根拠などが、構造工学の視点から審査されます。

独立した「ダブルチェック」の意図

構造適判の重要な点は、確認審査機関から独立した機関が行うという点です。

確認審査機関と構造適判機関は、同じ審査機関が兼ねて行うことができません。たとえ両方の業務を請け負っている機関であっても、あるプロジェクトで確認審査を依頼した場合は、構造適判は別の機関を選定する必要があります。(省エネ適判は同機関でも対応可能です)

これは、審査の第三者性を担保して厳格なダブルチェック機能を持たせるためです。

このようにそれぞれの役割が分かれているため、例えば「法律の条文解釈に幅があるグレーゾーン」のような内容について、最終的に法的な判断を下すのは「確認審査機関」となります。一方、その解釈に基づいて行われた計算が「工学的に安全と言えるか」を判断するのが「構造適判機関」となります。

それぞれの役割を理解したうえで協議もしていくようにしましょう。

建築法制の建築基準適合性確保機能の検討小委員会(2017〜2020 年度)活動報告の中でも適判審査の実情や課題をアンケート結果からまとめられていますが、建築設計は個別性が高いだけでなく、審査する人の力量にも影響されるため一つの制度の括りの中で運営するには色々な課題があることが見えてきます。

参考:申請業務の進め方と心得
参考:構造設計を支える業種(ファブ・メーカー・審査機関)の仕事内容と魅力を解説

③ 設計者がするべきこと

制度開始から時間が経ち、構造適判は設計プロセスの一部として定着しました。しかし、今でも「適判は指摘が多くて大変だ」「スケジュールが読めない」といったネガティブな声を聞くことも少なくありません。

確かに、審査には時間とコストがかかりますし、厳しい指摘対応に追われることもあります。しかし、ここで重要なのは設計者と審査機関の位置づけを正確に理解して「どう向き合うか」です。

適判制度は国の制度であるため、前段で説明してきたような色々な『建前』が存在します。設計者は言葉をそのままに受け取って、制度に完全に依存することは避けなければなりません。単に国の制度に委ねて設計するのか、構造設計者として安全性については責任を持って設計するのかでは多くの場面で違いが生まれます。

早い段階でこの意識を転換できたかどうかで、構造設計者としての責任感の高さ、技術習得のスピードも大きく変わってきます。

具体的な指摘対応の所作

指摘対応を始めたばかりの頃は、知識不足を感じている中でとにかく応えなければという意識になりがちですが、いくつか留意するべき点があります。具体的な指摘対応の所作についていくつか解説していきます。

指摘内容を鵜呑みにしない

大前提として設計内容について責任を持つのは設計者であって、設計している構造について一番理解している必要があります。それにも関わらず指摘されたからといってそのまま修正することは本当に安全側の変更になるとも限らないうえに、建築総体として実現したいことから逸れていく可能性があります。

あくまでも構造視点での指摘であるので、建築統合的な視点でどのように対応するのかを考えるのは構造設計者になります。

参考:建築基準法の耐震性「最低限」の中身とは?/その先を提案することが設計

根拠を明確にする

大前提として指摘された内容については必ず言われた通りに修正しないといけないわけではありません。判定員の方は限られた情報と時間の中でチェックした内容を指摘として上げてくれているので全ての条件を理解できているわけではありません。

また法では規定されていない工学的な議論においては、法的な拘束力がないこともあり、主観的な感覚での議論になりやすい部分でもありますが、それでは折り合いがつかないことになります。

設計段階から学会基準や技術基準解説書などきちんと技術的な根拠のロジックを見える化して空中戦での議論とならないようにしましょう。これは指摘対応のためということに限らず設計者としての基本スタンスとしても重要です。

参考:設計根拠のおさえ方/学びなおしのススメ

お互いに納得した上で進める

指摘内容というのはリストになった文章で送られてきます。前段でも触れましたが、限られた情報と時間の中でチェックした指摘なので、こちらもすぐに理解できない内容の指摘が入っていることもあります。

指摘対応として修正していると色々な数値が連動して変化する可能性があるので、修正内容が途中で変わると他の修正にも影響が出ることがあります。

なので具体的な修正をする前に、回答案を言葉レベルで作成して、回答方針と指摘の意図を確認してから具体的な詳細作業に入ることが効率的な作業に繋がります。

回答方針の中でも、単純に『修正します。』や『検討書を追加します』といった形で提示するものも見られますが、それではお互いに合意できているかはわかりません。実際に検討書を追加しても、その内容がズレている可能性もあります。極力、文章レベルで具体的に確認できるようにしましょう。

品質を確保するのは設計者の責務

確認審査機関も構造適判機関も整合チェックをする機関ではありません。頭ではわかっていても、実際には図書の不整合に関する指摘が多く出ているのが現状であり、これは大きな課題です。

設計者もわざとではないとしてもちょっとした段取りの工夫でチェックの時間を1日間取るだけでも不整合の数は大きく減ると思います。

実際に現場に不整合のある図面が出ていった場合に責任を取るのは設計者です。不整合は少なくして本来の趣旨に沿った審査ができるようにして提出するようにしましょう。

参考:設計図書の不整合はなぜ起こる?不整合はどうしたらなくなる?

ここで示した内容は正論ではありますが、物件の状況については全てが完璧に実行できないことも実務の中であることもよくあると思います。スケジュール(発注や着工)やコストなど様々な圧力にさらされている中で色々と折り合いを付けていくことはあるのが現実ではありますが、構造設計者として他人に任せるのではなく責務をまっとうするという意識だけは忘れずにいてもらいたいと思います。

まとめ

今回のコラムでは、構造設計実務において避けて通れない「構造適判」について、その成り立ちから設計者が持つべき心構えまでを解説しました。 制度を単なる「通過儀礼」として受け身で捉えるのではなく、以下の3つの視点を持って主体的に向き合うことが重要です。

  • 制度の原点は「信頼回復」: 2005年の耐震偽装事件を契機に、性善説から「厳格な第三者チェック」へと移行しました。この制度は、建築物の安全性に対する社会的な信頼を担保するための「工学的なダブルチェック」システムです。
  • 役割の明確化: 「建築確認」が法的な最低基準(法律への適合)を見るのに対し、「構造適判」は計算プロセスやモデル化の妥当性(工学的な正しさ)を審査します。この役割の違いを理解し、審査機関と適切な協議を行う必要があります。
  • 設計者の責務と所作: 審査機関は設計の責任を負いません。指摘を鵜呑みにせず、以下の姿勢で臨むことが、設計品質と自身の技術力を高めます。
    • 鵜呑みにしない: 建築全体の整合性を考え、設計意図と異なる修正には根拠を持って反論・協議する。
    • 根拠の明示: 主観ではなく、学会基準や技術基準解説書に基づいたロジックで対話する。
    • 合意形成: 手戻りを防ぐため、作業に着手する前に「回答方針」を文章で共有し、審査側と認識を合わせる。
    • 自己検図: 不整合のチェックを審査機関に期待せず、設計者自身が責任を持って品質を確保する。
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