当サイトの記事は構造設計者の人材育成を目的として記事を中心に発信しています。
記事が増えていく中で適切な順番で内容を把握していくことで、より早く、より確実に技術習得が可能になります。
今回の記事ではロードマップ①として構造設計を始めて1年目に習得しておきたい内容についてまとめていきます。
この段階では構造設計の技術的な内容に限らず、仕事をするために不可欠な基本動作を身につけることも大事な時期です。基本動作があって初めて、社会やチームとの信頼関係を築くことができます。この信頼関係がなければ、技術知識があってもそれを活かすことはできません。
①「仕事がデキる人」の土台を作る:基本動作の習得
「何から手をつければいいか分からない」「先輩に質問したいけど、何が分からないかすら整理できない…」社会人1年目では、誰もがこうした壁にぶつかります。技術を学ぶ以前のこの段階でつまずかないことこそ、最速で成長する秘訣です。この章では、社会での信頼を高める土台となる「仕事の基本動作」を身につける方法を紹介します。
仕事場面での段取りの基本
入社して数年は段取りに相当頭を使うことになります。若手時代に限らず、段取りは仕事の中では不可欠なものであり、早い段階で段取りの基礎を身につけた人材とそうでない人材では成果が大きく異なります。
早期に身につけた人材が成果を上げていく一方で、言葉では重要とわかっているだけ、しっかりと段取りの型を自分なりに確立していない人材はいつまで経っても身につかず、いつも期限に追われて、長時間作業している割に成果が出ない、という状況に陥りがちです。
実際に管理職の立場から見ても、スタッフが自ら段取りを組んで、課題を自ら見つけにきてくれると人材育成の負担は相当減ります。
建築業務に限りませんが関係者が多い場面では、自分だけでなく周囲がスムーズに気持ちよく動ける段取りが重要になってきます。
▼「明日からすぐ実践できる段取りのコツを知りたい」「仕事が早い先輩の思考プロセスを覗いてみたい」という方は、ぜひ以下の記事で具体的な方法を確認してください。
[仕事場面での段取りの基本]
『何がわからない』かが”わかるようになる!
「わからないことがあったら質問してね」「なぜ質問しなかったの?」といった言葉は、若手のうちによくかけられるものです。
当然わからないことはなるべく早く聞いて、解決したうえで課題を進めた方が良いことは頭ではわかっていても、「何がわからないのか、わからない」ために質問できないという状況に直面します。
「わからないことがわからない」という壁にぶつかるのは、物事を漠然と捉え、自分なりの「定義」や「軸」がないことが大きな原因です。
まずは、どんな些細なことでも「自分にとって、これはどういうことか?」と定義してみることから始めましょう。その自分なりの定義と、新しい情報や出来事を照らし合わせる習慣をつけることで、思考の解像度は上がり、「なぜだろう?」という本質的な疑問が自然と生まれてくるはずです。
▼「何がわからないか」を言語化し、的確な質問ができるようになるための具体的な思考方法を、こちらの記事で詳しく解説しています。
[『何がわからない』かが”わかるようになる!]
②「計算屋」で終わらないために:構造設計の世界観を理解する
複雑に見える構造設計ですが、その本質は「不確実な自然現象を、いかに合理的なモデルに置き換えるか」という追求です。この「世界観」を理解できると、日々の業務が単なる作業から、根拠ある思考の積み重ねへと変わります。ここでは、設計者としての思考の幹を作るための重要なコンセプトを解説します。
建築構造設計の世界を知る~自然の未知をどう掴むか
建築構造設計とは、複雑で未知な自然現象(風や地震など)を、モデル化(簡略化)することで定量的に扱えるようにする工学です。
そのため実務では、部分的な計算結果のOK/NGを判断する前に、まず「なぜこの建物は安全だと言えるのか」を大きな視点で考え、それを数値で検証するという流れが基本になります。
複雑で難しいと思いがちですが、実は何かの事象を簡略化しているものになるので、「どのような事象を」「どのように」「どの程度簡略化した理論なのか」という視点で考えると、理解しやすくなります。
▼なぜ構造計算が必要なのか、その本質的な意味を理解することで、日々の業務はもっと面白くなります。構造設計の「世界観」をさらに深掘りしたい方は、こちらの記事をご覧ください。
[建築構造設計の世界を知る~自然の未知をどう掴むか]
設計根拠のおさえ方/学びなおしのススメ
建築の構造計算やエンジニアリングは文章が苦手でも計算が得意であることが重要と思うかもしれませんがそうではありません。
工学全般に言えることですが非常に複雑な自然現象を数量的に捉えるために、簡略化しているのが計算の世界です。色々な事象を類型化して少ない言葉や条件で捉えられるように定義(言葉化)してくれているので、定義をおさえることから計算の理解が始まると言えます。
計算の結果についてやり取りするなかでも、「強い」「壊れる」といった曖昧な言葉(例えば、「強い」は剛性なのか耐力なのか、「壊れる」は曲げ破壊なのかせん断破壊なのか)を多用していると、本質的な理解はなかなか進みません。
言葉を正確な定義をおさえながら言葉を選んでいくだけで自分で考えられる幅が大きく変わってきます。
構造計算をする上でも、建築基準法、施行令、告示といった法的拘束力があるものから、建築学会の規準のように基本的には準拠するものの法的拘束力はないものまで、様々な階層(ヒエラルキー)があります。大きな体系を理解しないでやみくもに適合させようとすると、設計で実現したいものから遠ざかり、設計者ではなく「計算オペレーター」になってしまいます。
そうならないためにも根拠をしっかりとおさえられるようになりましょう。
▼「その数字の根拠は?」と聞かれて自信を持って答えられますか?「計算オペレーター」で終わらないために不可欠な、設計根拠の押さえ方と学び方のコツをまとめました。
[設計根拠のおさえ方/学びなおしのススメ]
③設計の精度を上げる:力学の基本と実践的応用
「応力図はソフトが描いてくれるから」「二次部材は単純だから」――。そう考えて、基礎的な検討をおろそかにしていませんか?実は、建物の安全性や品質は、こうした基本的な部分の理解度で大きく左右されます。プロの設計者として、その判断に本当に自信が持てるでしょうか。この章では、全ての設計の根幹となる「力学の基本」に立ち返ります。
応力図の読み方・書き方・チェックの視点
応力図は構造設計をする上では、読み書きできることが必須のスキルです。
基本的なことなのですが、近年は、構造計算ソフトに基本条件を入力すれば応力図が自動で作成され、断面算定まで実行してくれます。そのため前段の準備計算や応力図を飛ばして、入力条件や断面算定の結果ばかりに注目しがちです。
そもそも応力図が間違っていれば、その後の断面算定は全く意味がありません。応力図を正しく読み解くことで、構造物内の力の流れを把握し、数量的な感覚(スケール感)を養うことができます。
▼計算ソフトの出力を鵜呑みにせず、自らの目で力の流れを読み解くスキルは、設計者としての価値に直結します。応力図の正しい読み方からチェックの視点まで、以下の記事でマスターしましょう。
[応力図の読み方・書き方・チェックの視点]
二次部材設計の留意点
スラブや小梁などの二次部材は、柱や大梁へ力を伝える重要な役割を担っており、その設計が建物の品質を大きく左右します。特に、計算上の仮定と現場での実際の納まり(ディテール)を一致させることが重要になります。二次部材は単純なモデルで計算されることが多いからこそ、その背景にある仮定を理解せずに設計を進めると、予期せぬ変形やひび割れといった不具合に直結しかねません。
中でも、設計の鍵となるのが「境界条件」の設定です。支持条件(ピンか固定か)によって応力や変形が大きく変わるため、その仮定の妥当性や、固定とした場合の支持部材側(特にねじれ)への影響まで考慮する必要があります。
▼スラブや小梁といった二次部材の設計こそ、建物の品質を左右する重要なポイントです。思わぬ不具合を防ぐための「境界条件」の考え方や、設計上の留意点を実例とともに解説します。
[二次部材設計の留意点]
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