【構造設計ロードマップ②】「わかったつもり」を脱却し、設計力を伸ばす3つのステップ

【まとめ】

構造設計ロードマップ①に引き続いてこのロードマップ②では、①で身につけた基礎を土台に、①思考の深化、②法規への対応力、③力の流れの読解力という、より実践的な3つのスキルを習得していきます。

ロードマップ①を習得した段階では、ある程度の範囲では自分から主体的に課題を進めていくことができるようになっていると思います。

自分でも判断できることにやりがいを感じ始める時期だからこそ、油断は禁物です。「わかったつもり」にならず、法令や力の流れといった、構造設計に不可欠な基礎を盤石に固め、次の段階への大きな飛躍を目指しましょう。

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①わかったつもりを脱して確実に成長する

ロードマップ①を終え、仕事に慣れてきた頃に訪れるのが「わかったつもり」という成長の踊り場です。ここでは、その壁を突き破り、知識を確実なスキルに変えるための「言語化」と「質問力」という2つの武器を磨きます。

計算の「わかったつもり」から脱却/成長の壁を壊す”言語化”の思考法

構造の基準書や解説書は、初めのうちは見慣れない言葉や数式に圧倒されることでしょう。しかし、実務では課題に期限があるため、すべてを完璧に理解する前に、何らかの答えを出して先に進まなければならない場面が多々あります。

そんな時、構造計算の落とし穴が見えてきます。良くも悪くも、背景にある物理現象や理論を完全に理解していなくても、数値を当てはめれば答え(計算結果)が出てしまい、書類が作成できてしまいます。

例えば、行政や審査機関からの指摘に対し、指示通りに数値を入れ直して計算さえできれば、審査側が意図を汲んでくれて承認されることがあります。すると、内容は理解不十分なまま課題が進んでしまい、本人は「解決できたから、わかった」と錯覚してしまいます。

特に多忙な時期は、一つの課題に時間をかける余裕がなく、それ以上深く考えることをやめてしまいがちです。

その結果、一度解いたはずの計算が知識として定着せず、応用が利かないという事態に陥ります。これは極端な例に聞こえるかもしれませんが、理解度に関わらず同じ数値(答え)が出てしまうのが、計算の怖いところです。

人材育成の場面でも、提出された計算結果の数値だけでなく、その思考プロセスや言葉遣いから、本質的な理解度を把握することが重要になります。

▼「わかったつもり」による思考停止を避けるための具体的な行動と思考方法を知りたい方はぜひ以下の記事で確認してください。
[計算の「わかったつもり」から脱却/成長の壁を壊す”言語化”の思考法]
[「自分で考えたか?」思考の言語化で仕事は劇的に変わる]

質問力の上げ方~質問を通して成長し仲間を増やす

一度疑問に思ったことを考えて答えを知ることは、一方的に知識を教わるよりも頭に残ります。成長していくためには一度限界まで自分の頭を使ってから質問する必要があります。

質問の仕方も、『わからないことは何でも聞く』という段階から、『疑問の背景・自分なりの仮説と根拠を伝えた上で質問し、得られたヒントから答えを導き出す』という段階へと進化させていく必要があります。

物事を前進させること、何かを実現することがあって、その手段として質問があります。しかし、質問の意図が不明瞭だと、受け手は「この質問は何に繋がるのだろう?」と感じてしまいます。

質問をするというのは相手の時間を使って答えてもらうことになるので、そのように思われてしまう質問は失礼だし、そのような状況では良い答えも返ってきません。

質問をする前には必ず相手がどのようなことを返してくるかを予測することが重要になります。それを考えることで、こちらから提供する情報に不足はないか、そもそも質問する相手は適切かといったことを考えて質問するための事前準備の精度も高くなり、結果として得られる質問の答えの質も高くなります。

▼質の高い質問は、あなた自身の成長を加速させるだけでなく、周囲からの信頼をもたらします。相手を動かし、より深い答えを引き出すための「質問の技術」をこちらの記事で解説します。
[質問力の上げ方~質問を通して成長し仲間を増やす]

②法に適合した設計力の獲得

構造設計者には、技術者としての探求心と、法規を遵守する誠実さの両方が求められます。この章では、法律の意図を正しく読み解き、それを技術的な最適解に結びつけるための「法適合」の本質と、実践的な「申請業務」の進め方を学びます。

構造計算ルート適合と耐震性能はイコールではない

建築の構造設計者はエンジニアの中でも法的制約を強く受ける方だと思います。法の意図を踏まえつつ、技術的にも問題ないという最適解を出す必要があります。

法を守ることばかりを考えていると、本当に実現したいものから離れていってしまったり、逆に技術的なことばかりを考えていると申請が通らないといったことになってしまうため、両方の趣旨に沿ってバランスよく設計をしていくことが求められます。

法適合と耐震性能はイコールではないので、本質を理解して法と技術を繋ぐことが設計者の役割と言えます。

法と技術的な見解が完全に相反するわけではありませんが、どちらも完全ではないので、一品生産の建築設計をしていく中では多少折り合いが上手くいかないことがありますが、それを解決することが、構造設計者の腕の見せ所でもあります。

▼構造計算ルートの誕生した背景から、現状の役割についてまとめています。法にどのように向き合うことが適正なのかを知りたい方はこちらの記事を見てください。

[構造計算ルート適合と耐震性能はイコールではない~本質を理解して法と技術を繋ぐのが設計者]

申請業務の進め方と心得

申請業務は確認申請機関や計画通知であれば自治体の建築指導課などと協議をすることになります。はじめのうちは協議で指摘されるとそれを絶対視して、設計内容を変更して満足させようとしてしまうことがあります。

協議で指摘されたことは絶対とは限りません。建築は状況によって様々な解釈があります。

相手の方が法について知っているからと言ってすべてを鵜呑みにせずに、必ず認識を揃えた上で法についての議論をするようにしましょう。お互いに曖昧な経験論などで議論するのは絶対にNGです。

協議相手を絶対視してしまわないようにするためには事前準備がとても重要です。設計者からすれば、申請機関にお伺いを立てるような協議をするのは負け戦にいくようなものです。

あくまでも、確認に行くのが協議です。あらゆる指摘を想定した上で、ロジックと根拠資料を準備し、『問題ありませんね』と言わせることが目的です。

一度お伺いを立ててしまったり、意図せぬ結論を出されてしまうとそこから転換することは非常に難しくなります。なので、どんなことでも一発目が重要ですが、協議では特に重要になります。

▼行政協議は「お伺い」ではなく、準備したロジックで「確認」を取りにいく場です。協議の主導権を握り、スムーズに申請を通すための具体的な準備と心得を、実務経験に基づいて解説します。

[申請業務の進め方と心得]

③力の流れの原理を理解しコントロールする

構造設計の面白さは「力の流れ」を読み、それを意のままに操ることにあります。目に見えない力をどう捉え、どう導くか。ここでは、その根幹をなす「変位」の正しい理解と、構造設計の醍醐味である「力の流れ」をコントロールするための原理原則に迫ります。

絶対変位と相対変位を使い分けることの重要性

構造設計をする中でも非常に重要な要素が変位ですが、その変位の中にも2つ絶対変位と相対変位の概念があります。

構造設計の中では相対変位による概念が多く使われています。例えば、層間変形角になります。これは建物全体の変位に対して評価するだけでなく、各階の層間変形角に対しての基準が設けてあります。

相対変位が大きくなる場合に、お互いに悪影響を及ぼす(局所的に力が集中する)場合があります。

例えば、大部分が変形しやすい鉄骨純ラーメン構造で、一部に変形しにくいRC耐震壁が一体となっている場合を考えます。地震時、鉄骨部分は大きく変形しようとしますがRC壁は変形しないため、その接続部に力が集中して破壊されたり、RC壁側に想定外の大きな力がかかったりします。その改善策としてEXP.Jを設けるといった手段があります。

変位の種類を正しく理解することで力の流れも作れるようになります。こういった基本概念を理解することで、材料や構造特性が違うと反射的になんでもEXP.Jを設けたり、逆にあまり気にせず一体にしてしまうようなこともなく、柔軟に判断ができると思います。

▼「変位」を制する者は、力の流れを制します。絶対変位と相対変位の違いを明確に理解し、EXP.Jの要否などを根拠を持って判断できるようになりたい方は、こちらの記事で基本を固めましょう。
[絶対変位と相対変位を使い分けることの重要性]

構造設計が楽しくなる「力の流れ」の読み方/つまずくポイント解説

構造設計をしていると力の流れという言葉がよく出てきます。実務をある程度経験すると、これが『力の流れ』か、と何かをきっかけに急に理解できることがあります。それがわかってくると構造設計がとても楽しくなってきます。

力の流れは簡単に言ってしまうと、ある荷重が部材を経由して地面まで流れる経路のことになります。その経路の中にある部材が、荷重によって発生する力に対して抵抗できる耐力を持っていないと力の流れが途中で途絶えてしまうことになります。

二次部材を単純なモデルで検討する際によくあるのが、その部材単体での成立性に注目しすぎて、力が最終目的地である柱や基礎までたどり着いているか、という視点が抜け落ちてしまうことです。

末端の部材から順番に検討をしていくことが基本ですが、支点に生じている反力は次に解く部材にとっては集中荷重に変わります。これを順番に繰り返していって柱までの梁部材の耐力が満足することを確認することになります。

力が流れることを確認することや、流れる部材を決めることも構造設計ですが、そのような検討をしているときも意識することは、力の流れ道として他の道はないのか?どうやったら力の流れる道を変えられるのか?ということです。

支点、接合条件と剛性・変形・力の関係がわかれば基本的に力の流れはコントロールできるようになってきます。

▼『力の流れ』とは具体的にどういったことなのかを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
[構造設計が楽しくなる「力の流れ」の読み方/つまずくポイント解説]

【番外編】次の目標:一級建築士への挑戦

ここまでの内容を理解し、実践できる能力が身についていれば、一級建築士試験の合格の可能性が十分に高まっていると言えます。

試験のための勉強時間を確保するためには、基本的な段取り能力は不可欠だし、大量な情報を把握するには、情報を体系化する能力や違和感を流さずに知ろうとする能力といったこれまで解説してきた内容が直結してきます。

▼さらに一級建築士試験の対策に絞った内容を知りたい方はこちらをご覧ください。
【一級建築士試験】構造の勉強は『3つの視点』で劇的に効率化できる
一級建築士試験で掴んだ思考を深め、他者と差をつける「3点思考」のすすめ

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