【構造設計監理】コンクリート管理の基本~押さえるべき数値とその背景

【一級建築士】

構造設計監理シリーズになります。
現場監理の基本動作~先回り力で品質と信頼を築く

今回は、どんな建物にも不可欠な材料であるコンクリートがテーマです。

コンクリートを監理する上では、スランプ、強度、空気量など、知っておくべき数値がたくさんあります。しかし、これらの数値をただ丸暗記しようとしても、すぐに忘れてしまう上に、設計での仕様設定や現場でのイレギュラーな事態に応用が効きません。

なぜその数値が基準になっているのか?その背景にある物理的な意味や歴史的な経緯を理解していきたいと思います。この記事では、コンクリート監理における基本的な数値と、それが決められた背景について書いていきます。

スポンサーリンク

① コンクリート供試体の本数~なぜ3本?管理材齢の理由は?

コンクリートの品質を確認するために、現場で受け入れた生コンからサンプルを採取し、「供試体」と呼ばれる円柱形のテストピースを作成します。この供試体を潰して、設計通りの強度が出ているかを確認するのが圧縮強度試験です。

強度試験では、基本的に1回の試験(打込み工区、打込み日ごと、かつ150m3または端数ごと)で3本の供試体をセットで使います。もし供試体が1本だけだと、その1本に偶然、石が偏っていたり、内部に欠陥があったりした場合、正しい強度評価ができません。2本の場合だと、値にばらつきが出た際にどちらが正しいか判断できません。そのため、統計的な信頼性を確保できる最小限の数として3本が採用されています。

供試体は、決まった期間(材齢)保管・養生した後に試験にかけられます。一般的には「材齢7日」と「材齢28日」で管理します。曜日を固定することで管理しやすくなるという実務的な理由から、7の倍数が慣例的に用いられてきました。

  • 材齢7日:早期の品質予測 コンクリートの強度は、時間が経つにつれて徐々に増進します。材齢7日は、最終的な強度を予測するためです。この段階で強度が極端に低い場合、そのコンクリートの配合に何らかの問題がある可能性をいち早く察知できます。
  • 材齢28日:設計基準強度の確認 建築設計で用いられるコンクリートの強度は、特に指定がない限り「材齢28日」における強度(設計基準強度 Fc)を指します。コンクリートは、約4週間(28日)で水和反応がかなり進み、実用上、設計で期待する強度に達すると考えられているためです。

建築基準法やJASS5では28日に固定されず91日までの期間で選べるようになっています。この改定の背景には、画一的な材齢28日管理によって、かえって過剰な安全率を見込んだ配合になったり、逆に特定の条件下で強度不足が発生したりする問題があったためです。

② スランプ値にはどんな基準がある?

スランプ試験は、まだ固まっていない生コンの流動性(ワーカビリティ)を示すための指標です。スランプコーンと呼ばれる型枠にコンクリートを詰め、引き抜いたときに、コンクリート頂部が何cm下がったか(スランプ量)を測定します。

スランプ値が大きいほど、流動性が高くサラサラしたコンクリート、小さいほど流動性が低く硬練りのコンクリートであることを意味します。

このスランプ値は、設計者が「施工のしやすさ」を考慮して指定します。例えば、鉄筋が密に入っている場所や、ポンプで遠くまで圧送する必要がある場合は、流動性の高い(スランプの大きい)コンクリートを指定します。

一般的に、スランプ値はJASS5や標準仕様書では18cm、スランプの許容差は指定値に対して±2.5cm(高流動コンクリートなどを除く)とされています。この許容差が設けられている理由は、コンクリートが水や骨材といった自然材料を混ぜ合わせて作るものであり、製造・運搬時に多少のばらつきが生じるのは避けられないためです。

  • スランプが大きすぎる場合:想定以上に水が多く含まれている可能性があります。過剰な水は、硬化後の強度低下や、乾燥収縮によるひび割れ増加の直接的な原因となります。
  • スランプが小さすぎる場合:流動性が不足し、型枠の隅々までコンクリートが充填されず、「ジャンカ」と呼ばれる空隙だらけの不良部が発生する原因となります。

スランプは、品質(強度・耐久性)と施工性(作業のしやすさ)のバランスを取るための管理項目になります。

高強度コンクリートの区分について

一般的に、呼び強度36N/mm²を超えるコンクリートを「高強度コンクリート」と呼びます。この定義は1997年のJASS5の改定で行われました。

通常の砂利や砂、普通セメントを使った従来通りの配合では、安定して製造できる強度の上限が概ね36N/mm²あたりでした。実際には品質のばらつきを考慮した品質基準強度への割増があるため、呼び強度36N/mm²のコンクリートを製造する際の管理強度は45N/mm²程度になることが一般的です。

36N/mm²を超える強度を実現するためには、水セメント比が40%を下回ることから、高性能AE減水剤やシリカフュームといった特殊な混和材料の使用や、より厳格な品質管理が不可欠となります。また、コンクリートは強度が高くなるほど、靭性が低下し、脆性的に破壊する傾向があるため、設計法そのものにも特別な配慮が必要になります。

このため、材料や設計・施工上の扱いが明確に変わる境界線として、36N/mm²が「普通コンクリート」と「高強度コンクリート」を分ける一つの目安とされています。

④ 単位水量の上限値185kg/m3の根拠は?

コンクリートの品質を議論する上で最も重要な指標の一つが「単位水量」、すなわち1m³のコンクリートに含まれる水の量です。JASS 5では、普通コンクリートの単位水量は原則として185kg/m³以下と定められています。

コンクリートの強度や耐久性は、セメントと水の比率(水セメント比)に大きく左右されます。水が多すぎる(水セメント比が大きい)と、硬化後に余分な水が蒸発し、コンクリート内部に多くの微細な空隙が残ります。

  • 強度が低下する
  • ひび割れが起きやすくなる
  • 外部から二酸化炭素や塩分が侵入しやすくなり、内部の鉄筋が錆びやすくなる

といった問題を引き起こし、建物の寿命を縮めてしまいます。

もう少し具体的な数値との関係でいうと、ブリーディング量を0.5cm3/cm2以下、乾燥収縮率を8×10-4以下にすることを目標としています。

※ブリーディングとは、まだ固まっていない生コンクリートの内部の水分が、コンクリート表面に浮き上がってくる現象。その浮き上がってきた水の量を「ブリーディング量」と呼びます。

一般的な建物において長期的な耐久性を確保するためには、単位水量をこの185kg/m³という上限値以下に抑えることが一つの有効な指標である、と定められました。

⑤ 空気量の標準値4.5%の根拠は?

コンクリートには、AE剤という混和剤を用いて、微細な空気の泡を意図的に連行しています。その標準的な量が4.5%(普通コンクリートの場合、許容差±1.5%)です。

この空気の泡は、主に「凍結融解に対する抵抗性を高めるため」に入れられます。

寒冷地では、コンクリート内部の水分が凍ったり、融けたりを繰り返します。水は凍ると体積が約9%膨張するため、この膨張圧によってコンクリートの組織が内部から破壊され、表面がボロボロになる劣化現象が起こります。

この空気量は多すぎるとコンクリートの強度を低下させてしまい、少なすぎると凍結融解への抵抗効果がありません。様々な実験の結果、強度への影響を最小限にしつつ、十分な耐久性を確保できる最適な量として、4.5%という値が標準とされています。

⑥ 荷卸し時の温度35℃の根拠は?

夏場の工事では、コンクリートの温度管理が非常に重要になります。コンクリートの荷卸し時の温度は、原則として35℃以下と定められています。

これは、高温のコンクリート(暑中コンクリート)が引き起こす様々な初期欠陥を防ぐためです。

  • 急激なスランプ低下:温度が高いと、セメントの水和反応が急激に進み、コンクリートがすぐに硬くなってしまいます。これにより、現場での作業性が著しく悪化します。
  • コールドジョイントの発生:先に打ち込んだコンクリートが早く固まりすぎると、次に打ち重ねたコンクリートと一体化せず、不連続な面(コールドジョイント)ができてしまいます。これは構造的な弱点になります。
  • 温度ひび割れの誘発:打設時の温度が高いと、その後の冷却による収縮量が大きくなり、ひび割れが発生しやすくなります。

これらのリスクを低減し、健全なコンクリートを確保するための上限値として、35℃という基準が設けられています。近年の温暖化なども考慮され、JASS5の2009年版では、特別な配慮のもとで品質が確保できる場合は35℃を超えることも許容されるようになりました。実務上は、高性能AE減水剤の使用などの対策を講じた上で、38℃程度まで許容されるケースもあります。

created by Rinker
¥2,200 (2025/7/5 11:05:09時点 楽天市場調べ-詳細)

まとめ:基準値の「なぜ?」を知ることが品質管理の第一歩

今回解説したコンクリートの各基準値は、単なるルールではありません。コンクリートの「強度」「耐久性」「施工性」という3つの重要な性質のバランスを取るために、多くの実験と経験から導き出されたものです。

なぜこの数値なのか?という背景を理解することで、マニュアル通りの管理から一歩進み、現場で起こる予期せぬ事態にも応用が利くようになります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました