鉄筋コンクリート(RC)造の設計では、部材ごとに「最小寸法」や「最低鉄筋量」といった、守るべき「最小値」が定められています。数値を覚えるだけでなく、なぜその数値が必要なのか、その「意図」を理解することで、構造設計の理解は格段に深まります。
今回は、RC造のさまざまな最小値に焦点を当て、その数値の背景にある考え方をわかりやすく解説します。
① 柱の最小値
柱の最小寸法(柱径)
柱の太さは、コンクリートの打設しやすさ(施工性)と基本的な強度を確保するための寸法が必要になります。
- 座屈の防止: 細長い柱は、上からの力で折れ曲がる「座屈」を起こしやすくなります。柱の有効細長比(座屈のしやすさを示す指標)が一定値以下になるよう、十分な太さが必要です。
- せん断破壊の防止: 細い柱は、地震時に「せん断破壊」という脆い壊れ方をする危険があります。これは建物の急な倒壊につながるため、適切な柱径と後述する帯筋で、粘り強い性能を確保することが極めて重要です。
- 主筋の配置スペース確保: 柱内部の鉄筋(主筋)を適切に配置し、コンクリートを隅々まで行き渡らせるためには、鉄筋同士の間隔や、鉄筋を保護するコンクリートの厚み(かぶり厚)を確保できるだけのスペースが必要です。
これらの理由から、実務では短辺20cm~30cmを最低ラインとすることが多いです。帯筋の曲げ加工でのR寸法で決まってきます。
建築基準法の施行令の中では支点間距離の1/15以上にするように書かれていますが、構造計算で安全を確かめられればこの規定は除外することができます。
柱の最低主筋量
柱の主筋は、圧縮力や引張力、曲げモーメントに抵抗します。主筋には、断面積の0.8%以上という最低量、本数は当然ながら4本以上と定められており、以下の役割を果たします。ただし、0.8%という数値は1933年の初版のRC規準から用いられていますが、明確な数値的な根拠はないようです。
- ひび割れの抑制: コンクリートが乾燥などで収縮する際に発生するひび割れを抑制し、幅を小さく保ちます。
- 地震時の粘り強さ確保: 地震の大きな力でコンクリートが部分的に塑性化(力がなくなっても元に戻らない状態)しても、主筋が力を受け持つことで、柱が急に壊れるのを防ぎ、建物全体の「粘り強さ」を確保します。
柱の帯筋(フープ)
主筋をぐるりと囲む帯筋(フープ)は、せん断力に抵抗する補強筋で、以下の重要な役割を担います。
- 主筋の座屈防止: 主筋を外側から拘束し、圧縮力による座屈を防ぎます。
- コンクリートの拘束: 柱中心部のコンクリートを締め付け、圧縮強度と変形性能を高めます。これにより、ひび割れが入っても急激な強度低下を防ぎ、柱が粘り強く振る舞うのを助けます。
- せん断補強: 地震時の大きなせん断力に抵抗し、柱のせん断破壊を防ぎます。
帯筋の間隔は「15cm以下かつ主筋径の15倍以下(柱端部=梁からの柱径2倍以内は10cm)」、0.2%以上の配筋量が建築基準法で定められています。ただし、RC規準では間隔は100mm以下という記載があるので、実務上は間隔は100mmが基本になっています。
地震時に大きな変形が集中する柱の端部(柱脚・柱頭)では、せん断耐力を確保して塑性ヒンジ(エネルギーを吸収する蝶番のような部分)を形成させることで、建物の倒壊を防ぎます。なので端部以外は緩和できる記載はありますが配筋ミスの原因となるため、実務で採用されることはほとんどありません。
参考:間違え探し⑫(配筋量)
② 梁と接合部の最小値
梁の最低主筋量
梁の主筋は主に曲げモーメントに抵抗します。引張側の主筋量は、断面積の0.4%以上と定められており、以下の効果があります。
- ひび割れの抑制・分散: コンクリートの収縮ひび割れを抑制し、荷重によって発生するひび割れを分散させて、一つ一つの幅を小さく抑えます。
- 地震時の粘り強さ確保: 地震の大きな力でコンクリートにひび割れが生じても、主筋が力を受け止め、梁全体が急激に壊れるのを防ぎます。これにより、建物が倒壊する前に安全な避難時間を確保できます。
梁のスターラップ筋(STP)
建築基準法では「梁せいの3/4以下」と定められています。実務上は0.2%以上の配筋量かつ間隔は200mm以下が基本になっています。
梁と柱の接合部
接合部は、地震時に大きな力が集中し、建物の耐震性能を左右する最重要箇所です。
- せん断補強: 柱と梁がずれるように作用する巨大なせん断力に対し、帯筋やスターラップ筋などのせん断補強筋を密に配置して、脆性破壊を防ぎます。接合部内の帯筋量は、柱の帯筋をそのまま連続させることが基本で、柱の断面積に対して0.2%か0.3%以上を確保することが一般的です。
- 主筋の定着: 梁の主筋が地震時に抜け出さないよう、接合部内で十分にコンクリートに埋め込み、固定(定着)する必要があります。
接合部は柱のようなせん断破壊は起こらないため、柱に中子筋を設けて帯筋比を高めている場合でも接合部は0.2%か0.3%を満足できる程度にしか配筋しないことが多いです。それは柱とはせん断に対する抵抗形式が異なるためです。
※0.3%という数値は『鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説』の中で推奨値として出てきます。
よくある勘違いが接合部の範囲についてですが、一般的な考え方は取り付くすべての梁が共通している範囲が接合部となります。梁レベルや梁せいが異なる場合には注意しましょう。
参考:柱梁接合部の本質 -歴史的背景とモデル化の理論
参考:間違え探し⑨(配筋量)
③ 趣旨を踏まえた配筋設計
これまで見てきたように、RC造の最小値は、安全性、耐久性、施工性を確保するための深い意図に基づいています。構造計算プログラムで自動的に配筋が決まる部材もありますが、計算だけではカバーしきれない箇所では、これらの最小値の「趣旨」を理解しているかが、適切な設計の鍵となります。
例えば、現場質疑で図面ですべて表現しきれていない、ちょっとした跳ね出しや増し打ちなどについて配筋詳細について確認があった場合に、耐久性や施工性を踏まえた指示ができるかどうかで、設計者としての能力差が意外と表れます。
回答に対して施工者から改善提案がきて、よくよく考えてみたら実は効果がない配筋を配置しているなんてことがあったら恥ずかしいことになってしまいます。
「なぜこの最小値が設定されているのか?」
常にその背後にある構造挙動を問い続けることで、より安全で合理的な設計が可能になります。構造設計は単なる計算作業ではなく、経験と知識に基づいた判断が求められる分野です。最小値の意味を深く理解することが、建物全体の品質向上と、関係者との信頼関係構築につながるのです。
主要部材で最低鉄筋量を用いることは稀ですが、注意したいのが「建築基準法」と「学会規準」の数値の違いです。うっかり法の基準を満たしていなかった、という事態は避けなければなりません。
「建築基準法は守るべき最低ラインであり守っていないと違法になってしまう、学会規準はより良い設計のための指針」
この違いを常に意識し、定期的に法令を確認する習慣が、設計者としての信頼につながります。
まとめ:最小値は「計算できないリスク」への備え
今回の記事では、RC造の柱・梁・接合部における「最小寸法」や「最低鉄筋量」の規定について解説しました。 これらは単なるルールではなく、以下の3つの安全性を確保するための重要な防波堤です。
- 脆性破壊の防止: 細すぎる柱や少なすぎる帯筋は、地震時に一瞬で崩壊する「せん断破壊」や「座屈」を招きます。最小値を守ることは、粘り強い(靭性のある)建物の大前提です。
- ひび割れの制御: コンクリートは乾燥収縮等で必ずひび割れます。計算上不要であっても最低限の鉄筋を入れることで、ひび割れを分散・抑制し、建物の耐久性を守ります。
- 施工性の確保: どんなに理論的に正しい配筋も、コンクリートが回らなければ意味がありません。かぶり厚やあき寸法を確保するための最小断面は、品質確保の出発点です。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 RC造の柱において、主筋の断面積の合計は柱断面積の「0.8%以上」とする規定があるが、これは主に長期荷重に対する耐力を確保するためだけでなく、乾燥収縮によるひび割れの抑制や、大地震時にコンクリートが塑性化した後も急激な耐力低下を防ぎ、建物の粘り強さ(靭性)を確保する目的がある。
解答1 :〇 解説: 最低主筋量(0.8%)は、単に重さを支えるだけでなく、コンクリートの収縮ひび割れを防いだり、大地震時にコンクリートが損傷しても柱がバラバラにならずに耐え続ける(靭性を発揮する)ために必要な量として定められています。
問題2 柱の帯筋(フープ)の間隔について、建築基準法施工令では「柱の端部(仕口から柱径の2倍以内の距離)」においては密に配置(10cm以下)することが求められているが、それ以外の中央部においては間隔を広げてもよいという緩和規定があるため、施工ミスを防ぐ目的よりもコストダウンを優先し、実務においても中央部のピッチを広げる設計が一般的である。
解答2 :× 解説: 法令上は中央部のピッチを広げる緩和規定(15cm以下かつ主筋径の15倍以下)がありますが、実務では「配筋ミス(ピッチの切り替え位置の間違い)」を防ぐため、あるいは全域での高い靭性を確保するために、全長にわたって100mmピッチ(またはそれ以下)で統一することが一般的です。
問題3 柱梁接合部の設計において、接合部内は柱や梁と異なりコンクリートが四方から拘束されているため、大地震時においてもせん断破壊などの脆性的な破壊が生じるリスクは低く、接合部内の帯筋比(フープ量)を柱本体と同等(0.2%〜0.3%以上)に確保する必要はない。
解答3 :× 解説: 接合部は地震時に柱と梁からの力が集中し、巨大なせん断力がかかります。ここが破壊すると建物全体が崩壊する危険があるため、柱と同様に帯筋を配置してせん断補強を行い、主筋の抜け出し防止とコンクリートの拘束を確保する必要があります。一般的に柱の帯筋量(0.2%〜0.3%以上)をそのまま接合部内にも通す設計が基本となります。
