【わかりやすい構造設計】保有水平耐力とは~RC部材種別の判定基準の物理的意味を解説

【RC造】

保有水平耐力を算出する過程で、不可欠なのが「部材種別」の判定です。柱や梁といった一つ一つの部材を、その性能に応じてランク分けする作業ですが、設計基準には「この数値以下ならFCランク」「この数値以上ならFAランク」といった基準値が示されています。

 しかし、なぜその数値が設定されているのでしょうか?ただ数値を比較してランクを当てはめるだけでなく、その背景にある物理的な意味を理解することは、構造設計の本質を掴む上で非常に重要です。 

今回の記事では、特に鉄筋コンクリート(RC)造の柱や梁を対象に、なぜ部材種別という考え方が存在するのか、そしてその判定基準となる数値がどのような意味を持つのかを、できるだけ分かりやすく解説していきます。

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① 壊れ方には「良い壊れ方」と「悪い壊れ方」がある

部材種別の具体的な基準値に触れる前に、そもそもなぜ部材をランク分けする必要があるのか、その根本的な考え方から見ていきましょう。

結論から言うと、部材種別とは「その部材が、大きな地震力を受けた時にどのように壊れるか」を簡易的に予測し、分類しています

建物の部材の破壊の仕方には、大きく分けて2つのタイプがあります。

  1. 曲げ破壊(望ましい破壊) 部材が曲がって変形していく破壊形式です。鉄筋が降伏し、コンクリートが圧壊することで限界に達しますが、その過程は比較的緩やかです。変形しながらも耐力を維持するため、建物のエネルギー吸収能力が高くなります。
  2. せん断破壊(避けるべき破壊) 部材が変形する間もなく、突然斜めに破壊される形式で、非常に脆(もろ)い壊れ方です。エネルギーを吸収する能力がほとんどなく、一瞬で耐力を失ってしまうため、柱であれば軸力を保持することができず、建物の急な倒壊に直結する非常に危険な破壊形式です。これを「脆性破壊」と呼びます。

耐震設計の絶対的な大原則は、「部材が壊れるときは、必ず『曲げ破壊』が先行すること」です。この「どちらの破壊が先に起こるか?」を判定するのが、部材種別なのです。この「曲げ破壊が先行する度合い(=靭性性能)」に応じて、部材は4つのランクに分類されます。

  • FAランク(靭性性能高い): 大きな変形をしても、せん断破壊より先に必ず曲げ破壊する、非常に靭性の高い部材。
  • FBランク: FAランクほどではないが、曲げ破壊が先行し、十分な靭性が期待できる部材。
  • FCランク(靭性性能低い): 曲げ破壊は先行するものの、変形が進むとせん断耐力が低下し、靭性があまり期待できない部材。
  • FDランク(脆性部材): 曲げ破壊する前にせん断破壊してしまう可能性が非常に高い、最も危険な部材。

構造計算(ルート3)では、これらの部材ランクに応じて構造特性係数Dsという数値を設定します。Ds値は、建物の塑性変形能力(粘り強さ)を評価する係数で、靭性の高いFAランクの部材で構成された建物はDs値を小さく(必要とされる耐力を低く)できます。逆に、靭性の低いFCやFDランクの部材が含まれていると、Ds値は大きくなり、より大きな耐力(強さ)を建物に要求することになります。

② 具体的な判定基準と、その数値が示す物理的意味

では、具体的にどのような数値でランクを判定するのでしょうか。各種数値が、どの脆性的な破壊を防ぐために設定されているのかを理解することが重要です。

柱の主な判定基準

・ho/D(せん断スパン比):短柱のせん断破壊を防ぐ

これは、柱の形状がせん断破壊しやすい「短柱」かどうかを判定する、最も重要な指標です。

  • ho: 柱のせん断スパン(一般的には柱の内法高さ)
  • D: 柱のせい(断面の高さ)。柱に袖壁が取りつく場合には圧縮側の壁の長さもDに含めて検討する必要があります。壁によって柱が拘束され、意図せず短柱と同じ挙動を示すことがあるためです。
  • 数値の意味: 過去の実験等から、ho/Dが2.0以下の「ずんぐりむっくり」した柱は、曲げ降伏する前に、ほぼ必ず脆性的なせん断破壊に至ることが分かっています。この基準は、そのような最も危険な部材を明確に区別するためのものです。
  • 補足:柱に隣接する梁が先に降伏する場合 柱が降伏する前に、隣接する梁が降伏することが確実な場合(柱の曲げ耐力が梁の曲げ耐力の和よりも大きい場合など)、柱は梁の塑性変形に追従して回転するだけなので、脆性破壊しにくくなります。この場合は応力状態を踏まえて2M/(Q/D)を用いることができます。これは一貫計算の設定でも採用を選択できます。

・σo/Fc(軸力比):コンクリートの圧壊を防ぐ

これは、柱が長期的に支えている鉛直荷重が、コンクリートの強度に対して過大ではないかを判定する指標です。

  • σo: 長期軸方向応力度(長期的に柱にかかっている圧縮応力)
  • Fc: コンクリートの設計基準強度
  • 数値の意味: 柱を上から押さえる力(軸力)が大きいと、コンクリートは常に圧縮された状態になります。これにより、曲げに対する抵抗力は増しますが、逆に粘り強く変形する能力(靭性)は失われ「圧壊」しやすくなります。 多くの実験結果から、軸力比がコンクリート強度の1/3を超えると、靭性の低下が著しくなることが確認されています。そのため、FAやFBといった高い変形性能を要求される部材では、この値が重要な制限値となります。

・pt(引張鉄筋比):付着割裂破壊を防ぐ

これは、コンクリートに対して主筋量が多すぎないかを判定する指標です。

  • pt: コンクリートの有効断面積に対する、引張主筋全断面積の比率
  • 数値の意味: 鉄筋量が過大だと、鉄筋が降伏して粘りを発揮する前に、鉄筋周りのコンクリートが付着力に耐えられず、引き裂かれるように破壊(付着割裂破壊)されてしまうリスクが高まります。 この規定は、このような脆性的な破壊を防ぎ、鉄筋に確実に降伏してもらうために、鉄筋量の上限を定めているのです。

参考:付着割裂破壊の原理と対策(RC鉄筋の付着・基本編)

・τu/Fc(せん断応力度比):せん断耐力の余裕度を見る

これは、部材に生じるせん断応力度が、コンクリートの許容値に対してどれだけ余裕があるかを示す、直接的な指標です。

  • τu: 部材の長期許容せん断応力度
  • Fc: コンクリートの設計基準強度
  • 数値の意味: 部材に生じるせん断応力度がコンクリート強度に対して大きすぎる場合、その部材はせん断破壊しやすくなります。多くの実験結果から、せん断応力度がコンクリート強度の10分の1(0.1)を超えると、十分な靭性を確保するのが難しくなることが分かっています。そのため、高い変形性能が求められるFAランクの部材では、この値が制限値となります。

梁の主な判定基準

梁は柱ほど軸力が大きくなく、破壊モードも比較的安定しているため、主にせん断耐力の余裕度で判定されます。

・τu/Fc(せん断応力度比)

柱と同様に、梁に生じるせん断応力度がコンクリート強度に対して過大ではないかを確認します。

  • 数値の意味: 梁の場合、軸力がほとんど作用しないこと及びスラブが取りついていることによりせん断破壊が生じても耐力の低下が緩やかであるため、柱よりも少し緩和された0.15という基準値が用いられます。

③ 曲げ降伏後の変形性能の確保が重要

部材種別の判定基準を学ぶと、「とにかく曲げ降伏が先行すれば良い」と考えがちです。しかし、耐震設計が目指しているのは、もう一歩先の品質です。

最も重要なことは、「曲げ降伏した後も、部材が自身の軸力(鉛直荷重)を支え続け、建物が崩壊に至らないこと」です。

大地震によって柱の端部が曲げ降伏(塑性化)しても、それは想定内です。問題は、その「後」です。大きく変形していく過程で、もしせん断耐力が低下してせん断破壊に至れば、柱は鉛直荷重を支える能力を失い、その階が潰れる「層崩壊」を引き起こしかねません。

つまり、ただ曲げ降伏が「先行」するだけでは不十分。曲げ降伏後も粘り強く耐え続ける性能、すなわち「変形性能」が不可欠なのです。

部材種別の判定基準の一つ一つが、部材が塑性化した後の挙動までをも考慮し、建物の安全性を多重に確保するための合理的な仕組みとして成り立っています。建物の大地震時の変形をどの程度まで想定しているのかを踏まえ、曲げ降伏後のクライテリアを保証することが、本当に目指すべき部分になります。

暗記的に「曲げ降伏すれば良い」と安易に判断するのではなく、本来の目的を見失うことなく検討するようにしましょう。

まとめ

今回は、RC部材の部材種別について、その背景にある考え方や判定数値の意味を掘り下げて解説しました。

  • 部材種別とは、部材の「壊れ方(破壊モード)」を予測し、危険な「せん断破壊」を避けるためのランク分けである。
  • 代表的な指標ho/D(せん断スパン比)は、部材の形状から破壊モード(細長ければ曲げ破壊、短く太ければせん断破壊)を判断する強力な手がかりとなる。
  • 耐震設計の最終目標は、部材が曲げ降伏した後も鉛直荷重を支え続け、建物全体の崩壊を防ぐ「変形性能」を確保することにある。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?4つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 柱のせん断スパン比(ho/D)が2.0未満の「短柱」は、脆性破壊しやすいため、原則として最も危険なFDランクに分類される。

問題2 柱を上から押さえつける長期的な力(軸力比:σo/Fc)が大きいほど、その柱の靭性(粘り強さ)は高くなるため、FAランクと判定されやすい。

問題3 耐震設計における部材種別の最終的な目的は、単に「曲げ破壊」を「せん断破壊」に先行させることである。

問題4 靭性の高いFAランクやFBランクの柱に、多くの帯筋(フープ筋)が密に配置されるよう規定されているのは、曲げ降伏した後の変形性能を確保するためである。

解答と詳しい解説

問題1 :〇 解説: 柱の形状が「ずんぐりむっくり」している(ho/D <2.0)と、曲げで粘る前にせん断破壊を起こす可能性が極めて高くなります。そのため、原則として最も靭性が期待できないFDランクに分類されます。

問題2 :× 解説: 軸力が大きいと、コンクリートが押し潰される「圧壊」が起きやすくなり、靭性は低下します。

問題3 :× 解説: 「曲げ破壊の先行」は、耐震設計のスタートラインに過ぎません。最終的な目的は、曲げ降伏して大きく変形した後も、柱が鉛直荷重を支え続け、建物の「層崩壊」を防ぐための「変形性能」を確保することです。

問題4 :〇 解説: 帯筋(フープ筋)は、内部のコンクリートを拘束し、せん断破壊を防ぐとともに、曲げ降伏後の粘り強さ(変形性能)を確保する上で極めて重要な役割を果たします。そのため、高い靭性が求められるランクの部材ほど、多くの帯筋が必要とされます。

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