現在の構造設計業務においては、構造計算プログラムなしでは成立しないと言っても過言ではありません。
構造計算の理解が不十分であっても構造計算プログラムは条件を設定すれば大量の計算書を作成してくれます。
構造計算プログラムが導入され始めた時代においては、手計算で構造計算の理解をしていた人が徐々に移行していったことと、プログラム自体も自動化できる部分が限られていたため、設計者を補助するツールとして機能していたと思われます。
しかし、現在では構造計算プログラムが進化したことにより、使う人材によってはプログラムに依存しすぎ、思考停止に陥ることがあります。。
構造計算プログラムとどのように付き合うことが最適なのかについて書いていきたいと思います。
※以降は構造計算プログラムのことを電算と記載します。
①電算の進化と設計者の役割
電算を作っているメーカーは、できるだけ自動で計算できる方法を一生懸命に考えて常に進化を続けています
しかし、設計者が向き合い方を間違えると、メーカーの追求が進めば進むほど使う方は何も考えなくなり、重大な技術力の低下及び人間疎外を招くことになります。
電算に限ったことではありませんが、設計者側からも単なる省力化に留まらない、より本質的な進化の方向性を提案し、共に探っていく必要があると考えます。
電算が浸透し始めてきたころと比べて、与件や手続き等も含めて構造設計業務の煩雑化、業務量の増加といった社会的な状況は大きく変化してきています。
②設計者が電算に使われている!?
現在の業務の中では電算なしで業務をまとめきることは不可能であるため、プログラムを使いながら理解をしていくことになります。そのため、スタート段階では無意識レベルで電算が優位になっていると言えます。
知らない基準に対しての検討も、条件さえ入力すれば勝手にすべてやってくれるので、電算の答えの方が正しいと思ってしまいます。
また、構造設計者は計算だけをしているわけではないので、建築の形についても検討します。
その際に、電算を使って検討していると、無意識のうちに電算に入力できる形に思考が引っ張られていってしまうこともあります。
電算はあくまでもある仮定の元での検討に過ぎないので、たとえ正確に形状を入力できたとしても、それが必ずしも正解とは限りません。
参考⇒詳細な検討をしたからと言って安全とは限らない
③電算は自分の考えを検証するもの
エンジニアの追求の源泉の1つは疑うことでもあります。過去に科学技術を発展させてきた人たちは、理解できない事象、不整合を感じた事象を徹底的に追求してきました。
構造設計においても、まずはどんな結果が出てくるのかを予測して、その予測と電算の計算結果とを比較することで追求が進みます。予測通りの結果が出れば、安心してそのまま進めばよいし、違う結果が出れば、その原因を深く考察すべきです。この予測をしないと出てきた結果を信じるだけになり、電算に使われているだけになります。
結果を見る際にありがちなのが、断面算定のOK・NGや保有水平耐力が満足しているかのように最終的な結果の確認だけで一喜一憂しているということです。大事なのはそれに至るまでの剛性や応力といった数値の確認です。
予測した結果が出てきたときもすぐに電算の結果が正しいと信じるのでは、電算に使われていることと変わらないので、なぜ違うのかを腹落ちするまで考えることが必須です。
こういった言い方をすると誤解を招くかもしれませんが、電算は設定の仕方やモデル化の仕方によってNGをOKにすることもできてしまうものです。だからこそ、結果を鵜呑みにすることは非常に危険であるという認識が不可欠です。
参考:構造図・計算書・コストでの比を使ったチェック
参考:『決断』するのは電算ではなく設計者
参考:構造設計者(エンジニア)は未知課題に謙虚に向き合うことが不可欠
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