これまでの記事で二次部材の検討での全体概要と、具体的な検討にあたっての荷重表の作り方、RC部材について解説してきました。
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二次部材設計の留意点
二次部材設計の留意点~すべての基本「荷重表」と力の流れの始点「RCスラブ」編
今回の記事ではRC部材とは異なる鉄骨の二次部材の検討をする際の特有の留意点について解説していきます。
① 力の流れを見極める!鉄骨造の荷重伝達メカニズム
鉄骨造の二次部材を検討するうえで重要なことは、その部材が負担する力がどのように流れてくるのかを理解することです。
RC造の場合にはあらゆる部材がコンクリートで一体化しているため亀の甲の形で荷重が流れるイメージになりますが、鉄骨造の場合には多くの場合で一方向で荷重を負担することになります。
- 床の荷重:フラットなデッキスラブで等厚スラブの場合にはRC造の場合と同じになりますが、山形のある合成スラブや、デッキ屋根は一方向で荷重が流れるため、梁を検討する際の荷重も台形ではなく、等分布荷重になります。
- 壁の荷重:壁の荷重においても一方向になりますが、その方向が壁の仕様によって異なります。
- 縦張り:RC造のように上下階で壁の荷重を半分ずつ負担する計算モデルと同様に、上下階の梁で負担します。
- 横張り:壁材の荷重は柱で負担することになります。
長期荷重や風荷重については壁材の支持の仕方で受ける部材が変わりますが、地震荷重を算出するための考え方は上下階で分担する考え方は変わりません。何を検討するための荷重で、検討内容によってどのようにモデル化することが適しているのか判断するようにしましょう。
また、一方向で荷重が流れる場合にも必ずしも部材を支持している両端の部材で均等に負担するわけではなく、例えば押出成形セメント板(ECP)は支持機構として縦張りの場合には上部の梁だけで荷重を負担することになっています。
このように色々なパターンが存在するので、荷重として量(重さ)を確認するだけでなくどのような納まりになっているのか、それを踏まえてどの部材がどのような荷重を負担するのかを把握した上で検討を始めましょう。
② 既製品を最大限に活かす最適な下地モジュールの考え方
荷重の条件が見えてきたら、実際のスパンや部材のピッチを決めて断面算定をしていくことになります。このピッチやスパンを決める際に、その部材の能力から決まる前に、支持される部材の条件によって決定するものがあります。
鉄骨造では屋根や壁で既製品(例:ALCパネル、折板屋根など)を多く使用します。それらの既製品を上手く使うことでコストメリットを出すことができます。既製品なので、対応できる部材長さや耐力にも限りや条件があります。なので、既製品を使用できる条件を満足するように下地部材を設定する必要があります。
既成部材が最大で飛ばせるスパンと建物スパン割や階高を踏まえて最適なモジュールを考えることが重要なポイントになります。スパンや階高を決定する段階からこのモジュールを踏まえることが、合理的で整合性のとれた建築を作るうえで重要です。
なお、既成品を使えるといったときでも、あまり流通していないようなサイズを使うことになってしまってはコストや納期への影響も大きくなるので、既製品として存在していることを確認するだけでなく、単価や流通量も踏まえて最適な部材を選定するようにしましょう。
③ 強軸と弱軸を意識した「適材適所」の部材選定
力の流れの仕組みを理解し、モジュールを設定することができれば最終的な部材の検討ができます。ここでのポイントは、鉄骨造の特徴を理解して、荷重条件に最適な部材を選定することです。
- RCスラブから鉛直の長期荷重を受けるだけの単純支持の小梁
この場合、上部にはスラブが取り付いているので座屈の心配もありません。鉄骨数量が少なく強軸方向の断面性能が高められる細幅の鉄骨を使うことが最適と考えられます。 - 屋外の縦張り目隠し壁を支持する梁
長期の鉛直荷重も受けつつ、短期荷重としては水平方向に風荷重も負担することになります。このような強軸にも弱軸方向にも荷重を受ける場合には、荷重のバランスを見て中幅や広幅のH形鋼を使用します。 - 常に圧縮軸力を受ける柱
柱のように圧縮軸力を受ける部材では、座屈耐力を高めるために広幅のH形鋼を使用することで、強軸側の耐力が無駄になることなく使用できるよう配慮します。
このように鉄骨は負担する荷重の向きや種類によって様々な特性を見せるので、極端な弱点を作らないがないことが合理的な設計に繋がります。
これは断面サイズを選ぶという選択肢の中だけで考えるのではなく、弱軸方向のスパンは短くできるように支持部材を入れるといった架構全体で解決策を考えることで、より最適な計画になります。強軸弱軸の向きを決める際も、荷重の大きさだけで決めるのではなく、最終的な応力を見通した判断をするようにしましょう。
まとめ:鉄骨二次部材の設計で必ず押さえたい3つの視点
今回は、鉄骨二次部材の設計における特有の留意点について解説しました。
- 力の流れを理解する:部材の納まりから荷重の方向性(一方向、二方向)や支持条件を正しくモデル化する。
- モジュールを整理する:外装材などの既製品の制約から下地スパンを決定し、経済合理性を追求する。
- 断面を活かす使い方をする:強軸・弱軸の特性を理解し、荷重の種類や向きに応じた最適な断面を選定する。
これらのポイントを踏まえ、部材単体だけでなく建物全体との調和を考えながら設計を進めることが重要です。
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