これまでの記事で二次部材の検討での全体概要と、具体的な検討にあたっての荷重表の作り方、RC部材について解説してきました。
▼ これまでの記事
二次部材設計の留意点
二次部材設計の留意点~すべての基本「荷重表」と力の流れの始点「RCスラブ」編
今回の記事ではRC部材とは異なる鉄骨の二次部材の検討をする際の特有の留意点について解説していきます。
① 力の流れを見極める!鉄骨造の荷重伝達メカニズム
鉄骨造の二次部材を検討するうえで重要なことは、その部材が負担する力がどのように流れてくるのかを理解することです。
RC造の場合にはあらゆる部材がコンクリートで一体化しているため亀の甲の形で荷重が流れるイメージになりますが、鉄骨造の場合には多くの場合で一方向で荷重を負担することになります。
- 床の荷重:フラットなデッキスラブで等厚スラブの場合にはRC造の場合と同じになりますが、山形のある合成スラブや、デッキ屋根は一方向で荷重が流れるため、梁を検討する際の荷重も台形ではなく、等分布荷重になります。
- 壁の荷重:壁の荷重においても一方向になりますが、その方向が壁の仕様によって異なります。
- 縦張り:RC造のように上下階で壁の荷重を半分ずつ負担する計算モデルと同様に、上下階の梁で負担します。
- 横張り:壁材の荷重は柱で負担することになります。
長期荷重や風荷重については壁材の支持の仕方で受ける部材が変わりますが、地震荷重を算出するための考え方は上下階で分担する考え方は変わりません。何を検討するための荷重で、検討内容によってどのようにモデル化することが適しているのか判断するようにしましょう。
また、一方向で荷重が流れる場合にも必ずしも部材を支持している両端の部材で均等に負担するわけではなく、例えば押出成形セメント板(ECP)は支持機構として縦張りの場合には上部の梁だけで荷重を負担することになっています。
このように色々なパターンが存在するので、荷重として量(重さ)を確認するだけでなくどのような納まりになっているのか、それを踏まえてどの部材がどのような荷重を負担するのかを把握した上で検討を始めましょう。
② 既製品を最大限に活かす最適な下地モジュールの考え方
荷重の条件が見えてきたら、実際のスパンや部材のピッチを決めて断面算定をしていくことになります。このピッチやスパンを決める際に、その部材の能力から決まる前に、支持される部材の条件によって決定するものがあります。
鉄骨造では屋根や壁で既製品(例:ALCパネル、折板屋根など)を多く使用します。それらの既製品を上手く使うことでコストメリットを出すことができます。既製品なので、対応できる部材長さや耐力にも限りや条件があります。なので、既製品を使用できる条件を満足するように下地部材を設定する必要があります。
既成部材が最大で飛ばせるスパンと建物スパン割や階高を踏まえて最適なモジュールを考えることが重要なポイントになります。スパンや階高を決定する段階からこのモジュールを踏まえることが、合理的で整合性のとれた建築を作るうえで重要です。
なお、既成品を使えるといったときでも、あまり流通していないようなサイズを使うことになってしまってはコストや納期への影響も大きくなるので、既製品として存在していることを確認するだけでなく、単価や流通量も踏まえて最適な部材を選定するようにしましょう。
③ 強軸と弱軸を意識した「適材適所」の部材選定
力の流れの仕組みを理解し、モジュールを設定することができれば最終的な部材の検討ができます。ここでのポイントは、鉄骨造の特徴を理解して、荷重条件に最適な部材を選定することです。
- RCスラブから鉛直の長期荷重を受けるだけの単純支持の小梁
この場合、上部にはスラブが取り付いているので座屈の心配もありません。鉄骨数量が少なく強軸方向の断面性能が高められる細幅の鉄骨を使うことが最適と考えられます。 - 屋外の縦張り目隠し壁を支持する梁
長期の鉛直荷重も受けつつ、短期荷重としては水平方向に風荷重も負担することになります。このような強軸にも弱軸方向にも荷重を受ける場合には、荷重のバランスを見て中幅や広幅のH形鋼を使用します。 - 常に圧縮軸力を受ける柱
柱のように圧縮軸力を受ける部材では、座屈耐力を高めるために広幅のH形鋼を使用することで、強軸側の耐力が無駄になることなく使用できるよう配慮します。
このように鉄骨は負担する荷重の向きや種類によって様々な特性を見せるので、極端な弱点を作らないがないことが合理的な設計に繋がります。
これは断面サイズを選ぶという選択肢の中だけで考えるのではなく、弱軸方向のスパンは短くできるように支持部材を入れるといった架構全体で解決策を考えることで、より最適な計画になります。強軸弱軸の向きを決める際も、荷重の大きさだけで決めるのではなく、最終的な応力を見通した判断をするようにしましょう。
まとめ:鉄骨二次部材は「力の流れ」と「モノの規格」で決まる
今回の記事では、鉄骨造の二次部材設計において、計算ソフトに入力する前に整理しておくべき3つの重要な視点を解説しました。
- 一方通行の力学: RC造のような一体化された挙動とは異なり、鉄骨造は「一方向」に力が流れるのが基本です。特に外装材(ECP等)の自重が「上吊り」か「下受け」かなど、納まりによる力の伝達経路の違いを正確に把握することが設計の第一歩です。
- 規格への適合: 部材ピッチやスパンは、計算だけで決めるのではなく、ALCや折板屋根といった「既製品の最大スパン・規格寸法」から逆算して決定します。これがコストと施工性を守る鍵となります。
- 軸の使い分け: H形鋼には「強軸・弱軸」があります。スラブで拘束されるなら「細幅」、風圧力(横力)を受けるなら「中・広幅」といったように、荷重の成分(鉛直・水平)に合わせて断面形状を最適化する視点が不可欠です。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 鉄骨造の外壁荷重(重量)の負担について、地震力を算定する際は一般的に上下階で半分ずつ負担するモデルで考えるが、個別の梁の断面算定(長期荷重)を行う際には、外装材の工法(縦張り・横張り・ロッキング機構など)によって、上階の梁のみ、あるいは柱のみが負担するケースがあるため、納まり図を確認して荷重モデルを決定する必要がある。
解答1 :〇 解説:地震力の算定(層せん断力)では重量を階で按分しますが、部材設計では「実際にどう留まっているか」が重要です。例えば、縦張りのECP(押出成形セメント板)などは、変形追従のために下部をスライドさせ、自重は上部の梁だけで受ける(上吊り)ケースが多いため、単純に半分ずつ負担させると上部梁が耐力不足になる危険があります。
問題2 屋根や外壁の下地鉄骨の配置(ピッチやスパン)を決定する際、最も優先すべきは構造計算によって算出された下地鉄骨自身の耐力であり、使用する仕上げ材(ALCや折板屋根など)の既製寸法や許容スパンについては、下地鉄骨の設計後に調整すればよいため、初期段階で考慮する必要はない。
解答2 :× 解説: 既製品(仕上げ材)には製造上の定尺や、強度上の最大スパンが決まっています。下地鉄骨が強くても、仕上げ材が持たなければ意味がありません。また、規格外の寸法で切断・加工が増えるとコストアップに直結するため、まずは「既製品のモジュール」に合わせてスパン割りを計画することが鉄骨設計の基本です。
問題3 屋外に設置される目隠し壁などを支持する鉄骨梁を選定する場合、長期の鉛直荷重だけでなく、風圧力による梁の弱軸方向(横方向)への曲げも考慮する必要があるため、強軸方向の性能に特化した「細幅H形鋼」よりも、弱軸方向の性能も比較的高い「中幅」や「広幅」のH形鋼を選定する方が合理的である場合が多い。
解答3 :〇 解説:H形鋼は「I」の形をしているため、縦方向(強軸)には強いですが、横方向(弱軸)には弱い特性があります。風圧力を面外に受けるような部材では、弱軸方向にも力がかかるため、幅の広いH形鋼(フランジ幅が広いもの)を採用して、横方向の曲げや座屈に対する耐力を確保するのが適材適所の設計です。
