鉄骨造に限らずRC造の設計の際にも、外部の設備架台や屋外階段、ルーバーの下地など、耐久性を確保するために鉄骨部材には溶融亜鉛めっき処理をする機会はたくさんあると思います。
身近な工法ですが、意外と多くの留意点があるものの、それらを見落とした設計をしてしまって、現場からの質疑でハッとすることもあるのではないでしょうか?
今回の記事では、設計段階で留意しておくべき点について解説していきます。
① 溶融亜鉛めっき処理とは?
溶融亜鉛めっき処理とは、鋼材の防錆(ぼうせい)を目的とした表面処理方法の一つです。
高温で溶かした亜鉛の槽(めっき槽)の中に、酸洗いなどで表面をきれいにした鉄骨部材を浸漬させ、表面に亜鉛の皮膜を形成させます。この亜鉛皮膜が、鉄が錆びるよりも先に化学的に反応することで、長期的に鉄骨部材を腐食から保護する効果(犠牲防食作用)があります。
めっき槽の温度は約450℃になります。建築基準法に関連する建設省告示では、500℃以下の加熱であれば、鋼材の機械的性質などを加工後に確認する必要はないとされており、品質への影響は考慮不要です。
塗装に比べて皮膜が剥がれにくく、非常に高い防食性能を持つため、屋外や腐食環境の厳しい場所で使用される鉄骨部材に広く採用されています。
② 設計段階で抜けがちな留意事項
溶融亜鉛めっきを採用する際に、設計図書に「溶融亜鉛めっきHDZT77」などと特記するだけでは不十分な場合があります。設計段階で以下の点を考慮しておかないと、手戻りやトラブルの原因となる可能性があります。
部材のサイズ
めっき処理は専門の工場で行われますが、部材を浸漬させるめっき槽の大きさには限りがあります。設計した部材が大きすぎて、工場に入らないという事態は避けなければなりません。
- 対策:事前にめっきを依頼する可能性のある工場のめっき槽の寸法(長さ、幅、深さ)を確認し、そのサイズに収まるように部材の長さや形状を計画する。大きな部材は、分割して現場で接合することも検討します。
めっき層では大きいもので長さ10m、幅1.5m、深さ2.0m程度になります。幅と深さを踏まえて斜めにして入るサイズが最大になります。
現場溶接との関係
めっき処理された部材を現場で溶接すると、その熱でせっかくの亜鉛皮膜が焼けてしまい、防食性能が失われてしまいます。
- 対策:原則として、めっき後の溶接は避ける設計とします。どうしても溶接が必要な場合は、溶接後にジンクリッチペイントなどで補修塗装を行うことを特記します。ただし、補修部分の耐久性は元のめっき皮膜より劣るため、極力ボルト接合などを採用するのが望ましいです。
参考:現場溶接はなぜ難しい?メリットと品質確保の鉄則
参考:建物の強度を支える「溶接」の基本を解説
めっき抜き孔
閉鎖された空間(角形鋼管など)や、部材が重なり合って空気が抜けにくい部分があるまま高温のめっき槽に入れると、内部の空気が急激に膨張し、破裂する危険性があります。また、亜鉛が内部に流れ込まず、めっきがされない部分ができてしまいます。
- 対策:空気や亜鉛がスムーズに出入りできるように、「めっき抜き孔(ガス抜き孔)」を適切に設ける必要があります。孔の位置やサイズは専門的な判断が求められるため、専門業者と協議して決定するのが最も確実です。特に以下の点は構造設計者として注意が必要です。
柱・梁の応力伝達への配慮: 梁のウェブに孔を設けたり、ガセットプレートにスカラップを設けるのは比較的容易です。しかし、柱のダイアフラム(通し・内)に孔を設ける場合は、孔によって梁からの応力伝達に支障がないか、必ず確認が必要です。特に小径の柱では孔の占める割合が高くなりがちなので注意しましょう。
剛接合部分の溶接
剛接合のダイアフラムと梁の完全溶込み溶接部分は一般的な溶接方法である裏当て金を設けての溶接とすると裏当て金の隙間がめっきされないため、さび汁が出る不具合が生じることになります。
- 対策:一般的には裏当て金を設けない方法として裏はつりをする両面溶接で、かつ、その溶接部両端には鋼製エンドタブを用いず溶接後に端部をはつり、回し溶接を行います。もし裏当て金を用いる場合には裏当て金に母材を全線隅肉溶接(シール溶接)する必要があります。
高力ボルトの摩擦係数
高力ボルト摩擦接合の接合面をめっき処理すると、亜鉛皮膜によってすべり係数が低下し、所定の摩擦耐力が得られなくなります。
- 対策:めっきを施した接合面には、溶融亜鉛めっき高力ボルト(F8T)を使用するのが一般的です。この場合、すべり係数は0.4として計算します(通常の高力ボルトF10Tの摩擦面処理(赤錆など)では0.45)。計算書で係数を間違えないようにしましょう。
熱による変形
約450℃の高温のめっき槽に部材を浸漬させるため、熱によって部材が変形(ひずみ)してしまうことがあります。特に、薄い板や、板厚の異なる部材を組み合わせた形状、溶接による残留応力が大きい部材などは変形しやすい傾向があります。
- 対策:設計段階で、左右対称な断面形状を採用する、(可能であれば)板厚を上げる、リブなどで補剛する、といった変形を抑制する工夫が有効です。製作側(ファブリケーター)とも、溶接方法や部材をめっき槽に浸漬する向きなどを事前に協議することが、変形リスクの低減につながります。
③ 専門知識・経験則からも学ぼう
溶融亜鉛めっき処理のような熱に対する対策について、一般論的な方法は調査や勉強である程度判断できるようになりますが、形状によっては想定通りにならないこともあります。
逆に、経験則から上手くいくための対策方法というものもあります。設計段階で詳しい方に相談することや、現場段階で専門業者と十分に相談と対策を検討するということがとても重要になってきます。
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全てを暗記する必要はありません。「めっきには色々な注意点があったな」と課題意識を持ち、その都度調べられるようにしておくことが重要です。
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まとめ:溶融亜鉛めっきは「事前の計画」と「細部の詰め」が命
今回の記事では、鉄骨造の耐久性を高める「溶融亜鉛めっき」について、設計者が陥りやすい落とし穴とその対策を解説しました。 めっき処理は工場での一発勝負であり、後からの修正が非常に困難です。そのため、図面にただ「溶融亜鉛めっき」と書くだけでなく、以下のポイントを設計段階で確実にクリアにしておく必要があります。
- 物理的な制約の確認: めっき槽に入らないサイズではないか、熱で変形しやすい形状ではないかを事前に確認する。
- ディテールの調整: 「めっき抜き孔」の配置、「高力ボルトのすべり係数(0.40)」の低減、「現場溶接不可」の原則など、めっき特有の条件を図面と計算に反映させる。
- 専門家との連携: 形状による変形リスクや特殊な納まりについては、独断で決めずにファブリケーターやめっき業者、専門のQ&Aサイトを活用して裏付けを取る。
「錆びない」という大きなメリットを享受するためには、それに見合った「事前の配慮」が不可欠です。現場で「入らない」「割れた」「留まらない」といったトラブルを招かないよう、設計段階で一歩踏み込んだ検討を行いましょう。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
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問題1 溶融亜鉛めっき処理は部材を約450℃の高温槽に浸漬させるため、鋼材の機械的性質が大きく変化するリスクがある。したがって、処理後の鋼材に対しては原則として改めて材料試験を行い、品質への影響がないかを確認しなければならない。
解説1 :× 解説: 建設省告示により、500℃以下の加熱であれば、鋼材の機械的性質などを加工後に確認する必要はないとされています。めっき槽の温度は約450℃であるため、品質への影響は考慮不要であり、再試験などは原則として不要です。
問題2 溶融亜鉛めっきを施した高力ボルト摩擦接合部(F8Tなどを使用)の検討において、接合面のすべり係数は、一般的な赤錆等の処理(F10T)の「0.45」よりも低い「0.40」を採用して計算する必要がある。
解説2 :〇 解説: 亜鉛皮膜によって接合面の摩擦抵抗(すべり係数)が低下します。そのため、溶融亜鉛めっき高力ボルト(F8T)を使用する場合のすべり係数は「0.40」として設計する必要があります。(一般的なF10Tの赤錆処理などは0.45)。この数値を間違えると耐力不足になるため注意が必要です。
問題3 剛接合(完全溶込み溶接)において裏当て金を使用する場合、裏当て金と母材の隙間はめっきが回りにくく、そこからさび汁が発生する原因となるため、「裏当て金の全線シール溶接」を行うか、「裏はつりを行う両面溶接(裏当て金なし)」とする等の対策が必要である。
解説3 :〇 解説: 一般的な裏当て金を用いた溶接では、裏当て金と母材の微細な隙間にめっきが入らず、空気や酸が残ってしまい、後から「さび汁」が垂れてくる不具合に繋がります。これを防ぐために、隙間を塞ぐ「シール溶接」を行うか、そもそも裏当て金を使わない「両面溶接」にするなどの詳細検討が不可欠です。
