鉄骨造を設計する際、H形鋼や鋼板(PL)は不可欠な部材です。既製品を使えることが鉄骨造のメリットの一つであるため、既成のサイズを正しく理解することは非常に重要です。
しかし、鉄骨の板厚やH形鋼、丸柱径(鋼管)には、慣れるまで覚えにくい寸法が使われています。
例えば、板厚は「9mm, 12mm, 16mm」、H形鋼は「H-588×300」、丸柱径は「φ216.3mm」など、どれもキリの良い数字ではありません。
少し雑学的な内容にはなりますが材料について知ることは構造設計でのアイディアに繋がることもあるので、今回の記事では、こういった一見「中途半端」に見える寸法が使われている背景について、「①板厚」「②丸柱径」「③H形鋼」の順で、部材ごとにその理由を解説していきます。
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① 板厚サイズ:インチ規格をミリに丸めた名残
結論から言うと、鋼板の厚さの規格は「ヤード・ポンド法(インチ規格)」を「メートル法(ミリメートル)」に換算し、キリの良い数字に丸めた名残です。
日本では現在メートル法が主流ですが、鉄鋼業の歴史、特に戦後は米国の規格(ASTM規格など)の影響を強く受けて発展しました。米国では今でもインチが標準です。私たちが「中途半端だ」と感じる板厚は、インチの世界では非常にキリの良い「分数」で表されます。
■ 主な板厚とインチ規格の対照表
| 一般的な板厚 (mm) | 元になったインチ規格 | インチをmmに換算した値 |
| 6 mm | 1/4 (いちぶに) | 6.35 mm |
| 9 mm | 3/8 (さんぶ) | 9.525 mm |
| 12 mm | 1/2 (よんぶ / はんインチ) | 12.7 mm |
| 16 mm | 5/8 (ごぶ) | 15.875 mm |
| 19 mm | 3/4 (ろくぶ) | 19.05 mm |
| 22 mm | 7/8 (ななぶ) | 22.225 mm |
| 25 mm | 1 (いっすん / いちインチ) | 25.4 mm |
このように、元々は「1/2インチ(約12.7mm)」だったものを、日本のJIS規格で「12mm」として標準化した、という経緯があります。
もちろん、全ての板厚がインチ由来というわけではなく、需要に応じてメートル法基準で追加された規格(例:4.5mm)もあります。
しかし、25mm(1インチ)までの構造設計で多用される厚板の多くは、このインチ規格の名残が理由です。
ちなみに、25mmを超える厚板(28mm, 32mm, 36mm, 40mmなど)は、メートル法に基づいた4mm刻みといったキリの良い寸法体系が採用されています。
② 丸柱径(鋼管):配管用のインチ規格をそのまま換算
丸柱(鋼管コラム)の寸法が中途半端な理由は、板厚と似ていますが、より直接的です。
これは「配管用のインチ規格(呼び径)を、そのままメートル法に換算した」ことが理由です。
鋼管は、建築の柱として使われる(構造用鋼管)より先に、水やガスを通す「パイプ(配管)」として世界的に普及しました。
配管の規格は、管の中を流れる量(流量)が重要になるため、「外径」ではなく「内径」を基準とした「インチ」で定められました。これを「呼び径(A呼称)」または「インチ呼称(B呼称)」と呼びます。(例: 1B, 2B, 4B など)
その後、日本でメートル法が採用されJIS規格が整備される際、すでに流通していたこれらのインチ規格のパイプを、そのままメートル法に置き換えました。その際、規格として管理しやすい「外径」をミリメートルに換算したのです。
■ 主な鋼管の外径とインチ規格の対照表
| 呼び径 (B) | 呼び径 (A) | 外径 (mm) | 備考 |
| 1B | 25A | 34.0 mm | 内径が約1インチ(25.4mm) |
| 2B | 50A | 60.5 mm | 内径が約2インチ(50.8mm) |
| 4B | 100A | 114.3 mm | 4インチ (101.6mm) とは異なる |
| 8B | 200A | 216.3 mm | 8インチ (203.2mm) とも異なる |
ここで注意が必要なのは、特に径が大きくなると「4インチ=101.6mm」のように単純な換算にはならない点です。(※規格の制定経緯が複雑なため)
建築用の丸柱(STKNなど)も、これらの配管用鋼管の寸法規格をベースにしているため、「φ216.3」といった小数点以下の端数がつく寸法が、今でもそのまま使われているのです。
③ H形鋼サイズ:製造上の合理性と既存規格への準拠
H形鋼、特に「中幅系列」の寸法が中途半端なのは、JIS規格が制定された際(1964年)、すでに存在していた他の鋼材(広幅H形鋼やI形鋼)の寸法を基準にしたためです。
寸法決定の理由は、H形鋼のサイズ(せい)によって異なります。
1. ウェブ高400mmまでの中幅系列
(例: H-250×175, H-350×250, H-400×300など)
これらのサイズは、「広幅系列」と「内法(うちのり)寸法」が一致するように寸法が決定されました。「内法寸法」とは、上下フランジの内側の距離のことです。
- 理由:
H形鋼は「ユニバーサル圧延機」という機械で製造されます。中幅系列の内法寸法を、先に存在していた広幅系列の内法寸法と同一にすることで、圧延機を構成する「水平ロール」を共用できるようにしたためです。 - 具体例:
- 中幅 H-350×250 (実寸法 H-344) の内法は 312mm
- 広幅 H-350×350 (実寸法 H-350) の内法は 312mm
このように、製造上の合理性(ロールの共用)から内法寸法を揃えた結果、実寸法のせい(H-344など)が中途半端な数値になっています。
2. ウェブ高450mm〜600mmの中幅系列
(例: H-450×300, H-500×300, H-588×300など)
これらのサイズは、「I形鋼(Iビーム)」の寸法を参考にして寸法が決定されました。
- 理由:
JIS規格を制定する際、すでに流通していたI形鋼の断面性能をベースに、中幅系列の寸法が検討されたためです。 - 具体例 (H-588 の謎):
- 中幅 H-600×300 (呼称寸法) の標準サイズは、実寸法が「H-588×300」です。
- このH-588の内法寸法は 548mm です。
- 一方、参考になったI形鋼の I 600×190 の内法寸法は 547mm です。
このように、既存のI形鋼と内法寸法(≒断面性能)の整合性を図った結果、「588mm」という中途半端な実寸法が採用されています。
H形鋼の寸法は、単独で決められたのではなく、製造上の合理性や既存規格との整合性を考慮して体系化された結果なのです。
まとめ:中途半端な寸法には全て合理的な理由がある
ここまで解説してきたように、鋼材の寸法が中途半端に見えるのには、それぞれ明確な理由があります。
- ① 板厚 (PL) : インチ規格を「丸めた」名残
- 1/2インチ(12.7mm) → 12mm
- 5/8インチ(15.875mm) → 16mm
- ② 丸柱径 (鋼管) : インチ規格を「そのまま換算」した名残
- 配管用の呼び径(内径基準)を、外径(mm)に換算したため。(例: φ216.3mm)
- ③ H形鋼 : 製造上の合理性と規格の整合性
- 既存の「広幅H形鋼」とロールを共用するため。(例: H-344)
- 既存の「I形鋼」と断面性能(内法)を揃えるため。(例: H-588)
一見すると不便に思える寸法も、その背景には「ヤード・ポンド法からの移行」という歴史的な経緯や、「製造コストの削減」「既存規格との互換性」といった工学的な合理性が隠されています。
これらの寸法の成り立ちを知ることで、規格に対する理解が深まり、より確実な設計につながります。

