【わかりやすい構造設計】図面の基本を知る~特記仕様書とは? 標準仕様書との関係から読み解く基本

構造設計者として図面をまとめる際に不可欠なものの1つに特記仕様書があります。 始めのうちは文字ばかりで、伏図や部材リスト、詳細図と比べても特異な図面に見えているのではないでしょうか?

そんな図面に対して苦手意識を持ちがちですが、基本的な仕組みを理解した上で取り組めば難しくはありません。基本的なルールを知って品質を確保する上でも非常に重要な知識になってきます。

そこで今回の記事では、特記仕様書の役割やどのように捉えるとよいのかを解説していきます。

目次

① 特記仕様書は標準仕様書とセット

特記仕様書は、いわゆる伏図や軸組図、部材リスト、詳細図のような絵を主体とした図面では表現しきれない内容や、建物全体の共通ルールを示しているものになります。

その共通ルールというのは、特記仕様書だけで表現されているわけではありません。特記仕様書には、基本的には相方となる「標準仕様書」が存在します。「特記」というのは、この「標準」の対になる言葉です。

もっとも広く使用されているのは、国土交通省が発行している「公共建築工事標準仕様書」(標仕)になります。こちらは(ご存知の通り)3年ごとに改定され、建築工事、電気設備工事、機械設備工事のそれぞれで存在しているものです。

東京都のように大きな自治体では、国交省の標準仕様書をベースとした独自の標準仕様書を作っている場合もあります。

基本的な共通ルールというのは、まず標準仕様書に網羅されています。 特記仕様書は、その標準仕様書の中で「指定されているものと違うものにしたい内容」や、設計者に判断が委ねられた「(特記による)」と書かれているものを、まさに言葉の通り「特記」として記載するものです。

特記仕様書の中に章番号が振ってあるのに、全部の番号が揃っていないのは上記のような関係にあるからです。記載がない章は「標準仕様書の記載通り」ということであり、全ての内容(大元)は標準仕様書の中にあります。

このように、相方である標準仕様書を補足・上書きする役割が特記仕様書になります。 なので、標準仕様書の理解があって初めて、特記仕様書の内容が把握できるようになるのです。

まずはがむしゃらに取り組むのではなく、この基本的な関係を把握しましょう。

② 数値の背景を知ろう!

標準仕様書の内容というのは、建築工事の基本的な共通ルールではありますが、建築基準法とは位置づけが異なります。法規のように、設計者が全面的に絶対に仕様を合わせないといけないわけではありません。そこの位置づけの理解も重要です。

だからこそ、数値に限らずですが、「どのような背景で決まっている仕様なのか」「この仕様を守ることで、どのようなクライテリア(要求性能)を満足させることができるのか」を知っておく必要があります。

標準仕様書に書かれている数値は、あくまで「標準的」な環境下でこれらのクライテリアを満たすための、いわば「公約数」的な値です。

もし設計する建物が、塩害の恐れがある沿岸部や、凍結融解の懸念がある寒冷地だったら当然、標準仕様書の値よりも厳しい仕様(かぶり厚さを増やす、コンクリートの強度や種類を変えるなど)を「特記」する必要があります。

なぜその数値なのか、その背景にある要求性能(クライテリア)を理解していれば、プロジェクトの特性に応じて仕様を適切に判断し、特記仕様書に反映させることができます。

やみくもに暗記するのは情報が膨大になってしまうので、まずはクライテリア(要求性能)と関連付けて考える習慣をつけるとよいでしょう。

参考:建築基準法改正の裏側/「性能設計」を阻むものと、設計者が向き合うべき課題

③ 標準(共通ルール)を活用することで余力を作る

設計の仕事というのは、本当に多くのことを判断する必要がある職業です。なので、課題のヒエラルキー(優先順位)を付けることはとても重要なことです。

検討・判断をするべき「コアな部分」の時間を確保することが、良い建築を作ることにも直結します。その時間を確保するためには、標準を知って、しっかりと使いこなす必要があります。

基準や標準仕様書を見て、それに従ってしまえば大抵のことは70点以上は取れます。そこの部分を「標準とは違う方法」で考えても、それほど成果は高くなりません。

そんなことは分かっているつもりでも、標準の理解や、その根拠に立ち戻る習慣がないと、標準仕様書に既に答えがあることをゼロから検討してしまう、といった無駄が発生します。

もちろん、あらゆることに疑問を持ってよりよくしていくことを考えることはエンジニアとして不可欠な姿勢であり、そういった検討を否定はしません。しかし、まずはお客さんにきちんとした品質を提供することを忘れてはいけません。

標準仕様に対して時間をかけて変に考えてオリジナルを出すことは、かえって品質低下や、施工者からの「なぜ?」という疑問を生むことになり、掛けた時間と成果が見合わないことになりがちです。

それよりも、基準や標準仕様書でカバーできない部分(=その建物固有の課題や、建築家の意図を実現するための部分)をしっかりと検討しきる方が、建築の良さは格段に向上します。

「標準」をうまく活用して足元を固め、生み出した余力(時間)を、本当に頭を使うべきところに注ぎ込みましょう。

参考:設計根拠のおさえ方/学びなおしのススメ
参考:構造設計者(エンジニア)は未知課題に謙虚に向き合うことが不可欠

まとめ

今回は、特記仕様書について解説しました。

  1. 特記仕様書は「標準仕様書」という相方とセットで機能すること。
  2. 標準仕様書は法規ではなく、仕様の背景にある「クライテリア(要求性能)」を理解することが重要であること。
  3. 標準を使いこなして「余力」を作り、設計のコア業務に集中すること。

特記仕様書は、単なる文字の羅列ではありません。 「標準仕様書」という建築界の共通言語をベースに、「この建物特有の要求や配慮事項」を設計者の意思として明確に示す、非常に重要な図面なのです。

苦手意識をなくし、標準仕様書とセットで読み解く習慣をつけていきましょう。

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