【わかりやすい構造設計】骨組みの解析手法|最適な手法を選ぶための基礎知識

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現在の構造設計において、一貫構造計算プログラムなどの解析ソフトは、設計者にとって不可欠なツールになっています。

しかし、画面上のボタンを一つ押せば答えが出る便利さの裏で、「中でどのような計算が行われているのか?」を意識する機会は減ってきているかもしれません。構造解析と一言で言っても、実は多種多様な解析手法が存在します。そして重要なのは、「確認したい内容によって、最適な解析方法を選択する」ということです。

同じ建物のモデルであっても、選択する解析手法が違えば、出力される結果(応力や変形)は変わります。「なぜその結果が出たのか」を正しく読み解くためには、「どんな解析手法で検討したか」を理解しておく必要があります。

今回の記事では、構造設計の基礎となる線形モデルの解析手法の分類と、それぞれの特徴について、実務的な視点を交えて解説していきます。具体的な計算の事例などは専門書や技術書が数多く出版されていますので、そちらを参考にしてください。

目次

① 骨組み解析手法の分類

構造計算において最も知りたい答えは外力に対して建物がどう変形し、部材にどのくらいの力がかかるか、つまり「変形(変位)」と「応力」です。

解析手法は、この「変形」と「応力」のどちらを未知数(=計算の出発点)として解くかによって、大きく以下の3つに分類されます。

1. 変位法【変位を未知数として条件式を解く手法】

現在のコンピュータ解析(一貫計算ソフト等)の主流となっているのが、この「変位法」です。 節点の「移動量」や「回転角」といった変位を未知数として設定し、力の釣り合い条件式を立てて解いていきます。

マトリックス変位法 

構造物を構成するすべての部材の剛性をマトリックス(行列)化し、連立方程式を解くことで変位を求めます。コンピュータとの相性が非常に良く、節点数が数万に及ぶような大規模なモデルでも、プログラム上でシステマチックに処理できるのが最大の特徴です。現在の構造解析ソフトの中身は、ほぼこの手法が使われています。

たわみ角法 

節点の回転角と部材角を未知数として、材端モーメントを表す式(たわみ角の基本式)を用います。手計算で不静定次数が高いラーメン構造を解く際の基礎となる理論ですが、節点数が多くなると連立方程式の数が膨大になるため、手計算には限界があります。

固定角法 

たわみ角法の応用版です。多層ラーメン構造などで、節点の回転を逐次計算によって近似的に求める手法です。

<まとめ> 
変位法は変位と密接な「剛性(硬さ)」が入力データとして最も重要な要素になります。剛性というのは部材サイズの情報に限らず部材の端部条件や支点の条件も変形に関わる重要な剛性情報になります。

参考:支点条件の仮定/基礎部の剛床の重要性
参考:剛性評価/相対性の評価が重要

2. 応力法【材の応力を未知数として変位の条件式を解く手法】

変位法とは対照的に、不静定構造物の余剰な力(不静定力)を未知数として扱う手法です。「適合条件(変形のつじつまが合うこと)」を満たすように式を立てて解きます。

仮想仕事法 

「仮想仕事の原理」を用いて、特定の点の変位や不静定力を求める手法です。特定の部材の応力や変形をピンポイントで知りたい場合に適した方法になります。

コンピュータが普及する前や、特定のトラス部材の検討などで使用されていました。一般的なラーメン構造の全体解析をプログラム化する場合、変位法に比べて複数のモデルの設定が必要であったりと条件の定義が複雑になる傾向があります。そのため、現在の汎用解析ソフトの中でも採用されることは少なくなりましたが、構造力学の基礎的な概念(外力と内力のつり合い)の理解としては非常に重要です。

3. 略算法【仮定を設けて簡易的に解く手法】

厳密な解(精算法)ではなく、実用上十分な精度の近似解を、少ない計算量で求める手法です。電卓と紙があれば現場でも計算できるため、数的な感覚を身に付けたり、軽微変更のように再計算を行わずに検討する資料を作成するためにも重要な手法です。

固定モーメント法

不釣合いなモーメントを、部材の剛比に応じて分配・到達させる操作を繰り返し、収束させることで解を得る方法です。連立方程式を解く必要がないため、手計算でラーメン構造の応力を追う際に非常に有効です。「力が剛性の高い方に流れる」という基本的な原理を数値とセットにした感覚が養われます。

D値法

水平力を受けるラーメン構造において、柱の剛性(D値)に基づいてせん断力を分配し、反曲点の位置を仮定してモーメントを求めます。詳細な計算をしないで済むように色々な仮定を使いますが、その仮定がどのような考えで設定されているのか知ることで計算に影響がある内容を理解できるようになります。

<まとめ> 
略算法は「コンピュータが出した答えが、桁違いの間違いをしていないか」、「どの程度の影響があるのかのオーダーの把握」を瞬時に検証(検算)できます。解析ソフトの結果を鵜呑みにせず、略算法でざっくりと当たりをつけられる能力はとても重要です。

参考:「計画変更」か「軽微な変更」か?知っておくべき現場変更の手続きと協議の心得
参考:構造図・計算書・コストでの比を使ったチェック

② 解析手法の特徴とモデル化の違い

解析手法の分類(変位法・応力法)に加え、「材料をどう捉えるか」「部材をどう表現するか」によっても、解析の種類は分かれます。これらは設計フェーズや目的に応じて使い分ける必要があります。

弾性解析と弾塑性解析

構造物が力を受けたときの部材・材料がどのような挙動を示すかの仮定による分類です。

  • 弾性解析 

力と変形は比例する(フックの法則)という前提で行う解析です。部材に力がかかっても、力を抜けば元の形に戻る範囲(弾性範囲)での検討に使います。 主に許容応力度設計(一次設計)で用いられ、長期荷重、中地震に対して建物が損傷しないことを確認するために行います。単純な比例関係であるため解析の情報量は少なくなります。

  • 弾塑性解析

 部材が降伏し、塑性化(永久変形)した後の挙動まで追跡する解析です。 大地震時に建物の一部が壊れても(エネルギーを吸収しても)、倒壊せずに耐えられるかを確認する保有水平耐力計算(二次設計)で用いられます。「増分解析法(プッシュオーバー解析)」などが代表的で、建物がどの順序でヒンジ(降伏)を作り、最終的にどのように壊れるか(崩壊メカニズム)を確認します。

線材モデル解析と有限要素解析(FEM)

構造物をどのような要素(パーツ)に置き換えて計算するかによる分類です。

  • 線材モデル解析 

柱や梁を、太さのない「線(ライン)」としてモデル化する手法です。 一般的な建築構造計算(一貫計算)はこれに該当します。計算負荷が軽く、建物全体の挙動(層間変形角や剛性率など)を把握するのに適しています。ただし、部材の交差部(仕口)の局所的な変形や、開口部周りの複雑な応力集中などは正確には表現できません。

  • 有限要素解析(FEM: Finite Element Method) 

構造物を小さなメッシュ(要素)に分割し、面や立体として解析する手法です。 線材モデルでは表現できない、壁式構造の開口周り、鉄骨の接合部詳細、複雑な形状のシェル構造などの解析に有効です。 詳細な応力分布(コンター図など)が得られますが、モデル作成の手間がかかり、情報量も多いため計算時間も長くなります。

参考:構造解析のモデル化の基本~線材モデルについてとモデル化の目的

③ 知りたいことを推測し、最適解を選ぶ

ここまで解説してきたように、解析手法にはそれぞれ得意・不得意があります。

現代の実務では、業務効率や要求される計算精度を考慮すると、手計算だけで完結することは不可能であり、電算(解析ソフト)に頼らざるを得ないのが現実です。しかし、だからこそ「ブラックボックス化」の危険性を常に意識しなければなりません。

例えば、剛域の入力ひとつ、支点の拘束条件ひとつ変えるだけで、解析ソフトは全く異なる応力図になります。その時、「あれ?モーメント図の形がおかしいな」と気づけるかどうかが重要です。その違和感に気付く直感は、

  • 「D値法で考えれば、こっちの柱に力が集まるはずだ」
  • 「変位法の原理からすれば、このようにはならないはずだ」

 という、基礎的な解析理論とのズレから見えてくるものになります。解析手法によって結果は変わりますが、当然まったく違う結果になるわけではないので色々な視点で見ることで気付ける範囲は広がっていきます。

目的から逆算し判断に繋げる

  • 全体の振動特性を知りたい → 線材モデルでの弾性解析(固有値解析)
  • 大地震時の終局挙動を知りたい → 線材モデルでの弾塑性解析
  • 特殊な形状の接合部の挙動に不安 → 部分的なFEM解析
  • 計算結果の妥当性をチェックしたい → 略算法(D値法など)での手計算

このように、「何を知りたいか(目的)」に合わせて「どの手法を使うか(手段)」を適切に選択できること。そして、出てきた結果を理論に基づいて評価・修正できることが、単なる「構造計算」ではなく「構造設計者」としての「構造計算」になります。

参考:判断と決断を分ける技術~仮説思考で“判断”の質を上げる

多くの解析手法を知ってどう活かすか

今回紹介したような内容を何も見ないでスラスラ説明できたり、手計算でなんでも解けるようになることを目指すことが最優先の目的ではありません。

当然優先すべきは最も使用頻度が高い(おそらく、マトリックス変位法)ものになりますが、その理解を深めるためにも他にどういった手法があって、その上でなぜこの手法を使っているのかということを知っておくことは不可欠です。

そのためにいきなり一つ一つの解析手法を深く知るといった手順ではなく全体感を知ることで、日常の構造計算にも活かせるように視点が得られて、結果として各解析の理解を深めることにも繋がります。

そういった趣旨で今回の内容を把握してもらって、より専門的な書籍などで理解を深める入口にしてもらいたいと思います。

まとめ

実務で使う一貫構造計算ソフトは非常に強力なツールですが、その便利さに溺れて計算プロセスを「ブラックボックス」にしてしまっては、エンジニアとしての成長は止まってしまいます。 重要なポイントを振り返ります。

  • 主流は「変位法」: 現在のソフトのほとんどは、変位(移動量・回転角)を未知数とする「マトリックス変位法」で動いています。そのため、入力データとしての「剛性(部材断面、支点条件)」の設定が結果を左右する最も重要な要素となります。
  • 「略算法」は検算の武器: 固定モーメント法やD値法などの手計算手法は、古い技術ではありません。ソフトが出した答えが桁違いの間違いをしていないか、力の流れが自然かを瞬時に見抜くための、現代でも不可欠な「検算ツール」です。
  • 目的による使い分け: 全体の揺れ方を知りたいなら「線材モデルの弾性解析」、終局的な壊れ方を知りたいなら「弾塑性解析」、局所的な応力を知りたいなら「FEM解析」といったように、知りたい「解」に合わせて最適な「手法」を選ぶことが設計者の役割です。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 現在、一貫構造計算ソフトなどのコンピュータ解析で主流となっている手法は、節点の移動量や回転角を未知数として連立方程式を解く「マトリックス変位法」である。

解答1 :〇 解説: コンピュータは行列(マトリックス)計算が得意であり、部材の剛性をマトリックス化してシステマチックに解ける「マトリックス変位法」が現在の解析ソフトの標準となっています。

問題2 「D値法」や「固定モーメント法」といった略算法は、コンピュータが発達する前の手計算時代の手法であり、現在の高度な構造設計の実務においては、計算精度の観点から使用する意義はほとんどなくなっている。

解答2 :× 解説: 略算法は、計算結果のオーダー(桁)が合っているか、力の流れがおかしくないかを瞬時に検証(検算)するための強力なツールです。ブラックボックス化しやすいソフトの結果を鵜呑みにしないために、現在でも非常に重要な技術です。

問題3 構造解析において、建物の全体的な挙動(層間変形角や剛性率など)を把握するためには「線材モデル解析」が適しているが、壁式構造の開口周りや鉄骨接合部の詳細な応力集中などを検討したい場合は、構造物をメッシュに分割して解析する「有限要素解析(FEM)」を選択するのが適切である。

解答3 :〇 解説: 解析手法は目的に応じて使い分けます。建物全体の大枠をつかむには計算負荷の軽い「線材モデル」、局所的な詳細検討には情報量の多い「FEM解析」が適しています。

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