【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~部材の多機能化と最適化を実例での解説

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鉄骨造を設計する際に特有のポイントになる部分がいくつかあります。
これまで主に『鉄骨造の基本を知る』シリーズとして各種ポイントを解説してきました。
今回の記事ではこれまで解説してきた基本的な内容を踏まえて、実例を通してより統合的な理解が深まる解説をしていきます。

目次

①各種部材の役割を考える

鉄骨造の部材というのは一つの部材でいくつかの役割を担っていることが多くあります。いくつかの役割を担っているということを言い換えると、複数の応力を負担していると言えます。

例えば小梁であれば、長期荷重の負担が主要な役割になります。しかし多くの場合にはこの長期荷重を負担する役割以外にも、大梁の横補剛材として横座屈を防止したり、水平構面の剛性を確保するために水平ブレースを受けたり、大梁のねじれを防止したりと自らに掛かってくる鉛直荷重を負担しつつ、いくつもの役割を担っています。

参考:鉄骨造の基本を知る~横補剛はなぜ必要?役割と性能を解説
参考:構造解析のモデル化の基本~剛床仮定とはなにか/非剛床の事例
参考:見落としがちな「ねじれ応力」とは?発生事例

事例のように1つの小梁に多くの役割を担わせることで部材数を減らすこともできるので、経済設計にも繋がります。効率の良い断面、応力の組み合わせ方を考えて部材配置、部材サイズを考えることが構造設計としてはポイントになります。

ただし、構造設計としては最大効率であったとしても必ずしもそれが最適解とはならず、部材の見え方や設備ルートとの関係などを踏まえて総合的な視点で考えていくことが重要になります。

参考:応力の重ね合わせとは?基本原理から詳細図への応用まで
参考:二次部材設計の留意点~見落としがちな鉄骨二次部材の荷重とモジュールの考え方

②組み立てる順序で力の流れも変わってくる

前章で解説したように各種部材にどのように組み合わせた役割を担わせて(力を負担させて)いくかを考えることが鉄骨造のポイントになってきます。しかし、その想定している役割通りに力が流れていないとただの理想論になってしまい、外力が生じた際に想定外の壊れ方をすることに繋がります。計算上で仮定したからといってその通りになるわけではなく、実現できるディテールの検証が必要です。

参考:鉄骨造の基本を知る~鉄骨造の設計でのポイントは?部材の多機能化と最適化を実例での解説

力の流れをコントロールするに当たって部材間の剛性差を作ったり、支点条件を変化させたりすると思います。こういった構造計画上の工夫で力の流れをコントロールする以外の方法でも力の流れをコントロールすることができます。

参考:構造設計が楽しくなる「力の流れ」の読み方/つまずくポイント解説
参考:細い柱(地震力を負担しない部材)の作り方

もう1つの力の流れのコントロール方法として部材を組み立てる順序になります。鉄骨造では主に部材を接合する作業を現場で行います。その接合方法や接合するタイミングによって力の流れは変わってきます。

よくある事例としては、長期荷重は負担せずに地震力だけを負担するような耐震間柱を設置した構造計画です。主架構である柱梁と同時に施工して床スラブを打設する前に耐震間柱の接合のボルトの本締めや溶接での一体化まで完了させてから床スラブを打設した場合には周辺の柱梁と同様の変位が生じることになるので長期荷重として床スラブの荷重も負担することになります。

しかし、ボルトの本締めや溶接は床スラブの打設後に行った場合には、すでに長期荷重を負担して変形が生じている柱梁と一体になるため耐震間柱自身は変形しない(力が流れない)ことになります。

このように組み立てる順番によって力の流れが変化します。なので、構造計算で想定している力の流れを作るための施工手順というのは構造設計者から施工者にきちんと引き継いでいくことは重要な事項になります。

参考:鉄骨造の基本を知る~現場溶接はなぜ難しい?メリットと品質確保の鉄則
参考:施工計画の知識で設計が変わる!現場で役立つ実践的思考法

③設計事例~部材の役割を最適化したDi式スペースネット工法

最後にこれまで解説してきた鉄骨造を設計する上でのポイントを踏まえて実際の設計事例(評定取得工法)を通して理解を深めていきたいと思います。

Di式スペースネット工法は主に大空間の鉄骨屋根に用いられる工法になります。

①で解説したように在来一般構造の場合には長期荷重を負担しつつ、大梁の横補剛、水平ブレース受けとして機能し、水平剛性を確保するための水平ブレース、さらにそれを受ける孫梁といった多くの部材で構成されています。

小梁のようにいくつの役割を担う部材があったとしても、部材数が多くなりがちなのが鉄骨造です。

それに対してDi式スペースネット工法では斜格子の形状とすることで斜格子部材が、在来一般構造の構成部材である小梁、水平ブレース、孫梁、さらにその上の設置される母屋の役割を一手に担うことになるので、部材数が少なくなります。

このように単純化を図ることで部材数量と現場での接合数が減るため経済性が良くなるだけでなく見た目としてもスッキリした架構になります。

RC造と違って鉄骨造は骨組み部材の組み合わせなので、このように力の流れと部材の役割を上手く組み合わせることで建築の形態に表出させやすいと捉えることもできます。

構造形式の特徴と力学の基本を知っていくことが美しい形態を作る上では不可欠な認識だと言えます。

まとめ:鉄骨造の設計は「多機能化」と「時間軸」で考える

今回の記事では、鉄骨造における部材の役割と、施工手順が力の流れに与える影響について解説しました。 画面上の線材モデルを現実の建物として成立させるためには、以下の視点を持つことが重要です。

  • 部材の多機能化: 小梁は単に床を支えるだけでなく、「大梁の横補剛」「ブレースの受け」「ねじれ防止」など複数の役割(応力)を同時に担っています。これを効率よく組み合わせることが経済的な設計に繋がります。
  • 組み立て順序(時間軸)の意識: 鉄骨造は「いつボルトを本締め(固定)するか」で力の流れが劇的に変わります。スラブ打設前に固定するか、打設後に固定するかで、その部材が長期荷重を負担するかどうかが決まります。
  • 施工への伝達: 「計算上は長期荷重を負担しないモデルにした」だけで終わらせず、それを実現するための「接合のタイミング(施工手順)」を図面や特記仕様書で施工者に引き継ぐことが、構造設計者の重要な責務です。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 鉄骨造における小梁は、床スラブからの長期鉛直荷重を負担することが唯一の役割であるため、大梁の横座屈を防ぐ横補剛材としての役割や、水平ブレースからの力を伝達する役割を持たせる場合は、小梁とは別に専用の部材を配置するのが原則である。

回答1 :× 解説: 鉄骨造では、1つの部材に複数の役割を持たせることが経済設計の基本です。小梁に鉛直荷重を負担させつつ、大梁の横座屈を防ぐ「横補剛材」としての役割や、水平面の剛性を保つ役割を兼ね備えさせるのが一般的な設計手法です。

問題2 長期荷重を負担させず、地震力(水平力)のみを負担させる目的で配置した「耐震間柱」において、床スラブのコンクリートを打設する「前」に間柱のボルト本締めや溶接を完了させて剛結状態にした場合、この間柱は計算上の想定に反して床スラブの長期荷重を負担してしまうことになる。

回答2 :〇 解説: ここが施工手順と力の流れの核心です。スラブ打設「前」に本締めしてしまうと、スラブの重みで大梁がたわむ際、すでに一体化している間柱も一緒に押し下げられ、結果として長期荷重(圧縮力)を負担してしまいます。長期荷重を負担させないためには、スラブを打設して大梁がたわみきった「後」に間柱を本締め(接合)する必要があります。

問題3 構造計算において意図した力の流れ(特定の部材に応力を負担させない等)を現実の建物で実現するためには、剛性比や支点条件の調整といったモデル化の工夫だけでなく、現場での「組み立てる順序(接合のタイミング)」を指定することが不可欠なケースがある。

回答3 :〇 解説: 計算ソフト上で「軸力負担なし(ピン等)」に設定するのは簡単ですが、現実の鉄骨は物理的に繋がっています。計算上の仮定を現実にリンクさせるためには、問題2のように「どのタイミングで接合を完了させるか」という施工手順(時間軸)を構造設計者がコントロールし、施工者に伝達することが非常に重要です。

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