【わかりやすい構造設計】減衰定数とは~定量的評価が難しい減衰要素

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地震の揺れと密接な関係があるものの1つに減衰力があります。減衰力が存在していることを踏まえて構造設計をしてはいますが、その減衰力の効果としてははっきりと評価できるものではありません。

以下の記事でも書いた構造特性係数Dsとの関係も深いものになります。
【わかりやすい構造設計】構造特性係数Dsの数値の意味
今回はそんな減衰力が構造計算の中ではどのような位置づけになっているのかを書いていきます。

目次

①想定地震動と地震被害について

建築基準法が想定している地表面の加速度というのは400~500cm/s2と言われていますが、最近の地震ではそれを余裕に超えてきます。
建築基準法は最低限の基準とよく言いますが、もし本当にそうであれば前述したように地表面の加速度が想定よりも大きければ、もっと多くの建物が倒壊することになってしまいます。

当然地震動の被害は加速度だけで決まるわけではなく、周期や速度との関係はありますがそれだけではない要因があることは間違いありません。

近年の地震の加速度については以下のサイトを参照してください。
地震の加速度を表すガル(Gal)とは?建物の揺れと計測震度との関係(バッコ博士の構造塾より引用)

実際には計算には現れていない安全側になる要因が存在していると言うことだと思います。
逆のパターンとして、計算書の数値での安全率が高くても損傷しているものもあります。

減衰力については構造計算ルートのルート3までの静的な解析の中ではあまり詳細に組み込んで評価をしていません。減衰力は定量的な評価がしにくいですが、人知れず建物を助けているのではないかと思っています。

②減衰効果とは

建物に対する減衰効果は速度に依存した項として運動方程式に組み込まれています。速度に依存した減衰定数があることによって、永遠に揺れることなく、揺れる度に運動エネルギーを失い最終的には止まります。

減衰効果として考えられるものは大きく分けて2つあります。振動に関わる減衰と波動に関わる減衰と言われています。

振動減衰
・粘性減衰:液体などの粘性に起因する減衰
・摩擦減衰:部材の接合部などのすべり摩擦
・塑性履歴減衰:材料の塑性挙動によるもの

波動減衰
・幾何(きか)減衰:震源から伝播されていく波動が立体的に拡散すること
・地下逸散減衰(放射減衰)地盤からの波動が建物に入射する際や反射する際の減衰

言葉だけで理解しようとすると難しいですが、簡単に考えるのであれば、地震で変形する中でものが動くことで至るところでエネルギーを消費しているということと、地震波は波であり、色々な性質の物質を伝達する度にロスが生じているということだと思います。

これらの事象がどの程度寄与しているのかということを正確に算出することは困難なことであり、計算上の都合から速度に依存する抵抗力として運用がされています。

上記のように分類されていますが、各分類の中にも色々な要因が入っていることが想像できます。細かなこともあげていけばかなりの数の要因が出てきそうです。

③現状の設計ではどのように減衰が考慮されているか

長い間計算に携わっていると計算の仮定が自然現象そのものであると勘違いして認識してしまいがちですが、今回のように便宜的に設定されていることなのか、自然現象なのかはしっかりと把握して使っていきましょう。そうすることで工夫の幅も広がっていきます。

前述した通り計算上は減衰は速度に比例していることになっていますが、実は速度に比例しているという証明はありません。これを知った時はとても驚きましたが、このことから計算で扱っていることが自然現象を示していると思い込んでいることに危うさを感じたきっかけにもなりました。

振動現象の実測結果についても減衰と速度が比例関係にあると仮定することで、実測値と解析値の対応が得られたことから便利な仮定としているのが実態です。

この仮定が便宜上に設定されたものとなると、慣例的に使われている、鉄骨造の減衰率2%やRC造の減衰率の5%の数値の見え方も変わってきます。

構造特性係数Dsは部材が塑性化することでのエネルギーの減衰を表現しているので前述した減衰要素の『塑性履歴減衰』に相当していると言えますが、この減衰機構は多々ある減衰機構の1つに過ぎません。

【わかりやすい構造設計】構造特性係数Dsの数値の意味より引用
RC造の低層(10階未満)だとDs=0.3:層塑性率6.06、Ds=0.5:層塑性率2.50の関係になっています。

これだけ多くの減衰機構があるということを踏まえると上記のDs値と塑性率の関係だけから考えると建物がもっと大きな変形をしていると考えられます。しかし、実際には塑性によらない減衰が生じていると考えると、想定程の塑性や大変形が起こっていないことともいったん整合します。

今回は少し具体的な数値を見ながら減衰について考えてきました。明確にこれが答えというものは当然出てきませんが、慣例的に使っている数値の見方と少し変えてみる中で、設計での工夫が生まれるきっかけになればと思います。

まとめ

今回の記事では、構造計算において評価が難しく、ブラックボックスになりがちな「減衰力」について解説しました。 「減衰=速度に比例する」という常識も、実は計算を成立させるための便宜的なモデルに過ぎません。

  • 計算と現実のギャップ: 建築基準法の想定(400〜500Gal)を超える地震でも建物が倒壊しない理由の一つは、計算で評価しきれていない「多様な減衰効果(摩擦、地盤への逸散など)」が安全側の要因として働いているからです。
  • モデル化の限界を知る: 一般的な設計で用いる「粘性減衰(速度比例)」や「Ds値(塑性履歴減衰)」は、複雑な減衰現象の一部を切り取ったモデルです。
  • 数値の意味を疑う: 「S造は2%、RC造は5%」といった慣例的な数値やDs値の意味を、物理現象(層塑性率など)と照らし合わせて考えることで、より実態に即した設計判断が可能になります。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 建築基準法で想定されている地表面加速度(400~500Gal程度)を超える地震動が観測された場合、現在の耐震基準で設計された建物は、計算上の耐震性能の上限を超えるため、理論上はすべての建物が倒壊することになる。

解答1:× 解説: 実際の地震では想定を超える加速度が観測されることがありますが、すべての建物が倒壊するわけではありません。これは、建物自体が持つ「余力」や、今回のテーマである計算に含まれない「減衰効果(摩擦や地盤へのエネルギー逸散)」が複合的に作用し、損傷を抑えているためと考えられます。

問題2 構造計算の運動方程式において、建物の揺れを抑える「減衰力」は、一般的に「速度」に比例して大きくなる力(粘性減衰)としてモデル化されるが、これはあらゆる減衰現象が物理的に速度比例であることが証明されているためである。

解答2×解説:計算上は「速度に比例する」として扱いますが、これは解析と実測の整合性を取るための便宜的な仮定です。実際には摩擦減衰(振幅依存)や履歴減衰(変位依存)など、速度に単純比例しない減衰メカニズムも多く含まれています。計算モデルが自然現象そのものではないことを理解しておく必要があります。

問題3 保有水平耐力計算で用いる「構造特性係数Ds」は、主に部材が塑性化してエネルギーを吸収する「塑性履歴減衰」を評価したものであるが、実際の建物にはそれ以外にも摩擦減衰や地盤への逸散減衰などが作用しており、これらが計算外の安全余裕として寄与していると考えられる。

解答3:〇 解説: 正解です。 Ds値は、部材が降伏して粘り強く変形する能力(塑性履歴減衰)を係数化したものです。しかし、記事にあるように、実際の変形(層塑性率)がDs値の想定よりも小さく済むケースがあるのは、Ds値では評価していない他の減衰要素(内装材の摩擦や、揺れが地盤へ逃げる効果など)が働いているためと推測されます。

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