【わかりやすい構造設計】構造解析のモデル化の基本~剛床仮定とはなにか/非剛床の事例

【モデル化】

構造解析のモデル化の基本~線材モデルについてとモデル化の目的
こちらの記事に続く内容として、一貫計算のモデル化の基本的な内容として剛床仮定についてになります。

剛床仮定のままで計算してよいのか?どこを非剛床仮定にすればよいのかということは、一貫計算を使う中で初期段階で一度は通る箇所だと思うので、今回の記事では原理から理解して使いこなせるようになる内容を書いていきます。

①剛床仮定とはなにか?

まずは剛床仮定とはどのような仮定なのかについて簡単に説明していきます。
いきなり数学的な式から入っていくと本筋を伝える前に、色々と気になるところが出てきてしまう可能性があるので、言葉とイメージで理解できるような説明にしていきます。

剛床仮定にすることで、どのようなパラメータに影響が出るかというと、各節点の変位と水平部材(主に梁)の軸剛性になります。まず各節点の変位については、剛強の床で繋がっているという仮定となるので、同じ層の水平変位は同じになります。もう少し詳しく言うと、各節点の距離感が変わらないということです。

ただし、立体解析の場合には直交方向の剛性の影響によりねじれ変形も生じるため、その変形が水平変位に加算されるため最終的にはX,Y方向に対しての変位量は節点ごとに異なます。

まとめると水平方向に対して一体として移動して、床が平行移動したり、回転したりすることはあっても、床自体の内部で伸び縮みやせん断変形は起こらないということになります。

このことを踏まえるとすでに偏心による変位も立体解析の結果には反映されることになるので、偏心率の割り増しが必要なのか?という疑問が出てきます。

参考:偏心率~立体解析との関係

②なぜ剛床仮定なのか?

剛床仮定は、床の剛性が十分に高い場合に適用されます。例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の床はスラブで構成されるので一般的に剛性が高いため、剛床仮定が適用されることが多いです。

各階の水平変位が一体となって動くとみなせるため、層ごとの水平変位を代表値として扱うことができます。基本的に一貫計算の応力解析は、マトリックス変位法で行われます。各節点の変位を未知数として方程式を立てて解きますが、剛床仮定を用いることで、各階の水平方向の変位(未知数)を大幅に減らすことができます。結果として、解くべき連立方程式の数が減り、計算負荷が軽減されます。

参考:構造解析のモデル化の基本~線材モデルについてとモデル化の目的

未知数が減ることで、計算に必要な時間やコンピュータのリソースが少なくなり、効率的に構造計算を行うことができます。特に、初期の構造計算プログラムが開発された時代は、コンピュータの性能が現在ほど高くなかったため、計算負荷の軽減は非常に重要でした。

現代はコンピュータも発展しており未知数が多くてもある程度の時間で解析はできるようになっていますが、剛床仮定をベースにしているのにはもう一つ理由があると考えています。

詳細に検討できるようにするにはそれだけ詳細な情報を入力する必要が出てきます。床面の剛性を評価できるように梁やスラブといった水平部材の剛性情報をすべて入力することになり、設計者の作業手間が取られてしまいます。

構造計算は多くの部分で仮定が含まれています。そのような中で一部分だけに詳細な情報を設定しても全体の結果が仮定でないことには大きな差はありません。影響の大きなものに対して意識を向けられるようにヒエラルキーを付けることが重要になってきます。

そのように考えると剛床仮定を基本とすることで妥当だと考えられます。

参考:詳細な検討をしたからと言って安全とは限らない

③非剛床になるのはどんなとき?

木造や軽量の床構造、金属屋根など、床の剛性が低い場合は、剛床仮定が成立しない可能性があり、その場合は「非剛床仮定」(=剛床解除)とする必要があります。
※非剛床仮定とすると梁部材の水平方向の剛性と軸剛性を考慮することになります。それもどのように評価するかが一貫計算の設定の中でにあるので必ず確認しましょう。

ここではよく使用する非剛床仮定のパターンを紹介します。当然これ以外の場合にも非剛床とする場合にはあるので前段で説明したような基本的な原理を理解して状況に応じて応用していけるようにしましょう。

〇金属屋根のような水平剛性が低い場合

屋根で金属屋根のような水平剛性が低い場合やバルコニー床などで縞鋼板(チェッカープレート)が使われている場合には非剛床仮定とする必要があります。
このような場合には、一般的に水平ブレースを設けることになると思うので、水平ブレースの剛性を評価してモデルに盛り込みましょう。

水平ブレースに発生する軸力だけでなく、梁にも軸力が発生するので、それも含めて断面算定を行い部材の耐力が問題ないか確認するようにしましょう。

〇スラストが生じる場合

一番わかりやすい事例としては山形ラーメンになります。本来であれば屋根梁からの水平方向の軸力で屋根が開く方向に変形するはずが、剛床にしていると水平方向の変形が拘束されてしまいます。

〇吹き抜けがある場合

吹抜けがある場合には当然床が繋がっていないため、変位が異なります。部材の取り付き方によっては鉛直、X方向、Y方向ごとに剛床、非剛床の評価が異なることはあるので状況に応じて判断しましょう。

参考:(山形ラーメン剛床)・(吹き抜け部の剛床)

〇トラス梁を使用する場合

トラス梁を上弦材と下弦材を層を跨いで設けた場合にも非剛床にする必要があります。剛床は床の一体化に意識が向きがちですが、梁の軸剛性も無限となるためトラス梁の変位が小さくなってしまいます。

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