設計の調整をしている中で、柱のサイズを小さくしたい場合の方法として地震力の負担を小さくすることがあります。
設計者が勝手に地震力を負担しないと言っても、実際に地震力を負担しないようにするには工夫や配慮が必要になります。
今回は地震力を負担しない部材にするために考えることを書いていきます。
①なぜ部材を小さくできるのか?
地震力を負担しないことで小さくできる部材というのは言い換えると、曲げモーメントが発生せず(あるいは小さい)に軸力だけを負担する部材となります。
一般的に曲げモーメントを負担させると断面効率が落ちます。同じ断面積であっても、小径部材にすると部材のせいが小さくなるので断面係数Zが極端に小さくなります。
なので、地震力に限らず長期荷重においても曲げモーメントを発生させないことがポイントになります。
地震力から開放した場合でも当然ですが、長期荷重を負担する必要はあります。断面積が同じ部材でも細長くしすぎると圧縮力を負担する柱では座屈現象を考慮するので、耐力の低減が大きくなることになります。
地震力から開放できても、長期荷重からは開放されないので、より小さくしたい場合には床の単位荷重を小さくする、負担面積を小さくする(柱本数を増やす)必要が出てきます。
構造設計者からも意匠設計者が一緒に考えられるように、できるできないの回答だけでなく、これを実現するにはこうする必要があると言うことを具体的かつわかりやすく伝えることを意識しましょう。
参考:思考が進む具体性を示そう
参考:EXTRA SLIM(究極の極細柱)~木造建築に美しく洗練された柱を
②変形を拘束していないか?
具体的に地震力を負担させないためにはどのようなことをしているのかですが、いくつかの方法があります。共通していることとしては建物が地震時に横に揺れようとしたときに水平変形を拘束しないようにすることです。
地震力を負担するということは言い換えると、変形を拘束していると言えます。これはフックの法則F=kx(F:負担水平力、k:水平剛性、x:変形量)をイメージしてもらえば良いのですが、水平剛性を持っているものが変形すると水平力が発生していることになります。
なので、変形を拘束しないということは水平剛性がゼロなので変形量が何であっても負担水平力はゼロになります。結果として水平力(柱にとってはせん断力)がゼロなので曲げモーメントは発生しません。
これが基本的な原理になりますが、それを踏まえると柱の剛性を落とすためには、柱の柱頭柱脚部共にピン接合にしてしまう方法があります。
このように柱の水平剛性を事態をゼロにしてしまう方法以外には、総体的に剛性を小さくする方法があります。それが非常に剛性の大きい耐震壁やブレース構面を配置することです。
フックの法則に当てはめて見ると、非常に剛性の大きい部材であれば変形量が微小であっても、水平剛性が大きければ負担水平力が大きくなります。
ちょっと考え方が違ってきますが、地震力を小さくするという意味では免震構造にするという方法もあります。
③地震力を流す経路を確保する
該当部材が地震力を負担しない分は、地震力が勝手に減るわけではないので、地震力を代わりに負担する部材まで力を流す必要が出てきます。
地震力を負担してくれる柱や耐震壁のような鉛直部材まで力を流すためには、床スラブや水平ブレースといった水平構面が必要になります。
極端な例を言えば床スラブなどで繋がっていない、細柱がポツンと単独で立っていることをイメージしてもらえばわかると思います。剛性や水平方向の耐力の低い梁だけで繋がっていれば耐震壁は倒れませんが、柱は倒れてしまいます。これは柱に生じた地震力が耐震要素まで伝達できていないということになります。
床スラブを通して細い柱と剛性の高い耐震壁が繋がっていれば、床スラブが水平方向に割かれない限りは柱は倒れません。これは床スラブが地震力(水平力)を耐震壁まで伝達してくれているからです。
なので、地震力を負担させない柱が負担している長期荷重分くらいの地震力が流せる水平構面が取りついているのかが重要になります。
一般的に一貫計算では剛床仮定という条件で計算しています。この条件というのは鉛直部材が水平方向に十分な剛性と耐力がある床スラブのような水平構面で一体になっており、鉛直部材間での水平力の伝達ができている前提での計算になります。
そういった条件の元で計算しているため、一貫計算では床スラブでの水平力の伝達については検討してくれません。なので、耐震要素周辺に開口が多い場合や、細長い平面形状で両端部にしか耐震壁がないような場合には、床スラブの水平方向への検討が不可欠になります。
一貫計算に計算を任せすぎていると抜ける部分ではあるので注意しましょう。
※剛床が成立していない場合には、節点ごとに非剛床という設定をすることができますが、非剛床にすることが必ずしも安全側になるわけではないので、概念を理解しつつ、応力図に不自然さがないことを確認しながら適切に設定していきましょう。
参考:構造解析のモデル化の基本~剛床仮定とはなにか/非剛床の事例
まとめ:細い柱は「力の流れ」と「水平構面」で成立させる
今回の記事では、意匠的に求められる「細い柱」を実現するための構造的なアプローチについて解説しました。 単に部材を細くするだけでなく、以下の3つのロジックを成立させることが不可欠です。
- 曲げからの解放: 細い柱を実現する最大のポイントは、地震力による「曲げモーメント」を負担させないことです。そのためには、柱頭柱脚をピン接合にするなど、水平剛性を極限まで下げる(変形を拘束しない)工夫が必要です。
- 剛性の役割分担: 細い柱が負担しない分の地震力は、他の「剛性の高い部材(耐震壁やブレース)」が肩代わりする必要があります。建物全体での剛性バランス計画が重要です。
- 水平構面の重要性: 柱から逃がした地震力を、耐震壁まで運ぶのは「床(水平構面)」の役割です。一貫計算の「剛床仮定」に隠れて見落としがちな、スラブの面内せん断伝達能力の検討が、安全性を担保する最後の砦となります。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!
問題1 柱の断面サイズを小さくするために「地震力を負担させない」設計とする場合、その柱の柱頭および柱脚の接合条件は、回転を強力に拘束する「剛接合(固定)」とするのが最も効果的である。
問題1 :× 解説: 地震力を負担させない(=水平剛性をゼロに近づける)ためには、変形を拘束しないことが重要です。柱頭や柱脚を「剛接合」にすると、強制的に変形を拘束して曲げモーメントが発生してしまうため、断面を小さくできません。逆に「ピン接合」にすることで、曲げモーメントを発生させず、軸力のみを負担する細い柱が可能になります。
問題2 建物内に極めて水平剛性の高い耐震壁やブレースを配置することは、地震時の建物全体の変形を抑制するだけでなく、剛性の低い(細い)柱に分配される水平力を相対的に小さくする効果がある。
問題2 :〇 解説: 地震力は、剛性の高い(硬い)部材に集中して流れる性質があります(フックの法則 F=kxのイメージ)。極めて硬い耐震壁を設けることで、相対的に柔らかい細い柱に流れる地震力を減らすことができます。これを意図的に行うのが「剛性分離」の考え方です。
問題3 一貫構造計算ソフトにおいて「剛床仮定」を用いて解析を行っている場合、地震力が床スラブを介して耐震壁などの鉛直部材へ適切に伝達されるかどうかはソフト内で自動的に検証されているため、スラブに開口がある場合や細長い平面形状であっても、設計者が個別に床の水平力伝達を検討する必要はない。
問題3 :× 解説:「剛床仮定」はあくまで「床が無限に硬く、一体で動く」という計算上の仮定に過ぎません。実際のスラブがその力を伝達できる耐力を持っているかは、ソフトの自動計算では検討されないことが一般的です。特に、耐震壁から離れた位置にある柱や、開口でスラブが細くなっている部分は、設計者が手計算などで力の伝達経路を確認する必要があります。

