【構造設計ロードマップ①】1年目が最速で成長するための必須スキル3選
【構造設計ロードマップ②】「わかったつもり」を脱却し、設計力を伸ばす3つのステップ
課題のレベルも上がり、課題を推進する上での関係者も増えてきます。そんな中で設計チーム内で考えを共有するだけでなく、クライアントや施工者などにこちらの考えを伝える能力が不可欠になってきます。言語能力と合わせて、未知の課題に対して仮説を立て、答えに近づいていく思考力も求められます。
現場対応や、他部門との調整など構造専門以外の内容についても、深く理解していくことで業務全般を高度化していける時期でもあります。
構造技術面においても、一貫構造計算ソフトを使い、建物全体の設計に取り組む時期でもあるので、目先的なOK/NGに振り回されるのではなく、本質を理解した上で検討できることを目指しましょう。
構造設計ロードマップ①、②に引き続いて、このロードマップ③では、①関係者を巻き込む対話力、②専門性を深める実践力、③全体を俯瞰する統合力という、チームの中核を担うための3つのスキルを習得していきます。
①関係者を巻き込み新しい課題への挑戦
専門知識を深めるほど、それを他者に「伝える」能力が重要になります。この章では、専門家ではない相手にも設計意図を的確に伝える「通訳力」と、未知の課題に最短で挑むための「仮説思考」を身につけます。
構造設計者は自然・工学・形を繋ぐ通訳者
構造設計は建築設計の分野の中でも特に専門性が高いと言われます。
構造計算をするにあたって、普段見ないような言葉やたくさんの計算式を使ったり、大量の計算書を作ったりしているところを見ると専門性が高く見えるのかもしれません。
しかし、良い建築を作るためには各分野の人間が協力することが不可欠です。
専門性が高いからこそ、豊富な言語力・表現力がなければ、考えていることや課題意識を共有できないのです。
専門性が高いからと言って、仕事の中でやり取りをする人がみんな構造設計に明るい人ばかりとは限りません。相手は同じ設計チームの仲間から、施工者、そして建築の専門家ではないクライアントまで多岐にわたります。
互いに分かり合うことなく、業務を進めることはできません。自分の知っている言葉をぺらぺらと話しているようであれば信頼できる設計者にはなれません。
専門性が高い内容を誰でもわかるような言葉で伝えられるということは、工学の本質的な理解と言語力の両方があって実現できることです。
▼専門用語を振りかざすだけでは、良い建築は生まれません。多様な関係者と円滑に協働し、信頼される設計者になるためのコミュニケーションの本質を、この記事で解き明かします。
[構造設計者は自然・工学・形を繋ぐ通訳者]
デキる人は「仮説」から調べる/思考が深い人と浅い人の違いは?
どんな仕事でも、「調べる」という行為に多くの時間を費やします。特に専門職である建築構造設計では、無数の法的基準や学会指針、過去の事例など、膨大な情報と向き合わなければなりません。
ここで重要になるのが、学校の勉強と仕事の決定的な違いを理解し、「暗記」から脱却することです。仕事で求められるのは、テストで点を取ることではなく、必要な情報を素早く見つけ出し、概要を掴み、次のアクションに移るスピード感です。
仕事で直面する課題は、試験勉強のように答えがそのまま書いてあることは稀です。教科書のように範囲が限定されているわけでもなく、情報の海の中から答えの糸口を探し出さなくてはなりません。
ここで意識すべきなのが、「仮説を持って調べる」ことです。
仮説がないまま検索を始めると、情報に溺れてしまい、「時間をかけたのに、結局何も分からなかった」という事態に陥ります。
仕事ができる人、課題解決が上手い人は、未知の課題に遭遇した時、まず「おそらくこうではないか?」という仮説を立て、それを検証するために情報を探しにいきます。
▼仕事が早い人は、調べ始める前に「答えのあたり」をつけています。情報の海に溺れず、最短で課題を解決するための「仮説思考」の技術を、具体的なステップで解説します。
[デキる人は「仮説」から調べる/成長を加速させる調べる技術]
[思考が深い人と浅い人の違いは?思考を深める3つのポイント]
②課題対象を広げて専門技術も深めていく
構造設計の枠を超えて建物全体を理解するため「現場業務」と「他分野との連携」について学びます。設計図は、現場で正しく施工されて初めて価値を持ちます。ここでは、設計意図を現実に落とし込む「現場監理」の要点と設備図との連携について身につけます。
現場監理の基本動作~先回り力で品質と信頼を築く
設計を実現するためには適切な現場運営は不可欠です。構造設計者が監理業務に関わることは多いと思います。
設計監理業務とは、設計者が作成した図面や仕様書通りに工事が進められているかを確認し、品質が確保されるように管理する業務のことです。簡単に言えば、設計者の意図がきちんと現場で実現されているか、工事の品質が保たれているかを見守る役割を担います。
設計を実現するため現場との良好な関係・運営は不可欠です。
設計場面とは違った特有のスピード感や、意図だけでなくモノが作れる具体的なやり取り(指示)が求められます。
現場が進んでいく中で設計図のすべてが完璧ということはほとんどなく、色々な次元でドキドキすることや後ろめたくなることもありますが、そんなときにも反省や犯人探しをするのではなく、常にどうすれば物事が前進するのかを考える意識がとても重要になります。
現場では大小問わず本当に色々な課題が出てきます。その1つ1つの課題に丁寧に答えていくことは重要なことですが、期限に追われて目先的に答えていくことだけに集中するのではなく、常にプロジェクト全体の視点を持つことを忘れてはいけません。
▼「良い設計」は「良い現場」から生まれます。予期せぬトラブルに先回りし、現場の品質と信頼を勝ち取るための監理業務の基本動作と、変更対応の心得を学びましょう。
[現場監理の基本動作~先回り力で品質と信頼を築く]
[「計画変更」か「軽微な変更」か?知っておくべき現場変更の手続きと協議の心得]
【設備】機械図のチェックの視点/【設備】電気図のチェックの視点
設計を進める中で構造図以外の図面もチェックすることで部門間調整をしてくことになりますが、その際にある程度の理解がないと大量の情報の中で何を見てよいかわからないことになってしまうと思います。
他部門と調整せずに進んでしまうと設計終盤での手戻りや現場での設計変更が発生してしまうことになります。
図面のチェックの視点という形で書きますが、チェックの内容を理解できるようになれば、計画や基本設計段階でも全体を見通した構造設計もできるようになっていきます。
他部門のことを理解できるようになってくると提案の幅も広がってくるので構造設計もより楽しくなっていくと思います。
それぞれの設備の大きな特徴を理解して、どのような調整事項・確認事項が発生しそうかといった課題発掘ができるようになることを目指しましょう。
▼設備スリーブや配管ルートの考慮漏れは、大きな手戻りの原因になります。構造計画の段階から他部門の図面を読み解き、先を見越した提案ができるようになるためのチェックポイントを解説します。
[異常気象・地震に備える「フェイルセーフ」という考え方]
[【設備】機械図のチェックの視点]
[【設備】電気図のチェックの視点]
③構造設計の全体感の理解と経験を活かした高度化
個別の技術をマスターした先には、それらを統合し、建物全体を一つのシステムとして捉える「全体感」が待っています。一貫計算の本質である「モデル化」の要点と、自らの経験を「知の体系」へと昇華させる方法を探求します。
構造解析のモデル化の基本【総まとめ編】
建築物の安全性を担保する構造設計。その根幹をなすのが「構造解析」です。地震や台風といった強大な自然の力に対し、建物がどのように振る舞い、耐えうるのかを科学的に予測することが構造解析の役割です。
しかし、現実の建物のすべてを解析で再現することは、現代の技術をもってしても不可能です。あまりに複雑すぎる情報は、かえって問題の本質を見えにくくしてしまいます。
そこで不可欠となるのが「モデル化」です。モデル化とは、複雑な現実世界(建物)から、その挙動に最も大きな影響を与える本質的な要素だけを抽出し、計算可能なシンプルな形に置き換えることです。それは単なる簡略化とは違って、どの要素を残し、どの要素を捨象するのか。その判断の一つ一つに、設計者の経験と工学的な知見が求められます。
▼一貫計算ソフトは、設計者が与えた「モデル」に忠実に答えるだけです。解析結果を鵜呑みにせず、その背景にあるモデル化の意図を説明できる「本物の設計者」になるための思考法を、6つのテーマで学びます。
[構造解析のモデル化の基本【総まとめ編】~6つのテーマで学ぶ本質と実践法]
経験からのフィードバックを次に繋げていく
この時期になってくると、上手くいったことも、いかなかったことも含めて、多様な経験を積んできているはずです。
それらの経験を一過性のものにしてしまうのか、きちんと体系化して今後にも活かせるものにしていくのかで今後の成長の仕方が大きく変わってきます。
また、後輩ができ、自分の成果だけでなく他者の成果物をチェックする(品質管理)機会も増えるため、そのための視点を身につけることも重要です。
▼あなたの経験は、あなただけの貴重な資産です。以下の記事では、その経験を「知の体系」に変えるための具体的な方法を、多角的に解説しています。
[構造図・計算書・コストでの比を使ったチェック]
[複数の課題に共通する「本質」の見つけ方]
[品質管理(品管)あるあると手戻りを防ぐ解決策まとめ]
まとめ:中核を担うエンジニアへ
今回のロードマップ③では、①対話力、②実践力、③統合力という、若手から一歩抜け出し、チームの中核を担うための3つのスキルを解説しました。これらの力を磨くことで、あなたは単なる作業者ではなく、自ら考え、チームを動かせる真の「設計者」へと成長していくはずです。
シリーズ最終回となる【構造設計ロードマップ④】では、その最終ステップについて解説します。
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