構造計画上、部分的に短スパンとなってしまう部分が出てくることがあります。そのような短スパンでの梁部材での課題や設計時に留意するべきことと、それに対する具体的な対処方法について解説していきます。
①短スパン部材の問題点は?
短スパンの梁部材は長期荷重においての応力は小さくなりますが、水平荷重時に剛性が非常に高くなるため発生応力が大きくなります。特にせん断力が大きくなるため十分な耐力がないと脆性的な破壊につながることになります。
中地震に対する許容応力度設計レベルであれば、変形も1/200以下と大きくないため許容応力度設計を満足することはそこまで難しいわけでもなく、建物全体の剛性を高めることにも寄与しており耐震性を高めることに有効に機能させることもできます。特に耐震壁やブレースを利用している剛性の高い(変形の小さい)建物であれば設計でも苦労することは少ないと思います。
なので短スパンになっているからという理由だけで、安易にスリットを設けることが正解ではありません。
参考:偏心率~立体解析との関係
扱いが難しくなるのは、建物全体が靭性型の場合になります。大地震時には変形も大きくなるため、十分な靭性性能を有する必要があります。
保有水平耐力計算の中で増分解析を行うと短スパンの梁が早期にせん断破壊をしてしまうことでDs値が大きくなってしまったり、保有水平耐力が低くなってしまったりということがあります。
最初に取り組む対応策としてはせん断耐力を高めることになりますが、それで解決できない場合には梁主筋は減らして早期に曲げ降伏させることで発生せん断力を小さくする方法があります。ただし主筋を減らし過ぎると1次設計を満足しないこともあるので限界があります。
梁せいを小さくすることは曲げ耐力を下げると同時に曲げ剛性も下がるので1次設計時に発生する応力も小さくできますが、断面積が小さくなるのでせん断耐力も下がるので梁幅を上げる等でバランスを取る必要があります。
また短スパンであれば長期荷重においては梁を配置していなくてもスラブで荷重を伝達できてしまう場合もあります。そのような場合には梁部材を配置しないという選択肢もあります。建物全体としての剛性が低下することで、最大変形角までの到達が早くなるため保有水平耐力が低下する方法であることを認識しておく必要はあります。また、柱周りに補強筋を配置する等の配慮も検討しましょう。
参考:保有水平耐力計算とは~構造特性係数Dsの数値の意味
参考:保有水平耐力計算とは~増分解析と復元力特性の基本を解説
梁自体を抜いてしまっても鉛直荷重の伝達上は問題ないような架構であれば梁のせん断破壊を許容するということも選択肢に入れることはできると思いますが、単なる計算上の数値の合わせにならないように現実の事象を踏まえて計算上の課題を解決していくようにしましょう。
大きな考え方は以上になりますが、以降では鉄骨造とRC造でより具体的な課題の解決事例を解説していきます。
②鉄骨梁の短スパンでの留意点
鉄骨造の場合には、短スパン梁の場合にはどこに継手を設けるかといった課題が出てきます。
端部に近すぎると継手の検討用応力が大きくなってしまいます。両端部に継手を配置するようなスパンでなければ中央一箇所にしたり、ノンブラケットにするといった対処方法があります。
継手位置を変える場合には、搬入可能な寸法になっていることを確認しておきましょう。
参考:鉄骨造の基本を知る~現場溶接はなぜ難しい?メリットと品質確保の鉄則
保有耐力接合の検討用応力は材の両端が塑性状態に至った場合の応力が基本的な考え方ですが、建築物の構造関係技術基準解説書では、①隣接する柱部材が先行して塑性状態になる場合や、②節点を介して接続する部材が全てが塑性状態にならないことが明らかであれば、崩壊メカニズム時の応力を採用できることになっています。
小径な柱部材に取り付く梁の場合には①を採用することもあり得ると思いますが、②については靭性性能を期待した架構の場合に部材ランクを保証したいというのが前提にあることがほとんどなので、実際に採用できる場面は少ないように思います。
現実的には保有耐力接合の仕様を満足できるような調整が必要になります。前段では短スパン梁での対処法について解説しましたが、鉄骨梁でも基本的な考え方は同様になります。フランジ厚や梁せいを落として曲げ耐力と剛性を下げる、ウェブ厚を上げてせん断耐力を上げるといった対処になります。鉄骨造であればピン接合にしてしまうという、RC造にはない選択肢を採用することもできます。
代わりに鉄骨造特有の確認事項としては継手の耐力になります。梁の断面に応じて継手の仕様が鋼材表(例えば:JFE鋼材表継手リスト抜粋)に記載されています。ほとんどの場合にはこの仕様を選択すれば保有耐力接合になります。ただしこの仕様を適用できる梁長が決められているのでその長さ以上が確保できるスパンになっていることを確認する必要が出てきます。
参考:鉄骨造の基本を知る~保有耐力接合とは?鉄骨造の原則「部材<接合部」
参考:鉄骨造の基本を知る~高力ボルトの強度・寸法・施工の重要数値
③RC梁の付着検討での対応
RC部材での考え方については主には①で解説した内容になるので、ここでは実務の中でよく直面する通し配筋での付着検討について解説します。
参考:付着割裂破壊の原理と対策(RC鉄筋の付着・基本編)
参考:鉄筋の「定着長さ」とは?カットオフ筋の留意点
RC梁主筋の付着を検討の際、短スパンなどで梁を通し配筋にはしているものの、電算上付着検討NGのメッセージが出力されるときがあります。
通し配筋にしている状態なのでこれ以上付着長さを伸ばすことができないですがどのような対応をする必要があるのでしょうか。そもそもですが、短スパンではカットオフにしてもコストメリットもないし、スパンによっては両端の鉄筋が一体になってしまう、応力状態が複雑といった状態になるので通し筋にしておくことが無難です。
安全性確保のための検討では、せん断ひび割れが生じないことを確かめた場合には、テンションシフトを考慮する必要がなくなるので必要付着長さに有効せい(d)を加算する必要がなくなります。それにより必要付着長を短くすることができます。これについてはRC規準の16条に記載があります。
ヒンジが発生しない場合(基礎梁や耐震壁を配置しているような変形が小さい架構)には上記の方法が採用できますが、ヒンジができる場合には現実的ではないので別の方法になります。
短スパンでヒンジができる場合は、せん断強度算定式を靭性指針式を採用する方法があります。この方法はカットオフ筋を使用している場合には採用できないので前述したことも踏まえて通し配筋にしておくことが無難です。
参考:保有水平耐力計算とは~「塑性ヒンジ」の概念と保有水平耐力計算における役割を解説
靭性指針式のせん断強度は、付着破壊の影響を考慮したものになるため、この式で出したせん断強度でせん断保証設計に満足していれば問題ないと考えられます。
高強度せん断補強筋を使用している場合も同様の考え方になると思いますが、念のため塑性理論式(メーカー指針式)の条件を確認するようにしましょう。
参考:建築行政情報センター 改正建築基準法Q&A検索システム(質疑番号29)
参考:保有水平耐力と保証設計~「安全な壊れ方」を設計するRC・S造の検討項目
まとめ
今回の記事では、構造計画上どうしても生じてしまう「短スパン梁」の課題と対処法について解説しました。短スパン梁は、地震時に剛性が高くなり力が集中しやすく、早期に「せん断破壊(脆性破壊)」を起こしやすいという致命的な弱点を持っています。この課題に対して、設計者は以下の視点で対応を検討します。
- 全体計画とのバランス: 剛性が高い(変形が小さい)壁式やブレース構造であれば問題になりにくいですが、ラーメン構造で変形能力(靭性)を期待する場合、短スパン梁の早期破壊が建物全体の耐力(保有水平耐力やDs値)を低下させる原因になります。安易にスリットを入れて剛性を落とすのではなく、全体バランスを考えて対応策を練る必要があります。
- S造(鉄骨造)の対応策:
- ピン接合にする、梁せいやフランジを薄くして曲げ剛性を落とし力を逃がす、ウェブを厚くしてせん断耐力を高める、といった断面調整が基本です。
- 保有耐力接合を満足するためには継手位置の調整が必要ですが、搬入寸法への配慮や、鋼材表(標準ディテール)の適用条件(梁長制限)に注意が必要です。
- RC造の対応策(付着検討):
- 短スパンではコストや納まりの観点から「通し配筋」が基本となります。
- 一貫計算等で付着検討がNGとなる場合、せん断ひび割れが生じないことが確認できれば、テンションシフト(有効せい$d$の加算)を考慮せず必要付着長さを短縮できます(RC規準16条)。
- ヒンジが発生する場合は、カットオフ筋を用いずに「靭性指針式」によるせん断強度算定を採用することで、付着破壊の影響を内包した安全な設計が可能になります。
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問題1 保有水平耐力計算(増分解析)において、ラーメン架構の中に短スパンの梁が存在する場合、その梁は水平荷重時に剛性が極めて高くなるため、早期に曲げ降伏を起こしてエネルギーを吸収し、建物全体の変形性能(靭性)を高めるという有利な効果をもたらすことが多い。
回答1 :× 解説:短スパン梁は曲げ降伏よりも先に「せん断破壊(脆性破壊)」を起こしやすいという特徴があります。早期にせん断破壊してしまうと、保有水平耐力計算においてそこで解析が打ち切られたり、構造特性係数(Ds値)が大きくなるなどのペナルティを受け、建物全体の耐力を大きく低下させる原因となります。
問題2 鉄骨造における短スパン梁の継手設計において、標準的な鋼材表(便覧など)に記載されている高力ボルトの継手仕様を選択して保有耐力接合とする場合、その仕様が適用できる「梁長の制限」を満たしているか確認する必要があり、スパンが短すぎると適用できないケースがある。
回答2 :〇 解説:継手部の保有耐力接合を成立させるための標準ディテール(便覧等の仕様)は、一定以上の長さを持った梁を前提に算出されています。短スパンすぎる梁に無理に適用しようとすると、必要なボルト本数が納まらなかったり、計算上の仮定が崩れたりするため、基準書の適用条件(スパン長)を必ず確認する必要があります。
問題3 RC造の短スパン梁において、一貫計算ソフトで主筋の「付着検討NG」のメッセージが出力された場合、カットオフ筋を採用して鉄筋量を部分的に減らすことで付着応力を緩和する手法が、コストと安全性の両面から最も推奨される実務的な対応である。
回答3 :× 解説:短スパン梁でカットオフ筋を採用することは、施工が複雑になるうえに、応力状態の急変を招くため推奨されません。「通し配筋」にするのが無難かつ基本です。付着NGに対する工学的な対応としては、せん断ひび割れ無発生を確認してテンションシフトを免除するか、通し配筋を前提とした「靭性指針式」によるせん断強度算定式を採用する手法が実務的です。
