【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~鉄骨造の弱点「座屈」とは?原因と対策を解説

【S造】

今回は鉄骨造の基本を知るシリーズです。

鉄骨造の魅力は、なんといっても「強くて軽い」ことです。

鉄はコンクリートに比べて圧倒的に強度が高いため、部材の断面積を小さくできます。H形鋼や角形鋼管(コラム)のように、曲げや圧縮に対して効率的に抵抗できる部分(フランジやウェブ)にだけ鋼材を集中させ、それ以外の部分をそぎ落とした形状をしています。

参考:材料の特徴/計算条件とディテールの整合

この「必要なところ以外の断面を絞っている」という合理的な形状は、裏を返せば弱点にもなります。薄い板で構成されているがゆえに、鉄という材料が持つ本来の強度を出し切る前に、予期せぬ形で崩壊してしまう可能性があります。

今回の記事では、この鉄骨部材の弱点に焦点を当て、その性能を最大限に引き出すためのポイントについて書いていきます。

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① 鉄骨部材の弱点とは?

鉄骨部材が持つ最大の弱点は「座屈」と呼ばれる現象です。座屈とは、部材が圧縮力を受けた際に、材料そのものが破壊(降伏)する前に、横方向に折れ曲がったり、波打ったりして、急激に耐力を失う現象を指します。

細長い定規や下敷きをイメージしてください。両端を立てて上からゆっくり力を加えると、ある程度の力でぐにゃりと横に曲がってしまいます。これが座屈です。鉄骨部材も同様に、その形状や力の加わり方によって、いくつかの種類の座屈を起こす可能性があります。代表的な3つの座屈を見ていきます。

1. 全体座屈(柱の座屈)

主に柱のような圧縮力を受ける部材全体が、弓なりに変形してしまう現象です。長柱座屈とも呼ばれます。この現象は、部材の「細長比」(λ=Lk/i)が大きく関わっています。

  • 有効座屈長さ (Lk​): 部材の実際の長さだけでなく、両端の固定度(どれだけガッチリ固定されているか)によって変わる「座屈するときの長さ」です。両端がピン支持(回転自由)だと実際の長さと同じですが、固定されていると短くなります。
  • 断面二次半径 (i): 部材断面の形状によって決まる、曲がりにくさを示す指標です。断面積が同じでも、H形鋼のように外側に材料が配置されている方が断面二次半径は大きくなり、座屈しにくくなります。

細長比が大きい、つまり「細くて長い柱」ほど、小さな力で全体座屈を起こしやすくなります。この座屈が起こると、鋼材が持つ降伏強度に達するはるか手前で耐力を失ってしまいます。鉄骨の圧縮許容応力度は細長比に応じた低減係数を乗じる必要があります。

これは強軸と弱軸方向の断面二次半径の差が大きい場合には要注意です。強軸側の耐力をいくら高めても、弱軸側で耐力が決定してしまうと断面を有効に利用できません。

2. 局部座屈

H形鋼のフランジやウェブ、あるいは角形鋼管の側面といった、部材を構成する「板要素」が、部材全体の座屈に先立って、局部的に波打つように変形する現象です。

これは、板要素の「幅厚比」(b/t)が大きく影響します。

ここで、bは板要素の幅、tは板厚です。

幅に対して板厚が薄い、つまり幅厚比が大きい板ほど、圧縮力を受けると簡単にペコペコと波打ってしまいます。この局部座屈が発生すると、その部分の剛性や耐力が低下します。

3. 横座屈(曲げ座屈)

主にH形鋼の梁のように、上下から曲げモーメントを受ける部材で発生する、少し複雑な座屈です。例えば、梁が下側に曲げられると、上側のフランジには圧縮力、下側のフランジには引張力がかかります。このとき、圧縮力を受けている上側フランジが、柱の全体座屈のように横方向(面外方向)にはらみ出し、同時に梁全体がねじれてしまう現象を「横座屈」と呼びます。

横座屈は、圧縮側のフランジがどれだけ自由に動けるか、つまり「横補剛点間距離」が長いほど発生しやすくなります。これもまた、鋼材の降伏耐力を発揮する前に、梁が耐力を失う原因となります。

これらの「座屈」という弱点を克服しない限り、鉄骨の持つ高いポテンシャルを活かしきることはできません。

② 弱点を補う方法は?

鉄骨部材の弱点である各種座屈を防ぎ、本来の性能を発揮させることが鉄骨造設計のポイントになります。

1. 全体座屈への対策

全体座屈の要因は「細長比が大きいこと」でした。したがって、対策は細長比を小さくすることです。

  • 断面を大きくする: 柱の断面サイズを大きくすれば、断面二次半径(i)が大きくなり、細長比は小さくなります。弱軸方向へのサイズを大きくすれば効果は大きいです。
  • 有効座屈長さを短くする: 柱の途中に梁やブレース(筋交い)などを設けて、横方向に動かないように拘束する点を設けます。これにより、見かけ上の柱の長さである有効座屈長さが短くなり、細長比を小さくできます。拘束点を設けた際に、強軸と弱軸のどちらの座屈長さが短くなるのかを考慮することが重要です。

2. 局部座屈への対策

局部座屈の要因は「幅厚比が大きいこと」でした。対策は幅厚比を小さくすることです。

  • 板厚を厚くする: 部材を構成するフランジやウェブの板厚を厚くすれば、幅厚比は小さくなり、局部座屈が起きにくくなります。
  • 補剛材(スチフナー)を設ける: 幅の広い板要素の途中に、補強のための小さな鋼材(スチフナー)を溶接します。これにより、板が見かけ上、幅の狭い板の集合体となり、各要素の幅が小さくなるため、幅厚比を小さくするのと同じ効果が得られます。特に、プレートガーダーと呼ばれる巨大な梁のウェブなどによく用いられます。

3. 横座屈への対策

横座屈は、圧縮フランジが横にはらみ出すことで発生します。したがって、対策は圧縮フランジが横に動かないように拘束することです。

  • コンクリート床スラブとの一体化: 鉄骨梁の上にコンクリートの床スラブを設け、スタッドジベルと呼ばれる頭付きのピンを溶接することで、梁と床を一体化させます。ガッチリと一体化された床スラブが、梁の圧縮フランジが横に動くのを防ぐため、横座屈はほぼ発生しなくなります。多くの鉄骨造建築で採用されている極めて有効な方法です。両端ピンの小梁であればこれで解決します。
    横補剛材を設ける: 床スラブがない屋根梁などの場合、小梁や母屋、あるいは専用の横補剛材(トラス状の部材など)を一定間隔で設置し、圧縮フランジを横から支持します。この支持点の間隔(横補剛点間距離)を短くすればするほど、横座屈に対する耐力は向上します。
    床スラブが付いている場合でもあくまでも拘束できるのは上フランジのみなので、大梁のように端部では下端が圧縮側になるので横補剛材が必要になります。

前段で紹介したように一言で座屈といっても色々な種類の座屈があります。その違いを理解していないと、補強したつもりが全然耐力の上がらない無駄な部材を入れただけになりかねません。そのため、具体的な座屈の事象と補強方法をセットで理解するようにしましょう。

③ 保証設計・部材ランクとの関係

ここまで解説してきた座屈防止策は、実は、より大きな設計思想である「保証設計」(部材ランクFDを回避する)の重要な要素となっています。

保証設計とは、特に大地震時において、建物がどのように壊れていくかをあらかじめ設計者がコントロールし、人命を守るための安全な壊れ方を「保証」するという考え方です。

理想的な壊れ方とは、脆性的な(脆く、突然に起こる)破壊を避け、靭性的な破壊を促すことです。

  • ①まず「梁」の端部が降伏・塑性化して、地震エネルギーを吸収する。
  • ②「柱」は梁よりも強く設計し、梁が降伏しても壊れないようにする。(柱が先に壊れると、建物を支えきれずに層崩壊という危険な壊れ方につながるため)
  • ③梁と柱をつなぐ「接合部」も、梁が降伏するまで壊れないように十分に強く設計する。

という破壊の順序を意図的に作り出す設計手法です。

ここで、①と②で述べた「座屈」の話が重要になってきます。

もし、エネルギーを吸収させたい梁が、降伏する前に「横座屈」や「局部座屈」を起こしてしまったら、梁は地震エネルギーを十分に吸収することなく、脆性的に耐力を失ってしまいます。

つまり、②で述べた横座屈や局部座屈の防止策は、梁が降伏強度に達するまで座屈しないことを「保証」するために不可欠な措置なのです。厳しい幅厚比の規定(ランク)を守り、横補剛を適切に行うことは、梁が粘り強くエネルギーを吸収する能力(塑性変形能力)を確保するための大前提となります。

同様に、柱についても、梁が降伏して建物全体が大きく変形する中で、柱自身が「全体座屈」を起こしてしまっては倒壊を逃れることはできません。

このように、鉄骨造の構造設計において、部材の耐力は断面サイズや部材長さといった複合的な要因で決まります。主要な耐力だけでなく、常に弱点にも目を向けて設計を進めることが重要です。

参考:架構用部材ランクと変形性能

まとめ

今回は、鉄骨造の基本として、その弱点である「座屈」と、それを克服するための具体的な方法、そして耐震設計の根幹をなす「保証設計」との関係について解説しました。

  • 鉄骨部材の弱点は「座屈」: 全体座屈、局部座屈、横座屈などがあり、鋼材の強度を発揮する前に耐力を失う原因となる。
  • 弱点は補える: 細長比や幅厚比の調整、補剛材の設置によって座屈を防ぎ、部材の性能を最大限に引き出す。
  • 座屈防止は保証設計のため: 座屈を防ぐことは、意図した通りの安全な破壊モード(例:梁降伏先行)を保証し、建物の耐震性能を確保するための大前提である。
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