ボイドスラブのイメージやメリットはわかっているけど、実際に使用する場合には構造計画上どのような影響があってどんなことに留意するのかの情報があまりなく、使うことをためらってしまったり、実際に使用してみたらイメージと違っていたなんてこともあると思います。
そこで今回の記事では、一般論だけではなく実施設計レベルでの留意点について解説して、使用した場合のイメージが鮮明に持てるようにしていきます。
①ボイドスラブを使うことのメリット
まずボイドスラブの基本的な原理から見ていきます。一般的なスラブでスパンを飛ばそうとすると、剛性と耐力を確保するためにスラブ厚が必要になります。
スラブ厚を上げていくと剛性と耐力の上昇と合わせて自重も大きくなります。ある程度の厚さに達すると剛性と耐力の上昇の影響が小さくなってしまいます。
荷重が大きくなることはスラブ単体の設計だけに限らずそれを受ける梁、柱、基礎の負担する荷重も大きくなり、当然地震力も大きくなり、耐震要素が沢山必要になってしまいます。
それを解決するためにスラブ内を中空とすることで、部材のせいを確保しつつ荷重を減らすことができるので効率よくスパンを飛ばすことができます。
イメージとしてはH鋼の考え方と同じでウェブ部分の鉄骨は減らしてフランジ部分の断面は残して断面性能を確保しているのと同じです。実際にボイドスラブの断面はH鋼を連続して並べているような形状になっています。
床面全体としての剛性と重量が上がるので床振動対策や防音対策には効果があります。

梁を抜くことができるので階高を下げることができる場合があります。ただし、小梁とスラブの組み合わせの際には、小梁下は設備を通す高さが小さくなりますが、スラブ下には十分な高さが取れるので、梁の掛け方によっては特に小梁の下の寸法がクリティカルになっていない場合があります。そういった場合には特に階高を下げることができず、逆に階高を高くしないといけない場合もあります。
参考:【設備】機械図のチェックの視点
参考:【設備】電気図のチェックの視点
②構造計画全体での留意点
ボイドスラブを採用すると荷重が軽くなるイメージを持つかもしれません。比較対象が無垢のスラブであれば荷重は軽くなりますが、一般的な梁を設けてt=150mmのスラブを計画するような構造に比べると、大体の場合には全体の荷重は大きくなります。
ボイドスラブは大きなスパンを飛ばしているため、それを梁で受ける場合には梁に対して大きな応力が発生します。その応力というのも、鉛直荷重によるせん断力や曲げモーメントだけでなく、大きなねじれモーメントも発生します。

同じスパンが連続している中間の梁に対しては、両側のボイドスラブで応力が釣り合うので梁のねじれを拘束することができますが、端部の梁については反力が取れるように以下のような対策が必要になります。
- 直交方向の梁を取り付ける
- 外部に面するのであれば出寸法の大きい片持ちスラブを設ける
- 梁自体にねじれ耐力を高める
またボイドスラブでのスパンの飛ばし方にもよりますが、大梁もなくすような計画にする場合には地震力を負担するフレームが減るので、耐震壁などの耐震要素をどのように計画するのかも初期段階で見通すことが重要になります。
設備計画との整合も重要になります。床開口を一般的なスラブほどに簡単に設けられないことがあります。特に柱や梁と取り合う周辺には配筋も多くなるので、PS(パイプシャフト)を設けるような部屋の隅に床開口が取りにくくなります。
③詳細設計で配慮するポイント
調整内容しだいでは全体計画にも影響するような、詳細設計で留意する部分についていくつか解説していきます。
ねじれ補強筋とボイド主筋
スパンを大きくするにつれてボイドスラブの主筋も太径かつ本数も多くなってきます。またそれを受ける大梁も配筋も多くなってきます。大梁にねじれが生じるような場合には一般的な曲げとせん断に対する主筋とSTPとは別のねじれ用の配筋としては腹筋や追加でのSTPが必要になってきます。
基本的な理解にはなりますが、それぞれの応力は同時に発生する応力なので足し合わせた応力に対して必要な鉄筋を配置します。主筋やSTPが両方の応力を負担するような考え方にすると一貫計算ではねじれ応力の検討はできないため特殊荷重で補正するといった複雑な計算方法になっていくので、ねじれ応力専用の鉄筋を追加することが一般的だと思います。
STPとスラブ主筋が平行に配置されるのでお互いのピッチが細かくなっていると梁部分でほとんど鉄筋の空きがなくなってしまうことがあるので注意しましょう。

大梁を設けずに柱でボイドスラブを受ける場合
大梁を設けずに直接柱でボイドスラブを受ける場合には柱周辺部でボイドスラブに大きな応力が発生します。そのため、柱周辺にはボイドを設けずにせん断耐力を確保します。また一貫計算上は大梁のないモデルにしている場合には柱にも応力が発生しないことになりますが、ボイドスラブ分の剛性はあるので地震時には柱にもボイドスラブにも応力が発生します。
一貫計算モデルとは別に部分的なモデルを作成して強制変位によってどの程度の応力が発生しているのかは確認しておく必要があります。
またねじれを受ける大梁が取り付く柱については大梁が受けたねじれモーメントを直交方向の曲げモーメントとして負担することになります。こういった応力は一貫計算の中では柱に節点荷重として曲げモーメントを付加します。
無垢範囲の荷重設定
ボイドスラブでもスラブの全面にボイドを設けられるわけではありません。柱際や梁際、床開口を設ける周辺では応力が大きくなるので補強筋を配置したりせん断耐力を確保するためにボイド管を抜いて無垢のスラブにします。
部分的だからといって無視できるような荷重量ではなく、平米荷重で考えるとボイド部分の自重に対して1~2割くらいの荷重を割増すオーダーになります。このような数値を精算するにはメーカーに相談しながら現実的な数値を設定しておく必要があります。
変形増大係数
RC部材であるため将来的なクリープ変形も踏まえて変形増大係数を設定することは重要になります。だからといって一般的なスラブで用いる変形増大係数16倍を採用すると安全側過ぎる数値になる可能性があります。
なので、RC規準の中にある断面性能から算出する値を採用するのが妥当です。この数値に対してスパンが大きい場合には多少の安全率を設計者として見込むぐらいがちょうどよいのではないかと思います。
仮に想定よりも数ミリ変形したとしても相当のひび割れが発生するようなことがなければ気付かないとも言えますが、変形することで実際に問題になる事例としては、建具の枠が変形して開閉に影響が生じるような場合があります。対策としては建具枠の方に多少のルーズを設けておく等の方法があります。
ここで重要なことはまったく誤差のない変形量を考えることよりも、変形形状からどのような障害が発生するのかを予測して、先ほどの事例に示したように建具枠にルーズを設けるような対策をしておくことになります。
これはボイドスラブに関わらず構造設計をする上で全般的に必要な視点です。
まとめ
今回の記事では、大空間を実現するボイドスラブについて、メリットの裏に潜む構造設計上の留意点を解説しました。 「中空だから軽い・簡単」というイメージにとらわれず、以下の3つの視点で設計に臨むことが重要です。
- 荷重と応力の「錯覚」に注意: ボイドスラブは無垢スラブよりは軽いものの、一般的な小梁付きスラブ(t=150mm程度)と比較すると、スラブ厚が大きくなるため建物全体の総重量は増加する傾向にあります。また、柱梁際や開口周りは中空にできない(無垢スラブになる)ため、その分の重量割増(1〜2割程度)を正確に見込む必要があります。
- 端部大梁の「ねじれ」対策: 大スパンの床を支える梁には、甚大な鉛直荷重に加えて、スラブのたわみによる大きな「ねじれモーメント」が発生します。特に外周部の梁(反力を打ち消す反対側のスラブがない梁)では、直交梁の配置や専用のねじれ補強筋(STPや腹筋)の追加が不可欠であり、鉄筋の過密化に注意が必要です。
- 変形を見越したディテール: 大スパンである以上、長期的なクリープ変形(たわみ)は避けられません。過剰な変形増大係数で計算をNGにするのではなく、RC規準に基づいた適切な数値を算出し、「数ミリたわんでも問題が起きない納まり(建具枠のルーズ幅の確保など)」を意匠設計者と共有することが、構造設計者の真の役割です。
【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ
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問題1 ボイドスラブは内部に中空部分(ボイド管など)を設けるため、一般的な小梁を細かく配置した厚さ150mm程度の通常スラブを用いた構造計画と比較した場合、建物全体の総重量を軽くすることができるため、地震力の低減にも有利に働く。
解答1 :× 解説: 同等の厚さの無垢スラブと比べれば軽量ですが、ボイドスラブは大スパンを飛ばすために厚さ自体が250mm〜350mm以上と分厚くなります。そのため、一般的な小梁付きのスラブ(t=150mm等)の構造計画と比較すると、建物全体の総重量はむしろ重くなることがほとんどです。
問題2 大スパンのボイドスラブを支持する外周部の大梁(端部梁)においては、スラブからの片荷重によって大きな「ねじれモーメント」が発生するため、ねじれ専用の補強筋(STPや腹筋など)を追加したり、直交梁を設けてねじれを拘束したりする対策が必要となる。
解答2 :〇 解説: 中間の梁であれば両側のスラブからの力でねじれが相殺(釣り合い)しますが、外周部の梁は片側から回転させられる力を受けます。ボイドスラブ設計における最大の難所の一つであり、一貫計算ソフトは別にねじれ応力に対する十分な補強と配筋の納まり(過密化)の検討が必要です。
問題3 ボイドスラブの自重を算定する際、スラブの全面にわたって均等にボイド(中空部)を配置できるわけではないため、単純にカタログ等の「ボイド部分の平米荷重」を採用するのではなく、柱際や梁際などの「無垢スラブ」となる範囲の重量割増を見込んで精算する必要がある。
解答3 :〇 解説: ボイドスラブであっても、柱や梁と取り合う周辺や床開口の周りは、大きな応力を伝達し、せん断耐力を確保するためにボイド管を抜いてコンクリートが密に詰まった「無垢範囲」にする必要があります。この部分の重量増(ボイド自重に対して1〜2割程度の割増オーダー)は決して無視できるレベルではないため、メーカーと協議して正確な荷重設定を行うことが構造計算上の重要な留意点となります。
