【わかりやすい構造設計】せん断変形と曲げ変形の違いについて

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建物や部材が変形する際には複数の要因が重なり合って、変形量として現れます。

変形を小さくしようとした場合には、そういったどの要因によって変形しているのかを踏まえて、適切に断面を大きくしたり、支持条件を考慮したりする必要があります。

今回の記事では、変形の要因として代表的な「せん断変形」と「曲げ変形」の違いと、その変形を効果的に抑制する方法について解説していきます。

目次

① せん断変形と曲げ変形の特徴

まず、建物や部材の全体の変形量は、せん断変形と曲げ変形の合計値によって決定されます。

柱や梁のフレーム部材や建物全体の変形というのは、主に曲げ変形による変形が占める割合が高くなります。高層ビルのような細長い形状をイメージしてもらえばわかりやすいと思いますが、横力が作用すると「しなる」ような変形をします。この変形が曲げ変形です。

対照的に、低層の建物でフレームの中に耐震壁が配置されているような場合には、しなるような変形ではなく、平行四辺形のような形状に変形するイメージになると思います。そのような変形がせん断変形になります。

変形と密接な関係があるのが「剛性」になります。剛性とは、単位当たりの変形をするのにどれくらいの力を掛ける必要があるのかを評価したパラメータになります。

変形の種類にせん断変形と曲げ変形があるように、当然、剛性評価についてもせん断剛性と曲げ剛性の2種類があります。当然それぞれの算出方法は異なります。その算出に使う値からも、どういった要素が影響してくるのか、変形の仕方の特性が掴めてきます。

せん断剛性

公式としてはGA(または有効せん断断面積を考慮して GAs)で表されます。

  • G :せん断弾性係数(材料の特性)
  • A :断面積

せん断剛性は「部材の断面積」に直接比例します。そのため、変形を抑えるには部材を厚くしたり太くしたりして断面積を確保することが有効です。スパン(長さ)に対して断面が大きい部材(短小柱など)や、低層の建物において支配的になります。壁の多い低層のRC造がせん断剛性の高い構造の代表になります。

曲げ剛性

公式としては EIで表されます。

  • E:ヤング係数(材料の特性)
  • I :断面二次モーメント

断面二次モーメントI は、部材の「せい(高さ)」の3乗に比例する特性があります。そのため、断面積が同じであっても、部材の高さを高くしたり、材料を外側に配置したりする工夫(形状の工夫)によって、劇的に剛性を高めることができます。高層建物や、細長い部材において支配的になります。

② 変形の特性を踏まえた制振システム

大きな変形の特性をより理解するために、実践的な内容を踏まえて解説していきたいと思います。

地震によるエネルギーを効果的に吸収して架構の損傷を防止する「制振構造」ですが、この制振構造は変形することで制振機構を機能させることになります。

なので、変形の特性を理解して使い分ける必要があります。そのため建物の変形特性を踏まえて効果的な機構を選択します。

せん断変形型の制振機構事例

低〜中層建物や、各階の「層間変位(平行四辺形のような変形)」をダイレクトに捉えるシステムです。

  • 間柱型・壁型ダンパー: 柱と梁の間に設置した間柱や壁に、鋼材ダンパーや粘弾性体を組み込み、階高間のせん断変形によってエネルギーを吸収します。
  • ブレース型ダンパー: フレームの対角線方向に配置されたブレース(座屈拘束ブレースなど)が、階のせん断変形に伴って軸方向に伸縮することで、効率よく地震エネルギーを吸収します。

参考:ビーアップブレース工法(岡部)

曲げ変形型の制振機構事例

高層建物のように、建物全体が「しなる(曲げ変形する)」動きを捉えるシステムです。

  • 連層耐震壁の脚部ダンパー: 建物下部にある連層耐震壁が受ける曲げ変形(回転運動や引き抜き)に対して、壁脚部にダンパーを設置してその動きを制御し、エネルギーを吸収します。
  • アウトリガー制振システム: 建物の中心にあるコア部(耐震壁など)から周囲の柱へ梁(アウトリガー)を伸ばし、その接合部にダンパーを設置します。コア部の曲げ変形による回転運動を外周柱の軸力へと変換する過程で、ダンパーが効果的に機能します。

③ 変形を効果的に抑制するには?

制振構造との組み合わせからより変形の特徴を捉えられたと思うので、より一般的な設計における対応方法について解説していきます。

・耐震壁に取り付く梁の剛性耐力を高める

連層耐震壁は横力を受けると、根元から大きく回転しようとする(曲げ変形する)特性があります。

この耐震壁に隣接する梁(境界梁)の剛性や耐力を高めておくことで、壁が回転しようとする動きを梁が拘束してくれます。梁による拘束効果が働くことで、耐震壁単体の曲げ変形を抑え、建物全体の変形を抑制することが可能です。

耐震壁の剛性を高めようとすると「壁厚を上げる」イメージが先行しがちですが、すでに建物全体として曲げ変形が卓越している場合、壁厚をこれ以上上げても変形抑制の効果は小さくなります。架構全体の変形特性を正しく理解した上で、最適な対応策を検討する必要があります。

・軸剛性を高める

建物全体の曲げ変形(しなり)は、ミクロな視点で見ると「片側の柱が伸び、反対側の柱が縮む」という柱の軸伸縮によって生じています。

その変形を利用することで制振効果を期待するといった方法を前段で解説しましたが、耐震構造として変形を抑制するには、逆にその部分の剛性耐力を高めていくことが効果的です。

したがって、柱の軸剛性を高めることが曲げ変形の抑制に直結します。具体的には、特に建物外縁部に位置する柱の断面積を大きくしたり、鋼管コンクリート(CFT)など剛性の高い部材を採用したりすることで、建物全体のしなりを効果的に低減できます。

・フィーレンデール梁はどんな原理なのか?

トラス梁のように斜材を出さない代わりに、縦材と横材をすべて剛接合とすることで大スパンを飛ばす方法が「フィーレンデール梁」です。斜材がないため、意匠動線や開口部を柔軟に確保できるメリットがあります。

このフィーレンデール梁に鉛直荷重が作用すると、梁全体にせん断力がかかり、上下の弦材の間にできた四角いパネルがそれぞれ平行四辺形に変形しようとします。この「架構としてのせん断変形」に対して、剛接合された縦材と横材が、それぞれの部材の曲げ剛性によって抵抗します。

このときの力学的な挙動は、一般的なラーメン構造の建物が水平力(横力)を受けたときの挙動と相似形になります。そのため、縦材と横材の応力図を見ると、部材ごとに反曲点(曲げモーメントがゼロになる点)が現れる独特な状態になります。

斜材の「軸剛性」を利用する一般的なトラス梁とは異なり、フィーレンデール梁は鉛直荷重によって生じるパネルのせん断変形(平行四辺形の歪み)を、部材個々の「曲げ剛性」を利用することになっています。

まとめ:変形を読み解き、的確な「剛性」を配置する

今回の記事では、構造物が変形する2大要因である「せん断変形」と「曲げ変形」の特性と、それを抑制・利用するアプローチについて解説しました。

構造設計において、やみくもに部材を大きくするのではなく、以下の3つの視点を持つことが重要です。

  • 変形要因と剛性の関係: ひし形に歪む「せん断変形」は断面積($A$)に反比例し、しなるように曲がる「曲げ変形」は断面二次モーメント($I$)に反比例します。低層や壁の多い建物はせん断変形が卓越しますが、高層になるほど曲げ変形が支配的になるため、建物のプロポーションによって効くパラメータが変わります。
  • 特性に合わせた制振システムの選択: 地震エネルギーを吸収する制振構造は、建物の変形を利用して動きます。層間のズレ(せん断変形)が大きい建物には間柱やブレース型ダンパーが有効であり、全体がしなる(曲げ変形)高層建物には、コア壁の回転や外周柱の軸伸縮を利用するアウトリガー制振などが適しています。
  • 変形を効果的に抑制する「急所」: 建物全体の曲げ変形(しなり)を抑えるには、耐震壁の壁厚をただ増やすよりも、壁の回転を止める「境界梁の剛性アップ」や、しなりの原因となる「外縁部の柱の軸剛性アップ(断面積の増大等)」を図るほうが、効率的に変形を抑制できるケースが多くあります。

【理解度チェック】知識を定着させる〇×クイズ

この記事の重要ポイント、しっかり理解できましたか?3つの〇×クイズで腕試ししてみましょう!

問題1 建物の曲げ変形を抑えるための「曲げ剛性」は、部材の断面積に比例するため、材料をそのまま均等に太くすることが最も効果的である。一方、せん断変形を抑えるための「せん断剛性」は、部材のせい(高さ)の3乗に比例するため、材料を外側に配置する工夫が求められる。

解答1 :×解説:「曲げ剛性(EI)」が断面のせい(高さ)の3乗に比例し、形状の工夫(H形鋼のように材料を外側に配置するなど)で劇的に向上します。一方、「せん断剛性(GA)」は断面積そのものに直接比例するため、部材全体を厚く・太くすることが有効です。

問題2 高層ビルのように建物全体が「しなる」ような曲げ変形が卓越する構造物において、その変形を効果的に抑制して耐震性を高めるには、耐震壁の壁厚を極端に厚くするよりも、耐震壁に隣接する「境界梁」の剛性や耐力を高めたり、外縁部にある柱の「軸剛性」を高めたりするアプローチが有効な場合がある。

解答2 :〇 解説:建物が細長くなると、壁自体のせん断変形よりも「壁が根元から回転して倒れようとする(曲げ変形)」挙動が支配的になります。この回転を抑え込むには、壁の隣にある梁(境界梁)を強くして回転を拘束したり、建物の両端にある柱が伸び縮みするのを防ぐ(軸剛性を高める)ことが非常に効果的です。

問題3 斜材を持たず、縦材と横材の剛接合のみで構成される「フィーレンデール梁」は、一般的なトラス梁のように部材の「軸剛性」を利用して荷重に抵抗するのではなく、架構全体が平行四辺形に歪もうとする「せん断変形」に対して、各部材の「曲げ剛性」を利用して抵抗するメカニズムである。

解答3 :〇 解説:斜めに入るブレース(斜材)があれば、引張・圧縮という「軸力」で効率よく変形を止められます。しかし、フィーレンデール梁には斜材がないため、四角い枠がひし形に潰れようとする力(せん断変形)に対して、部材の接合部が踏ん張り、縦横の部材がそれぞれ「曲がる(曲げ剛性)」ことで耐えるという、ラーメン架構と同じ力学的な挙動を示します。

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